少女
洞窟の奥深く、一人の少女が囚われていた洞窟内部の場所に魔法陣が敷かれて、そこから氷の柱ののようなものが立っている。
そこに彼女は手足を一部氷漬けにされる形でトラ荒れている。
瞳を閉じた彼女は、幼げな容貌を持つ俺と同じくらいの少女だった。
それでも瞳を閉じているといってもその美貌は衰えることはなく、常人ならば見とれてしばらく動けなくなってしまう、そんな存在だ。
あるものは宝石になぞらえ、あるものはかつて見た心に残る花の名をうたい、あるものは依然見た大自然の雄大さに喩える、そんな少女。
実際に俺も彼女を見ると一瞬息が詰まりそうになったが、前の世界のいろいろな出来事を思い出すと見とれるというよりは、
「疲れがどっと出てくるな。いや、彼女達のような行動をここにいる人物がするとも限らないし……うん、今はそれどころではないか。それに彼女自身が光り輝いているから一時的に、視覚を戻してもいいか。あまり黒白の世界ばかり見ていると気持ちが悪くなるしな」
というわけで視覚を一時的に戻す。
同時に暗がりで輝く少女の姿が色付きで見える。
漏れて零れ落ちていた魔力と封じられているこの場所の関係からわかっていたが、水系統の存在であるらしい。
だが封じられ、そしてその力を利用されながらも周囲を“浄化”しているためだろう、衣服にまでは力を回すのがきついのかもしれない。
彼女の白く滑らかな肌は、衣服である白い花を模したレース状のリボンが体の大事な部分をかろうじて隠している状態だ。
相変わらず女の子の服は、ある意味で防御力が高い。
とはいえその水色の輝く髪や衣服がこの状態でも、整いすぎた容貌のせいか何かの芸術品のように見える。
それ故に何らかの形で接触するのに気が引けてしまうが、そんなことを言っていたらいつまでも救出できないのでとりあえず彼女に向かって声をかけることにした。
「もしもし~、大丈夫ですか。俺の声が聞こえますか」
「……んんっ」
そこでゆっくりとこの少女の目が開く。
鮮やかな緑色の瞳。
今のところ黙っている分には、絶世の美貌を持つ少女だ。
中身が残念なことになりませんように、あれとかあれとかあれとかあれとか。
などと俺が思っているとぼんやりとした少女が俺の方を見て、
「お前は誰じゃ?」
「たまたま湖の方に来ただけの一般的な異世界人です。何となく気配を感じたので助けに来ました」
「そうか、異世界人か……確かにこの世界のものではない気配がするのぅ。だがかなり複雑な魔法が使われているが、どうにかなるのか?」
そこで瞳を一度閉じてから、その少女はそう告げた。
古いような話し方をしているが、声は俺達と同年代かそれ以下。
本当にこの種族は世界が違っても“似ている”と思う。
今回は何千歳なのだろうか、と思いながら俺は、
「この程度の魔法なら簡単に解けます。ただ、少し氷を解かす関係で扱ったりするかもしれませんがよろしいですか?」
「! その程度ならば構わん! ぜひ解いて欲しい! もうこんなところに囚われるのはこりごりじゃ!」
そう彼女は答えたのだった。
早くここから出してほしいという彼女のお願いを聞いて俺は、早速解除した。
糸が引っ張られて切れるような音がして、彼女をとらえていた氷が砕けていく。
それだけだった。
「え?」
間の抜けた声を目の前の少女があげて倒れ込もうとする。
その体を俺はとりあえず支えたわけだが……その、隠されているとはいえ、こう、薄い布の一枚状態であったり、スレンダーとはいえ、出る所は出ていたがためにこう……。
一言でいうと、とても柔らかかったです。
だがここでそんなことを言おうものならどうなるのかは想像に難くなかったので俺は、何も気づいていないふりをしながら、
「大丈夫ですか?」
「う、うむ。久しぶりに解放されたからかのう?」
「あ、俺が今着ているローブでよろしければ着ますか?」
「う、うむ。そういえばこのような姿だった。魔力で衣服を回復させるだけの力は残っておらん……好意に甘えるとしよう」
そう少女が言うので俺は、とりあえず彼女の支えになりながらローブを脱いで渡す。
替えのこういったローブもあるといいかもしれない。
後で購入しておこうと俺は思いながらそこで気づいた。
「そもそも魔力を回復させておけばよかったのか」
そうすればローブを貸す必要もなかった。
どうも魔法のない元の世界の感覚が残ってしまっているようだ。
うまく切り替えないと、後々大変なことになりそうだと俺は、気を付けようと思う。
そこで少女が慌てたように、
「ま、魔力の回復はさすがに無理だと思うぞ。こう見えても妾は竜種のうちが一つ、水竜に連なるもの。それもこの世界では高位の……」
「でも全回復させるわけではないから大丈夫なのでは? 魔力を回復させることができればあとは体の回復に回したりといろいろできますし」
「……異世界人と言えど、そこまでの魔力がある者には、妾は出会ったことがないぞ?」
「ですが前に他の世界にいた時は、竜、数人の魔力回復もしていましたから、大丈夫だと思いますよ?」
「こう見えても妾は上位種なのじゃが……だがお前の好意は嬉しい。だからお言葉に甘えよう。じゃが……無理はせんでくれ」
そういって俺の手を彼女は握る。
慈悲深いタイプの竜ではあるらしい。
前の世界にもこういう竜がいて……ヤンデレになりかけて大変だったなと俺は思い出しながら、回復の魔法を使う。
この竜の魔力容量から逆算していき、この程度なら全回復できるなと思って全回復をさせた。
目の前の少女が凍り付いた。
そして青い顔で俺を見上げて、
「おぬし、本当に何ものじゃ? ただの異世界人なのか? 我らが竜王でも大変そうなことをいとも簡単にやっているように見えるが。先ほどの封印も一瞬で解いたし……」
「あ、えっと、そ、その話はまたにしましょう。今はここからのだしゅつが先です」
「……」
不審そうに俺を見る彼女にそう返してから俺は、そこで彼女の名前を聞いていないのに気付いた。
「あの~、名前を聞いてもよろしいのでしょうか」
「ん? そういえば恩人なのに名前を名乗っていなかった。失礼した。妾の名前はレオノーラじゃ」
「可愛い名前ですね。俺の名前は霧島颯太です。ソウタと呼んでいただければと」
「そうか、ではソウタとよばせてもらう」
「はい、それともう一つよろしいですか?」
「なんじゃ?」
「罠を避けて移動する関係で、抱き上げて連れて行っても構わないでしょうか」
その方が罠にかからずに移動できてよかったからなのだが、レオノーラが顔を赤くしてから、
「う、うむ。お、おぬしがその方が楽なのであれば」
そう答えたのだった。
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