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町に戻ったものの

 こうして俺は、湖の方の水がおかしくなっている原因について排除……のようなことをしてきた。

 これで湖の水もいくらか元に戻るだろう。

 水竜の彼女もいることだし。


 それに少量だが、“闇の魔力”が混ざった水も体にあまりよろしくない。

 それも彼女が処理をしてくれるだろう。

 だから今のうちにそういった対応ができてよかったと思う。


 後は“闇ギルド”に関してだが。


「そちらももう一人の……名前を聞いていなかった彼女がなんとかしてくれるだろう。封印された水竜のレオノーラを連れ出して、“闇ギルド”という何か大きな物語が始まりそうな連中も適当に倒して押し付けたから、これで大丈夫なはずだ」


 俺はそう呟いて小さく頷いた。

 大変なことは全部他の人にお任せしたから、俺の方には来ないだろう。


「徹底的に“巻き込まれ主人公”フラグは折っておいたから俺は、この世界でスローライフをするような平凡かつその他大勢の異世界人になれたはずだ」


 そう自分自身で現在の状況について呟き、俺は一人頷く。

 現在俺は、先ほどは知ってきた道を戻っている最中だった。

 しかも遠目で町が見えていたから、それほど経たずに戻れるだろう。


 そろそろ速度を緩めてもいかもしれない、と思い俺はそこから徒歩で移動することにした。

 町に移動していくたびに人も多くなっていく。

 そういった意味もあって俺は町に向かい、入り口の部分でギルドカードを見せて確認してもらい中に入れてもらう。


 まだお昼になったばかりの頃の太陽の位置だと、ちらりと空を確認した俺は、昼食を食べに何処かのお店に入ろうとした……のだが。


「おお、そこにいるのは昨日の異世界人ではないか」


 唐突に何者かに声をかけられた。

 だが、その声は俺にとっては好ましくないものだった。

 恐る恐る振り返りそこに立っている人物達を見ると、やはり俺の予想通りの人物だった。


「……隊長。どうしてこちらに」

「食事をしに来たのだが、偶然君が歩いているのを見てね。……今日は水を生み出す日雇いの仕事に来なかったが、何か別の仕事でも探していたのかね? 少し厳しくしすぎただろうか」


 そう悩むように隊長に言われてしまうと俺も、


「い、いえ、ちょっと湖の水が減っていると聞いたので様子を見に行ってきただけでして」

「そうか。ふむ、それでどうだった?」

「ええっと……」


 どうだったと隊長に聞かれたので俺は、先ほどまであった出来事を思い出したものの、それを話した時点で俺は何かの“関係者”になってしまいそうな気がした。

 その話は絶対にしてはいけない、俺の平穏な異世界ライフのために、そう俺は思いながら、


「確かに水が減っていましたが、俺の力ではいっぱいにするのはやはり難しかったので戻ってきました」

「なるほど、そうか……そうか」


 隊長は頷きながら、けれど意味ありげに俺の方を見る。

 何が言いたいんだろう、そう俺が思っているとそこで隊員の一人が、


「せっかくですから一緒にお昼を食べに行きませんか。美味しい所を知っているのです」

「え、俺はその……」

「人気の穴場スポットですよ」


 そう言われ、俺はなし崩しに隊長たちと一緒に昼食を食べることになってしまったのだった。







 こうして俺は騎士団の人達に誘われるようにして、昼食を食べに行くことになってしまった。

 誘われたのを断り切れなかったのと、やはり美味しいものと言われると食べに行きたくなってしまったからだ。

 やってきた場所は、とんかつのような揚げ物のお店だった。


 程よい揚げ具合のその謎肉は、かむと肉汁があふれる柔らかい仕上がりで非常に美味だ。

 また来たいとも思える味だった。

 食事の話などで盛り上がったりしつつ楽しい昼食会を終えた俺だが、彼らと別れて何かがおかしいと気づく。


 なんだろうと俺は思ってそこで気づいた。


「……明日は日雇いの仕事であの水を作る所に行く約束をしてしまった」


 そもそも湖があのレオノーラたちによって、すでに回復の兆しを見せていることだろうが、一気に回復させるとなると、濁流になって川が増水したりとあまりよろしくないことになるのかもしれない。

 だからしばらくは、水を生み出す仕事はなくならないのかもしれない。

 とはいえ、さきほどの状況を思い出して俺は、頭を抱えたくなった。


「話をしているうちに断れない雰囲気が作られた気がする。いや、変わった話も聞けて楽しかったが、いや、これはないだろう」


 そう呟きながらも、年を取っている分俺のような若者を巻き込む手腕が、あの隊長にはあるのかもしれない。

 やられたと思った俺だが、


「……明日一日くらいなら、何とかなるだろう。そうしたらこの町を出よう。……念のため、今日の宿は変えよう。どこに行こうか」


 俺はそう呟いて、その場から移動を開始する。

 まずは今日の宿だ。

 外に値段の書かれた看板が置かれているため、見やすいといえば見やすいのだけれど、


「立地条件などを考えるとあの宿のお値段は安くて質がいい……どうするか……だがこれもスローライフの先行投資だと思ってあきらめるか? それとも、一日くらいなら同じ宿に泊まって、明日は働いて給料をもらってから、そのまま他の町に移動するか。事前にこの世界の地図を買っておこう」


 俺はそう決めて、必要なものをそろえに商店街を歩き始めたのだった。











 必要なものをそろえた俺は宿に戻った。

 後は、部屋で今日はごろごろすると決める。


「明日からまた他の町に移動して、そこでギルドで稼ぎつつよさそうな家を探す。他に生活基盤がある程度整ってからスローライフと同時に、俺が元の世界に戻れないようにされている魔法も解かないといけないのか。……変に知恵の輪のような状態になっていて解けない。……解析をして解いていく方法もあるが、一度正規の方法で解くとこの魔法はもう俺には使えなくなるようなんだ」


 そう呟いて俺は、その正規の方法を使えば再度呼び出されたときはこれと同じ魔法で拘束されないと考える。

 面倒だが、地道に解いていった方がこれからの事も考えるとよさそうではある。

 嫌な方法を考え付く女神だと俺は思いながらも、キスをされたことを思い出すと自然と許せてしまいそうな……。


「俺、そこまで女の子には弱くなかったはずなんだけれどな。それとも俺がそう思っているだけだったのか?」


 俺は再び頭を抱えそうになってそこで、宿の俺の部屋が勢い良く開いたのだった。

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