情報の共有
霧が出てきた、レオノーラのその呟きに俺は嫌な予感を覚える。
すぐに俺を中心に周囲10キロメートルの範囲指定で索敵を開始する。
魔力の密度、その発生源、そしてすでに生成されている……。
「……町を蹂躙する気か」
「ソウタどうしたの?」
エイダがそう俺に聞いてくる。
レオノーラも不思議そうな顔をしているあたり、事態の“深刻”さに気づいていないらしい。
と、いうよりは、
「はじめからこの“闇ギルド”の連中は小手調べ用に襲わせただけか。本命はこちら。そう、俺だ。俺を起こして“気づかせる”ことが目的か……。そうだよな“俺”がいるかもしれないとなったら、俺を引きずり出して叩きたいか。それ用に強力な魔法を使う……」
嫌というほど味合わされた手口に俺は呻く。
だが、気づいてしまって、そしてこれを放置した場合のこれから起こる被害も予想出来て……俺には今それをどうにかする力がある。
自分の力を過信しすぎているとか、危険に自ら飛び込むのはよくないとか、俺だって考えないわけではない。
スローライフがしたいという夢だってある。
だが、まだ自分の力を知らず、“無力”な時に出会った時のあの苦い後悔をまた味わうのはもう嫌だ。
お人好しだと言われてしまうこともあるが……自分の保身のために、見なかったことにする処世術は俺だって身につけている。
俺がどうにかできる範囲の事だから、そう動くだけだ。
そう自分に言い聞かせて、戦う決意をする。
そして、まだ気づいていない二人に情報共有するために声をかける。
「索敵情報の“同期”を二人にもしてもいいか?」
俺が問いかけると二人は首をかしげてエイダが、
「“同期”って何?」
「情報の共有をお願いしたいんだ。そうすれば話すよりもすぐにわかる。急がないといけない」
「……わかったわ。何かを見つけたのね」
そうエイダが答えて、レオノーラも頷く。
だから今見つけた“情報”を二人に俺は“同期”する。
脳内に映像を投射する方の魔法だ。
二人程度の少ない人数だからこれでいい、そう俺が思っているとそこで、
「ええ!」
「うぬ!」
二人して驚いたように声を上げた。
だいたいの状況が二人にも通じたのだろう。
だから俺は、
「今のうちにこの……霧に隠された“怪物”達を倒しに向かおうと思う。早めに処理をしないと……すでに一部、町が彼らの“領域”に飲み込まれかかっているがこの程度なら押し戻せる。中にいる敵を倒せばその分霧の“領域”は減っていくはずだから」
「そ、そうなの。でもよくそんなもの知っているわね」
「前の世界でもあったしな。それに霧の周辺に以前の世界の“魔王”と同じような魔力やら何やらも感じる。操っているのが分かるだろう?」
「……言われてみれば確かに。よく分かったわね」
「前の世界で嫌な目にあったからな。そしてわざわざこれを使ってきたのは“俺”をおびき寄せるためかもしれない。彼らにとって俺は面倒な敵だから」
そう俺が答えるとエイダが、
「やっぱりあなたがミシェルの言う“英雄”何じゃないかって気がするのよね。貴方を狙っているようだし」
「……俺は違うと思うし違っていて欲しい。……部屋に置いてある必要なものをとってくる。それくらいの時間はあるだろう」
「私達は荷物を持って出てきたわ」
「用意がいいことで。……とってくる」
そうエイダに答え、俺は一度部屋に戻りカバンをとってきたのだった。
かばんを部屋から回収した俺は、エイダ達と一緒に走り出した。
目的は、今回の霧の中に潜み、霧を生み出している存在だ。
ただ以前の出来事を思い出してみると、
「まずは“同期”した内容……ここに俺たちの位置情報を組み込んで……青い光で三つ表示されるのは分かったか?」
そう俺がエイダとレオノーラに問いかけると、エイダが呻くように、
「それは分かったけれど、こうやって表示を“見る”と変な感じがするわ」
「一応は任意で出し入れできるようにしてあるはずだ。閉じろ、と念じてみてくれ」
「……消えたわ」
「出したいときは開けと念じてくれ。レオノーラはわかるか?」
「うむ」
そういった話をしてから、再び敵の位置を頭の中に浮かび上がらせるようにしてもらい、
「まずは青い点がそれほど散らばらないように動いてくれ。ばらばらになると、お互いに補佐出来なくなる」
「そうね。この霧でも私達はこの映像で位置がわかるわ」
「そして後はこの小さい青い色の“子機”の方を先に倒してもらいたい」
そう俺はエイダにお願いする。
以前経験したあの敵ならばこうなるだろう、という予測の元にお願いをした。
そこでエイダが、
「でもその“子機”を操っている敵を倒してしまった方がいいんじゃないの?」
「“子機”を倒す前に司令塔の親玉を倒すと、別の“子機”が合体して親玉になるんだ。……親玉は一定時間で“子機”も増やすから面倒ではあるが、先に“子機”をすべて倒し切らないと新しい親玉ができるだけなんだ。その親玉とその親玉が生み出した“子機”を場合によっては同時お新香で倒さないといけない」
「……嫌な敵ね。どんなものなの?」
「確か前は、円筒形の石に赤い文様が浮かび上がった物体だった気がする。ただ、あちらの世界の素材を使ってそうなったものだから、こちらの世界でもそうなるかは分からないが。そしてキリに紛れながら、刃物を使ったり雷撃、炎を使ってきた記憶がある。防御は……そこまで高くはなかった。近くまで入り込めば、簡単に真っ二つにできたから」
そう俺はいいつつ、それは俺の、あの魔法ができるようになったからだというのは伏せた。
まだまだこちらの手の内は見せたくないし、こちらの力を知られると……スローライフから遠ざかる気がするからだ。
そもそもこんな面倒なことをせずとも全体攻撃的な魔法で、この“子機”はどうにかできるが、ここは黙っておこうと思う。
できる限り穏便に事を終わらせて、俺は平穏な暮らしを手に入れたいし、俺だと“闇ギルド”と呼ばれる、前の世界の残党であるだろう彼らに、“俺”だと確信はあまり持たれたくない。
それに女神さまが仕込んだ知恵の輪のような、俺が元の世界に戻れないようにされている拘束を何とかしたい。
そう俺が思っているとそこでレオノーラが、
「この青い小さいのを全部倒せばいいのか?」
「そうだ」
「では、妾に任せてもらおうか。……お主ならば一気に倒すような何かを“知って”いそうだが、この世界の魔法でもどうにかなることを見せてやろう」
「どうする気だ?」
「うむ。この辺りは地下に水脈が通っておってのう、地面に近い場所でもそれらが結構あったりするのじゃ。そして妾は水流の上位流。その程度の水脈は操れる」
そうレオノーラは俺に笑ったのだった。
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