表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/35

平穏なスローライフを

 こうして異世界に飛ばされた俺は、現在、土の香りがただ用草原の中を走る一本道に立っていた。

 少し離れた場所からは森が見える。

 そのさらに遠くには青みがかった山脈が見える。


 人気のない森の奥の道に始め落とされてしまうのは、以前も経験したことがある。

 それからしばらく歩いて行ったら、お城の人が迎えに来たのだが……。


「あの女神、プロセルピナの様子を見ている限り、世界の危機に瀕して急いで勇者を召喚した、といったわけではなさそうなんだよな」


 そう俺は呟きながら周りを見回す。

 風に運ばれてくる空気……魔力の気配を見る範囲では、前回の償還の陰惨さが感じられない。

 周辺にも敵の現れる様子もない。


 前回の召喚、あの時の戦闘の感覚がまだ俺の中に残っている。

 だから今いる場所は現時点で安全だと分かる。

 そういえばまだ様子がよく分かっていないようなことも、女神様は言っていたので、“平和”な状況なのかもしれない。

 

 それに気づいた俺は一回頷いてから、


「これならば大変なことに巻き込まれず、ゆっくりとスローライフができるかもしれない。意味深なことを女神さまは言っていたが、余裕だな。……さて、そうするとまずはお金が必要か……この世界で生活しないといけないからな。この世界の生活がどんなものかは分からないが、売れそうなものは一通り見ていくか」


 そう思って俺は、周囲にめぼしいものがあるかを探していく。

 よく見てみると幾つか、自然結晶化した魔力の結晶たる“魔石”が見て取れる。

 質もそこそこいいようだ。


 ただここは通り道であるのか、よほど人里離れているのか、採りに来てはいないようだ。


「なかなか質のいい……これは土系統の魔石だな。自然のものよりも魔物の方が魔力能力されて純化されているから、そちらの方が前の世界では値段が高かったがこちらの世界ではどうか?」


 この魔石を売ってしばらくスローライフに入る前の段階、この世界の状況の見極めと生活基盤をどうするかを考えないといけない。

 これでどれくらい生活ができるだろうなと、少し歩いた先にある地面を掘り起こして出てきた魔石を手にチート能力を使う。

 基準となる人間のいる村は直近でいいとして、物価なども簡単に見ていく。


「これなら三つくらい集めれば、一月程度は贅沢をしなければ宿に泊まれそうだ。……俺は大変なことはしたくない。だらだらと過ごす」


 そう決意を新たに周辺にある魔石を掘り上げていく。

 他に売れそうな薬草やキノコなどをいくつか手に入れる。

 学校カバンの中にたまたま入れていた買い物袋用のエコバックにそれらを放り込んで俺は……道に戻ってきてからどちらに進もうかを迷った。


「……こういったときは木の枝がどちらに倒れるかで考えるべきだな。この世界ではスローライフができますように、平穏な生活ができますように……あとは出来るなら可愛い女の子の恋人ができたら……」


 などとよこしまな思いを抱えつつお願いしながら木の棒を倒す。

 そしてそちらの方向に道を歩くことに時間ほど。


「こんのおおおおお」


 魔物に襲われる、一人の少女と俺は遭遇してしまったのだった。

 





 長閑で普通のハイキングコースを歩いているような山道を進んでいた俺。

 特に魔物に遭遇することもなく、暖かい日差しを受けながら今度こそ平穏な異世界生活を堪能できそうだと楽観視していた。

 だが、ここにきて少女の声と、魔物? らしきものに襲われている。


 頭まで暗い赤いフードで覆われていて顔はよく見えないが、動きは鈍く、どうやら怪我か何かをしているらしい。

 とはいえ、なかなか高い魔力を持っておりそこそこ戦闘慣れしているようだった。

 そんな彼女に相対しているのは、灰色の石と肉で作られたゴーレムのようなものがいるが……これがこの世界の標準の魔物なのかもしれない。


 ただあの肉体から沸き立つ黒い魔力は何だろうか?

 以前いた世界の呪いとも呼ばれる魔王の魔力にも似ているが、あれのような意思は感じられない。

 そう思いながら見ているとそこで炎をその魔物は噴き出す。


「きゃああっ!」


 悲鳴が聞こえた。

 どちらかというと、劣勢のようだった。

 加勢すべきか。


 俺は迷う。

 まだこの世界で俺はそこまで実力を知られているわけではない。

 だったら、このまま空気のように存在することで目立たずスローライフをできるのではないか?


 前の世界の出来事は非常に大変だった。

 だから穏やかに過ごしたいと俺は思う。

 そんな躊躇している間に、商人らしき馬車がやってきて、彼女に築いたらしく護衛の人たちなどが加勢している。


 魔法使いもいるらしく氷の魔法などを使っているようだ。

 これだけの人数がいれば、俺が加勢しなくても大丈夫だろうと、罪悪感が薄れるのを俺が感じた。

 その時だった。


ガァアアアアアア


 耳障りな咆哮が響く。

 あの魔物が叫んだらしい。

 だがそれが合図となったかのように氷の魔法が先ほどの少女たちに降りかかる。


 耳をふさぎたくなるような爆音と砂煙。

 それが晴れた時に立っているのは少女一人だけだった。

 思いのほか強い魔物のようだった。


 彼女一人では荷が重いかもしれない。

 だがそんな魔物を倒せる実力が俺にあると知れたらどうなるだろう?

 ふと湧いて出た疑問に足が止まる。


 自分自身では最低な自覚のある思考が浮かぶ。

 だが戦闘というような命の危険を伴う場所に俺は戻りたくない。

 そもそも俺は強制的にこの世界の呼ばれたのだ。


 だから手助けする義理はない……ない、はず。

 そこまで考えて俺は深くため息をついた。

 俺は、自分自身の性格はよくわかっていた。


 ここで彼女達を見捨てて、意識がこちらに向かないうちに逃げてしまうのも可能だろう。

 けれど、前の世界で力の分からない時に、自分に力がないのを後悔したことがある。

 そして今は、何かを成せる力がある。


 これが知られてしまえば、俺の望んだスローライフは手に入らないだろう。

 だがここで一つだけ方法がある。つまり、


「敵を倒してあそこに倒れている人たちを回復させて……何も言わず全力でその場から逃走する! よし、それでいこう!」


 俺は妙案を思いついたと頷き、心おぎなく魔物を倒そうと思った。

 この世界の魔物の構造は、以前の異世界と同じかどうかわからない。

 だから魔力の変化などを走査する。


 チート能力を使いそれを行い弱点部分を見つけてまずは、


「小手調べだ。“炎の槍”」


 槍状の炎が数十本生まれる。

 目標は既に設定されているため後は、


「“行け”」


 そう指示を出し、この世界で初めての攻撃魔法を使ったのだった。


読んでいただきありがとうございます。評価、ブックマークは作者の励みになります。気に入りましたらよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ