周囲
何気に大変だった一日を終えて、俺は心地の良いベッドで眠りについていた。
暖かい布団にくるまり心地の良い眠りをむさぼっていた俺。
本当はこのまま眠っていたかったのだが……。
「前の世界の癖で、周囲に探知結界を気づかれずに張っていたが、それがよかったのか?」
そう呟いてベッドから起き上がる。
服を着たまま眠っていたのは良かったかもしれない。
着替える手間が省けた。
「気配からするとあの“闇ギルド”の人物たちだな。ひいふうみ~、ざっと七人くらいか。それほど多くないが、こんな深夜に宿の前に集まっているが……これからハイキングに行くという雰囲気ではなさそうだな。……音声をオンにするか」
探知魔法に音声をこちらにつなげる魔法を組み合わせる。
すると声が聞こえた。
『……様が言うには、我々の最も危険な敵がここにいるらしい』
『本当か? だが仲間を捕まえたのはあの“姫”だろう?』
『そうなんだよな。あの“姫”は強いといっても、あの方ほどではない』
『そういえば竜を封印していなかったか? そいつの事じゃないのか?』
『竜……あの方は、竜程度なら簡単に倒してしまわれていたぞ』
『竜といってもピンキリだろう。それよりもその“姫”を……暗殺しなければならないが……』
どうやらエイダ達を暗殺しに来たらしい。
物騒だなと俺は思いつつ、隣の部屋で誰かが起き上がるのを感じる。
ようやく異常に気づいたらしい。
反応速度はなかなかだな、と俺は思いながら立ち上がり、
「この世界の武器も買っておいた方がいいかもしれないな。その方が“普通”に倒せる。……今日の朝いちにでも武器屋に飛び込むか」
そう今日の予定を立てながら大きく深呼吸を俺はして、床を蹴る。
窓には鍵をかけていなかったのは、いつもの癖だ。
大抵の敵は、宿の前でご丁寧に一度集まるのだ。
一番危険を感じたのは、寝室に突然敵が飛び込んできた時だったと俺は思い出しながら、体当たりをするように窓の外に飛び出る。
バンッ
大きな音がして窓が開かれ、突然飛び出してきた俺を、下にいる“闇ギルド”の人物たちが唖然としてみている。
大まかに目測して、七人。
探知の魔法で判断した人物たち全員がここにいるらしい。
俺の宿の階は三階だが、魔法を使えばこの程度の高さは……余裕だ。
そう思いながら彼らの隙間を縫うように俺は地面に降り立ち、そして、
「さて、俺の睡眠を邪魔した罪は、償ってもらわないとな」
「な、何で気づいて……妨害の魔法も……ぐほっ」
そこで驚いたように解説を始めた人物を軽く殴って昏倒させた。
来ているものは昼間の“闇ギルド”の人物たちと同じような装備らしい。
昼間の戦闘でだいたいどれくらいの攻撃で相手が倒れるのかを感覚で掴んでいる。
後は肉体強化と、至近距離の攻撃魔法で処理をする。
命のやり取りをしないといけないほど強い相手ではないので、適当に倒していく。
風の魔法を彼らが何かをする前にぶつけ、それだけでは倒れそうにない人間を強化した手で軽く殴り倒す。
五人ほど倒した所で、窓からエイダとレオノーラが顔を出し、
「ソウタ、大丈夫……みたいね」
「ああ。後二人で終わりだから……とりあえずは倒した後でどうするか話し合おう」
そう二人に俺は話しかけて、残り二人を魔法で昏倒させたのだった。
こうして七人ほど昏倒させた俺は、その人物を縛り上げていく。
その頃にはエイダ達も下の階までやってきていた。
「……こんなにあっさり倒すなんてね」
「この程度なら何とかなる。というか、下っ端じゃないのか? 今回襲ってきたのは」
そう俺が聞くとエイダが、
「ええ……でも、防御の能力も高くて苦戦するような相手ではあった気がするけれど」
「この程度の防御は、そこまで強力じゃないからな。っと。よし、これで全員縛り上げたな。そういえば俺が押し付け……ではなく、お願いしたこの前の二人はどうしたんだ?」
「貴方に押し付けられた湖にいた二人は、話を聞き出してここの町の自衛団に引き渡しておいたわ」
「はい、ではこの七人もその自衛団に連れていくか?」
「そうね。話を聞き出すのが先だけれど」
そう言ってそのうちの一人をエイダが軽く揺さぶって起こす。
うめき声をあげて、そのうちの一人が目を覚ましたようだった。
「う、ぐ……な……」
「さ~て、早速話してもらいましょうか。こんな深夜に襲い掛かってくるなんて、おもしろいことをしてくれるじゃない」
「ど、どうする気だ」
「まずは知っていることを話させるだけ」
「俺たちが素直に話すと思うか?」
などと笑いながら言い出した男たちだが、そういえばと俺は思って……先ほど聞いていた音声を再生した。
『……様が言うには、我々の最も危険な敵がここにいるらしい』
『本当か? だが仲間を捕まえたのはあの“姫”だろう?』
『そうなんだよな。あの“姫”は強いといっても、あの方ほどではない』
『そういえば竜を封印していなかったか? そいつの事じゃないのか?』
『竜……あの方は、竜程度なら簡単に倒してしまわれていたぞ』
『竜といってもピンキリだろう。それよりもその“姫”を……暗殺しなければならないが……』
魔法で音声記録も一緒にやっておいてよかったと俺は思いつつ、凍り付いたようなその男の様子を見ながら、
「それでお前たちが危険だといっている敵は誰だ?」
「し、知らない。俺たちは宿にいる魔力の強い人物、仲間二人を倒した人物を暗殺して来いと言われただけで……」
「それ以上は知らないのか?」
「し、知らない、それは本当だ!」
焦ったようにそんな風に叫びだしたこの男。
だが危険な敵であり、暗殺しないといけない相手。
もしも……前の世界のあの“魔王”に関する者たちの残党であれば俺は危険人物とみなされるだろう。
同時に彼らが関わっているならば、面倒なことになるだろう。
彼らはこの世界の人間ほど平和ボケしていない。
どうしようか。
俺はそう考えつつもそこである疑問を覚える。
「……手ぬるすぎないか」
「どういうこと?」
エイダが俺の言葉に反応する。
だから俺は、
「いや、この程度の人間たちで俺やエイダを襲うのはどうかと思ったんだ。暗殺と言っていたし」
そう俺は返しておく。
彼らに関してはまだ言わない方がいい。
ここにいる男たちも話を聞いているのだから。
だが話は聞いておかないと、そう俺が思った所でレオノーラが、
「……妙じゃな。微かに魔力を感じる、霧が出てきた」
そう、遠くを見るようにつぶやいたのだった。
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