表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/35

油断

 剣をまず横に凪いで、二つに切り裂く。

 これでまずは少し、動けなくなっただろう。

 だがこれよりも念には念を入れて、と思ってさらに縦横に剣をふるう。


 この時地面からは軽く飛ぶ。

 けれどたかくは飛ばない。

 高すぎてしまうとその分の落下時間中、あまり身動きが取れないので的になりやすいという欠点もある。

 

 もっとも空中をうまく自在に動けるのが前の世界の仲間や俺だったのでそのあたりはハンデにならないが、そのあたりも含めてそういった魔法を扱う能力があると知られるのはあまりよろしくないからだ。

 能ある鷹は爪を隠すというが、俺もスローライフのために頑張って能力は隠すつもりだ。

 そう思いながら再度念を入れて切り刻んでおく。


 俺が周囲に来た時にいつもならば防御用の刃が飛んできたはずなのだが、これには存在していないようだった。

 異世界で同じものを作り出すのは、“材料”面でも難しいのかもしれない。

 だが、地面に落ちているそこそこ大きな塊の山を見ながら、


「これで終わりだ」


 そうエイダとレオノーラに振り返り告げる。

 するとエイダが、


「やっぱりいつみてもその剣は“異常”だわ」

「……これは俺が特別に魔法を使って作っているものなので詳しいことは秘密です」

「独自魔法……そしてこの威力。どういった概念やら何やらが使われているのか……う~ん……!」


 そういってエイダがまじまじと見てくるので、俺はとりあえずその魔法を解いた。

 やはりこちらの手の内はあまり知られたくない。

 レオノーラも今の剣に興味があったらしくふてくされている。


 とはいえ、親玉も倒してしまったしこれで今回の戦闘は終了だ。

 後は、残っている“闇ギルド”の連中から話を聞き出せばいい。

 ただ……俺としては気になることがある。


 あまりにも呆気なさすぎるのだ。

 何か罠を張っているのではと思って周りを索敵してみたがその範囲では見つからない。

 さらに遠距離で俺たちの様子を観察している可能性もあるが、それ以上先になると後は、町の中に入ってしまい特定が難しい。


 といっても遠方を監視する魔法をたどり、どこにいるかを探知することもできる。

 俺はすぐにそういった操作に魔法を変えて、すぐにこちらを監視している人員を見つけた。


「俺達を観察している人間が町の方にいる。それを捕まえて話を聞いた方がいいだろう」

「! どこにそんなものが」

「こちらを見るための魔法をたどっただけだ」

「……偽装はされていなかったの?」

「解除した」


 俺がそうエイダに答えるとそれ以上何も聞いてこなくなった。

 納得してくれたのだろう。

 そう俺が思って踵を返して町の方に戻ろうと俺はした。のだが。


キィイイイイイイ


 耳障りな音がして、背後で赤い光を感じる。

 同時に魔力が膨れ上がるような気配がして俺は振り返る。

 そこには先ほどの親玉が元の形に戻ろうとしているのが見えた。


「自己再生機能がついていたのか!」


 前と違うと俺は思っているとそこ依然見たことのやるような刃がこちらに飛んでくる。

 慌てて俺が防御の魔法を展開しようとしたところで、黒い雷のようなものがその親玉に降り注いだのだった。





 雷が降ってくる。

 それも黒い力だ。

 以前の世界では戦わねばならなかったその力が、今回は俺たちの“味方”であるかのように降り注ぐ。

 

 それと同時に黒い煙のようなものがその親玉の所から吹き上げていく。

 黒々としたそれだが周囲に広まり霧散していく。

 そして段々にこの親玉の形が変化をしていく。


 アイスクリームが溶けていくように、崩れ落ちていく。

 再生する機能すらも止まってしまったようだ。

 子の親玉に使われている“闇の魔力”を使った機能が“停止”しているのだろうか?


 そう俺が思っているとそこで、崩れ落ちる親玉の後ろに、一人の少女が見える。

 白いドレスのようなフリルの付いた服に金色の刺繍が施されていて、髪は濡れたように長く黒い漆黒、そして鮮やかな赤い瞳で紙に赤い石の飾りをつけている少女だった。

 しかも恐ろしく静かで美しい。


 レオノーラがかすむような少女だった。

 彼女は無表情にその場所に立って、崩れ落ちていくその敵を見ていて……そこでようやく俺に気づいたらしい。

 不思議そうに俺の方を見て、それから完全に親玉が消えた所でまっすぐに俺の方に歩いてくる。


 ゆっくりとした足取りの彼女。

 どういうつもりか? 敵か味方か? そう俺は考えながらも様子見をしていると俺の目の前に立ち、じっと俺の方を見てから彼女は一言呟いた。


「プロセルピナちゃんのにおいがする」

「え?」

「……」


 そこでそう呟いたかと思うと目の前の美少女が俺に抱きついてきた。

 女の子に抱きつかれるという未知の体験をした俺は、どうすればいいのか分からずに凍り付いた。

 どうしよう、どうすれば。


 固まっている俺のすぐそばでエイダとレオノーラが声をあげていたが、そんなものは気にも留めず、少女は俺の胸に顔をうずめて、顔をこすりつけるようにして、


「……あんしんする、かも」


 そう俺に告げると同時に、彼女は倒れ込むように俺に体を預けたのだった。










 突然現れて抱き着いたまま倒れた少女。

 とりあえずこのまま放置しておくわけにもいかず、襲撃のあった宿屋に一度戻ることにした。

 とらえておいた“闇ギルド”の連中の件もあるが、屋内でこの少女を休ませた方がいいのではといった話になったのだ。


 どのみち監視は続いているようなので、どこでも俺たちは襲われる危険性があるのと、先ほど親玉を倒したので次の作戦を彼らも練るだろう……といった安易な考えからいったん宿に戻る。

 案の定、捕らえておいた“闇ギルド”の人達は姿が消えていた。

 とりあえず俺は部屋に戻り、手助けしてくれた彼女をベッドに横たえる。


 随分と疲れ切っているらしい。

 起きるまで様子を見用と俺は思ったがそこでエイダとレオノーラが、彼女の顔を覗き込む。

 部屋に連れてきて明かりをつけたので、彼女の姿がよく見えるようになったから、気づいたらしい。


 二人してこの少女の顔をじっと見て、うめいている。

 だから俺は二人に、


「どうしたんだ?」


 それに答えたのはエイダだった。


「……この子、プロセルピナ様と対になる、ハデス様によく似ているの」


 そう答えたのだった。


読んでいただきありがとうございます。評価、ブックマークは作者の励みになります。気に入りましたらよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ