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後悔はしたくない

 どうやらこの世界は、俺が存在を疑っていた“闇の魔力”を操る神がいるらしい。

 神様といっても実のところ俺たちのようなチート能力持ちと似た部分があり、それぞれに個性的な能力があったりする。

 得意、不得意分野もあったりする。


 だから“魔王”といったその“魔力”であっても扱える女神がいてもおかしくはないのも理屈で分かっているが、やはり俺自身思う所はある。

 そう俺が思っているとそこでエイダが、


「でもエイダ様が操っているはずの“闇の魔力”がどうしてこんなにそこら中で溢れているのか、それがとても気になるのよ」

「その女神が“裏切った”のか?」


 そう俺が聞くとエイダは、


「それはないと私は思う。前に神殿にいた時、いつも通りイチャイチャしているのも聞いたし」

「そうなのか……あれ? ハデスとプロセルピナは、どちらも女神なのか?」


 そこで俺は何かを聞き間違えたような気がしてそう聞き返すとエイダは、


「そうよ、それがどうかしたの?」

「イエ、ナンデモナイデス」

「そう、それで私の家族が大変なことになったのもあるのだけれど、調べていくうちに“闇ギルド”が関与しているのが分かってね。それで探していたのよ」

「そうなのですか。では倒してお任せしたのは正解だったのですね」

「ええ、ある意味正解である意味間違っているわ。私、力の強い協力者が欲しかったら」


 そうエイダが言い切ったのを聞きながら、俺は、俺の力が狙われている、スローライフが……と心の中で思いながら悲鳴を上げていると、


「そもそもこの異常を解決するために、女神さまは異世界人を呼んだのでしょう? 湖の件もそれがあって動いたのでは?」


 エイダがそう言ってくるが俺としては、


「俺、無理やりここに連れてこられたので、元の世界に戻るためのヒントを探さないといけないんですよ。ちょっと制限がかけられていまして。それが終わってからお手伝いというわけにはいかないでしょうか」


 この変な拘束のおかげで俺は元の世界に戻れない。

 だからそれを探すのに忙しいので、そちらの方のお手伝いはできませんと暗に言ってみる。

 するとエイダは、


「わかったわ。それを解くのを手伝うから、私の方も手伝ってほしいの」

「いえ、俺は自分の事は自分で何とかしますので」


 そう返すとエイダが俺の方を見て、


「お願い、力を貸して。私、私の家族を助けたいの!」

「う……え……」

「私を逃がすために両親が彼らに“囚われて”しまって……でも、私一人では……それに異世界人ならチート能力があって、この件にも対処できるだけの強い力があるのでしょう? お願い、私一人ではもう……」


 そう言ってエイダは手を握ってくる。

 だから顔が近い……そう俺は思いつつも、今の話は全てエイダの本心から来ているものらしいと魔法の関係で分かる。

 詳しい事情を聞かなければ、それほど気にせずに逃げてしまえたかもしれないが、俺は今目の前のエイダに必死にお願いされてしまった。


 多分、とても大変なことになるのは分かっている。

 けれど、今は俺にはきっと、手助けできる力がある。

 保身に走ってもいいのだが、俺はもう、後悔はしたくない。


 そう俺は考えて深く息を吐いた。


「……俺のできる範囲で、少しだけなら」


 俺はそう返したのだった。






 手伝ってほしいと頼まれた俺。

 大変なことに巻き込まれるのは嫌だ、というのは本音だ。

 それに無理やりこの世界に連れてこられたのも気に入らない。


 だから、ゆっくりしたかったのもある。

 そしてスローライフを目指すために俺は、俺なりに考えて行動した。

 それはたぶん間違っていない。


 他には、見て見ぬ振りができなかった、それも間違っていない。

 完全に誰ともかかわらずに何かをする、それが難しいのだからこれらは仕方がない。

 やはり一番の原因は、“運が悪かった”という所だろうか。


 これならあきらめがつく。

 それに、この世界はまだ前の世界のように、生きるか死ぬかのほぼ二択のような切羽詰まった状況に陥ってはいない。

 俺が普段生活している世界が魅力的に思えるくらい平和だから間違えそうになるが、この世界は前の世界と比べて十分に“平和”だ。


 だったら、少しくらいはいいだろう……そこまで大変なことにはならないだろう、そう俺が思っているとそこでエイダが笑顔になり、


「本当! 助かったわ!」

「でも俺が危険だと判断したらひくからな」


 そこだけはくぎを刺しておく。

 危険すぎることには俺にとってだけではなく、エイダにとっても危険だからだ。

 引き際を間違えるとそこにあるのは“死”だ。


 そう思っているとそこでエイダが俺の手を握りながら頷き、


「わかっているわ。“闇ギルド”の連中に貴方が負ける光景が全く想像つかないけれど」

「……油断は禁物だ。それにその“闇ギルド”だったか? 前の世界で見たことのあるような魔法を使っていたのが気になるんだよな」

「前の世界? それって、“ミシェル”って異世界人と同じ?」


 そこで、どこかで聞いたことがあるような名前の人物がエイダの口から出てきた。

 俺は嫌な予感を覚えた。

 この予感は当たる。


 だってよくない予感は、いつも当たっていたのだから……と思って俺は凍り付きそうになりながら、


「一つお伺いしたいのですが、その“ミシェル”という人物が来た異世界の神様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「確か、ツクヨミ、だったかしら」


 俺はそれを聞きながら嫌な予感をさらに覚える。

 だが、“ミシェル”という人物は何人もあの世界にいたはずだ。

 だから俺はあの人物かどうか確認する作業に移る。つまり、


「それは、脳筋美少女魔法剣士の“ミシェル”だったりしますか?」

「自己紹介では、美少女魔法剣士と言っていたわね。“闇ギルド”に襲われたときに助けてもらったの。確か剣技だけで魔法を消し去ったり切り裂いているって言っていたけれど、あのからくりだけは全く分からなかったわ。魔法が発動している形跡はなかったし」

「……やっぱりあいつだ」


 俺はつい、そう漏らしてしまった。

 自分の事を美少女魔法剣士と言って剣技で魔法を消し去れるあの世界の人物は一人しかいない。

 ちなみにもう一つ特徴があったとするなら、


「その脳筋美少女魔法剣士は、自分の事を“ボク”と言っていたりしないか?」

「ええ、そうよ」

「確定だな。あいつだ。でもあいつがこの世界に呼ばれたなら、放っておいても何とかなるんじゃないのか?」


 俺はそう思ったことを口にしたのだった。


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