時計塔の街
ゲームの中にいるのにも関わらず身体が現実の世界になってから数時間後、コナタは平原を踏破してとある街までやってきた。
初心者向けの狩り場であるインティウム平原を踏破するなどということは、レベルカンスト、そして道を知っているコナタにとって造作も無いことだった。
「やっと着いた……けど、これはすごい」
街は人で溢れかえっていた。
行き交う人々を掻き分けるように進むと、広い大通りを見渡せた。
木の車軸に鉄製の輪をはめた車輪の馬車や後ろに重い荷車。それを引っ張っている馬が歩くのは整備された車道である。
大通りの中央が車道に対して、コナタが今歩いているのは人が密集している歩道である。
大通りの脇に露店が競うように並んでいる。商人達が、通りすがる人々に商品を勧める光景を見ていると不思議とこちらまで活気づけられるような感覚になった。
(ここにいる人達はみんなNPCだとでも言うの……? 根本的にゲームの仕様と違うところもあるということね)
ゲームの中でこんな人だかりが常に出来ていたらプレイヤーが自由に動けない。
このようなズレを見逃さないように注意深く観察しながら街の中央に向かって進んでいく。
この街で一番賑やかな通りを抜けると、最大の名所である時計塔が見えてくる。
天高く聳える時計塔は旅人が度々訪れるほどの名所なのだが、その内部には誰一人として足を踏み入れようとはしない。
石と煉瓦を組み合わせて積まれた塔の内部はダンジョンになっていて、古めかしい機械人形達が侵入者を切り刻むために徘徊しているからだ。
人呼んで、『徘徊者達のクリプ塔』なんて地元では親しまれている。
時計塔の街〈クリプトン〉は、数あるセーフポイントに指定されている街の中でも人気がある方だったと記憶している。
セーフポイントとはPKが禁止されている区画の事で、襲撃クエスト等の例外はあるが比較的安全でプレイヤー達の主な商業スペースとも言える。基本的には魔法も武器による攻撃も無効化されていたはずだ。
(確かめようにも、これだけ人がいたら騒ぎになりそうだし。そもそもNPCひとりひとりが会話をしているってどう考えても普通じゃない)
そして、クリプトンでは何より街の至る所の装飾、景観が非常に凝っているのだ。
街を囲むような城壁は浪漫を感じさせ、聖職者達が教会の前で狂ったように神について説いている。市場や広場は常に賑わっており、子供達が道ゆく大人達に紛れながら走り回る姿がより一層この世界が現実だとコナタに感じさせていた。
誰もが憧れるような時計塔が聳え立つ城砦都市は、人気が高い上に初心者の狩場であるインティウム平原からそう遠くない。
初心者から熟練のプレイヤーまで多く集まるこの街は、情報集めに最適であると考えたのだ。
現在は街に数店舗構えているカフェに近い業態の飲食店で、コナタは紅茶を啜りながら自身の置かれた状況をおさらいしているところだ。喉が乾いて倒れそうなところに親切な老婆が来て、代金をすべて出してくれた。只者ではないオーラを放つ奇妙な老婆ではあったが、特に見返りも求めずにその場を立ち去った。
一体何者だったのだろうか。
(……不味い)
この店の紅茶は独特な味がして、老婆に奢っておいてもらって悪いが口には合わなかった。
呑気に紅茶を飲んでいる状況でないことは重々理解しているが、そういう時だからこそ落ち着くことも大切なのである。
(まずは、ここまでの経緯を整理しよう)
整理しようとするも、十分な情報と記憶が欠落している。
(気が付くとゲームの中にいて、一旦外に出た。でも頭に強い衝撃があって気絶した)
あの頭への衝撃はなんだったのか。あれはおそらく殴打ではあるのだろうが、ではそれを誰がやったかが大きな疑問となる。
もし殴打によって気絶したのであれば、あの場に何者かが侵入していたことになる。
コナタ自身も詳しい場所については知らされていないが、通常では辿りつけない位置にコナタと丸夫の住処は造られているはずだ。外は年中豪雪が吹き荒れる破壊された惑星だ。並大抵の移動手段では侵入など不可能だと聞いている。
そして、侵入者が建物内に入り込み殴打にてコナタを気絶させた後に、ゲーム内に再びログインさせる犯人の目的が思い当たらない。
(ログアウトができないのが一番の問題。運営からのメールの内容から察するに意図してこの状況はつくりあげられたことになる。丸夫はこのことを知っていた……?)
丸夫の部屋の扉が開かなかったことを思い返す。
ただ、仮想世界の中ではあるがこうして生かされているのには、コナタに何か利用価値があるからだと推測する。
大分前に、丸夫が「仮想世界に潜水している時に現実世界の肉体が息絶えたとするならば仮想世界にいる人間はどうなるだろうね」と言っていたことを思い出した。
コナタは身震いをする。まさしくこの今の現状に対しての疑問となるからだ。
ここからは丸夫の受け売りになってしまうのだが。
脳の停止に伴い、やはり仮想世界にいる精神とも呼べる状態の魂はふと消えてしまうのか。それともその場に精神だけが残り活動を続けるのか。
どちらにせよ、それは仮想世界の根幹でもある『Complete Creation Computer』、通称『CCC』の設定次第で結果が変わることなので現在では証明することができないのだという。
実験はできたとしてもそれはその時限りの結果に過ぎないという意味だ。
つまり、コナタは今死んでいるのか生きているのかも区別がつかない存在となる。
丸夫がそんな実験をするとは思えないが否定もできない現状では、丸夫を頼りにはせずに自らの力で元の世界に帰る手段を探すしかない。
(脱出の手がかりも犯人の宛てもない。このままここで過ごしていたら知らない間に消えてなくなってしまうかもしれない。とっかかりさえ掴めれば、取り敢えずは動けるというのに)
だが、コナタは気付いていた。ログアウトこそできないにしろ、『マニピュレート』自体は使用ができるということに。
マニピュレートが脳内にあることで様々なことができるが、その一つが迷子検索機能である。登録し合った者同士の場所を特定できるという迷子のために作られた機能だ。
「検索、カナタの居場所を教えて」
――反応がありません。
だがこのとおり、カナタはこの仮想世界にはいない。
これ以上うんともすんとも言わず、全くの応答がないマニピュレートに無性に腹が立つが自身の頭部を殴りけるわけにもいかない。
(とにかく、情報を集めなくては話にならない。問題はどこに行けば有用な情報が手に入るのかだけど……)
何回か来たことがあるのでクリプトンで重要な施設は頭に入っている。
この街での選択肢としては、情報とプレイヤーが各地から集まりやすい冒険者組合。
クエストによく関わってきて何度か行き来させられた魔法学校に隣接している大魔導図書館。
内部がダンジョンになっているこの街のシンボルとも呼べる時計塔。
この中から情報を集めようとコナタが考えた時、まずは他にプレイヤーが存在するかを確認するべきだと思った。
非常事態の現状でこの三ヶ所に集まるプレイヤーがいるのか少々疑問ではあるが、比較的に冒険者組合が一番可能性としてあり得るのではないかと思う。
ということで、この街での最初の行き先は冒険者組合に行き先を定めた。
冒険者組合が街のどこにあるのかはうる覚えではあるが、街を探索している間に知り合いのプレイヤーに出会うかもしれない。
「はぁ、なんだか疲れた」
冒険者組合はゆっくりと探すことにして、取り敢えず街に入ってからずっとフル回転させていた脳みそを休ませたい。
コナタは不味い紅茶を何とか飲み干すと、代金は先払い制だったのでそのまま外に出る。
気候は暮らしやすいほどで、街から見上げた空は照りつける太陽と雲一つない青色が広がっていた。
ふと、カフェの店内に振り返ると紅茶を注文している客が目に入る。
実はこの世界の言語体系は現実世界の言葉や文字とは異なっているのだ。「カフェ」と書かれた看板の文字もマニピュレートが無くてはまったく読めないだろう。
この勝手に翻訳してくれる機能は非常に便利で、当人が知らない単語だったとしても全世界のデータから引っ張ってきて知っている言葉に変換をしてくれるのだ。
とにかく今のような状況でもマニピュレートの言語翻訳機能は健在のようで安心する。
それにしても、仮想世界に閉じ込められてからマニピュレートで現在使える機能と使えない機能があるという事実が引っかかる。
まるで誰かがこの世界から出さないように制限をかけているようにも思えた。
「じゃなくて、冒険者組合だった。常駐クエストを受けるための施設だったけど、行くのは何年振りか。確か、あそこの辺りだったはず」
記憶を手繰り寄せながら進んでいくと、道の突き当たりを右に曲がって直進すると左手に冒険者組合の看板らしき姿が見えた。
周りの風景に溶け込むように建てられている石造りの大きな建物は探していた建造物に間違いないようだ。
冒険者組合というのは、初心者向けのクエストを提供してくれる施設の総称で、レベルが上がれば上がるほど利用することはなくなっていく。つまり、初心者向けのクエストしか受けることが出来ない施設なのだ。
そしてここでクエストを受けてポイントを貯めていくと称号が与えられ、その称号が冒険者の証となる。
ゲーム内での細かな設定なので有って無いような扱いだったが、申し訳程度にあるストーリーをしっかりと読み進めていけば誰でも知ることのできるこの世界の常識である。
(静か過ぎる。誰も中にいないの?)
と思ってしまうほど、人が寄り付かなそうなオーラが外まで漏れ出ていた。
初心者向けの施設である冒険者組合はリリースから数ヶ月で利用者は激減した記憶が蘇る。
そしてこの異常な事態が発生している今なら賑わいが無くても納得がいく。
冒険者組合にコナタが足を踏み入れると、カウンターの内側で受付嬢が退屈そうに肘をついて爪でリズムを刻んでいるところだった。予想外の来客に受付嬢は尖らせた唇をそのままに豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている。
「…………はぁ?」
間抜けな声が聞こえるが無視して店内を見回すがプレイヤーと思わしき影は見られなかった。というよりも受付嬢以外は誰も店内にいない。
「客はいないの?」
こちらから話しかけると、受付嬢は背後を一度確認してから安堵する。
「はぁ、見たらわかるでしょ。それで?」
受付嬢は初対面にも関わらず横柄な態度で対応してくる。これは接客とは呼べないなとコナタは心の中で呟く。
(でも情報が手に入るのなら、どんな人間だって構わない)
冒険者組合の受付嬢に質問するような内容ではないのだが、コナタは構わずに質問を投げかける。
NPCに対して核心をつくような質問をすることに対して若干の緊張を持ちながら。
「……あなたはプレイヤー?」
彼女がプレイヤーであった場合の反応とそうでなかった時の反応を何パターンか頭の中で予想しながら聞き逃さないように受付嬢の顔を見つめる。
「あんた、何歳だい?」
この質問返しは想定外であった。
しかし様子を見るしかない。この受け答え方からNPCである線はほぼ除外してもいいだろう。
通常『NPC』と呼ばれるいわゆるノンプレイヤーキャラクターは決められた文章を「Yes」か「No」かで答えられる質問系や受け答えを必要としない一方通行系のどちらかになる。
しかし、この受付嬢はそれに当てはまらない。少なからず彼女はゲームの頃のNPCではないと分析できる。
「……その情報は今必要?」
「見たところ他所の冒険者ってわけでもないみたいだし、ワケあり? って感じだし、ぶっちゃけ関わりたくないと思ってさ」
「それでも受付嬢?」
「私は冒険者の受付嬢ですので」
プレイヤーにしては役に入り込み過ぎている。
結局のところこの受付嬢はプレイヤーでもNPCでもない謎の人物になってしまう。
だが、易々と貴重な情報源を失うわけにはいかない。
「人を探してるの。それかあなたがログアウトできるかどうかでもいい。なんでもいいから情報が必要なの」
「んー? ははーん。そういうこと」
したり顔の受付嬢が顔を近づけてくる。
「はい。まずは、これからでしょ」
受付嬢は手ぶらな左手を皿のようにして、こちらに向けて突き付けてきた。
「この手は何?」
「わからないふりしちゃって。ならいいのよ、その……『ログアウト』について私が知っていることを話さなくても」
これはブラフだ。直感的にコナタは見抜く。
だが、まだ相手を踊らせておく。
「……持ち合わせが今は無い」
「はぁ? あんた世渡りが下手ってレベルじゃないね。交渉に金は必須だよ、出直してきな」
手持ちの金は無いのは本当のことだった。
これ以上は交渉も難しいと判断したコナタは立ち去ろうと背を向けたその時――
「というか、あんたの着ている……ちょっとそれ見せなさい!」
受付嬢は目の色を変えてカウンター越しに乗り出すようにコナタに手を伸ばしてくる。
コナタは身の危険を感じてバックステップで咄嗟に距離を取ると、受付嬢はカウンターに阻まれて舌打ちをする。
「あんた……どう見ても貴族じゃないけど、どこでそんな装備を、ァガッ!?」
受付嬢の後頭部が思い切り叩かれた。
受付嬢はカウンターに突っ伏す姿から動かず、突然の事態にコナタは唖然とする。
受付嬢の後ろにのっそりと立っている大男はニカッと笑ってみせてきた。
「すまねぇ、ウチのモンが迷惑かけたな。ところで嬢ちゃん、こんな小汚いところに何のようだ?」
「いや、その、何でもないです」
「怯えさせちまったようだな。お詫びに何か飲むか? 確かオランゲのジュースがあったはずだから少し待っててくれ。絞ってくるよ」
大男は受付嬢の襟を掴むと引き摺るように店の奥へと消えていった。
コナタは訳も分からず、取り敢えず話が通じそうな大男を待つことにする。他に当てが無いのもそうだが、何故かこの機会を逃したら面倒になることを直感で悟ったからだ。
「待たせたな、店を開けるわけにはいかねぇからそこの汚ねぇソファでもいいか?」
「……ありがとう、ございます」
汚いなどと言われたら座りたくもなくなるものだが、見た目は普通のソファだったので甘んじて受け入れることにした。
向かい合って大男が座ると、神妙な面持ちで口を開く。
「まぁ、事情は何となくわかるが……お前さんは何歳だ?」
「さっきも聞かれたけど何?」
「いいから答えなさい」
やけに語尾が強くなった気がした。
「十五歳くらい」
しかし、この程度の情報なら大して問題はないだろうと答えてみせた。
(……本当は十四歳だけど盛っとこう)
空気が沈んだようだった。
まだ日は高く昇っている時間だが、やけに吹き抜けのよい店内に冷たい風が入り込む。
「悪いことは言わない。その装備を盗んできたところに返してきなさい」
「え?」
「どうやって……いや、方法は問題じゃない。貧民街の子か? 誰に唆された?」
大男は溜め息を吐き出すと、スキンヘッドの頭を指で掻く。
「いいか、冒険者をはじめようと君のように若い子供がここに来ることは珍しくない。だがな。総じてその子供達は二度と帰ってこなくなる。この仕事は危険なんだ」
「……え? 何の話?」
「だから諦めろ。君を雇うことはないし隣街の冒険者組合に行っても無駄だ。盗んだ場所に装備を返して他で真っ当な職を探しなさい」
この大男は何か勘違いをしているようだ。コナタは頬を痙攣らせながら考える。
大男もプレイヤーにしては会話の方向がやけにおかしい。ここまでの会話をゲームキャラに成りきって演じているのだとしたら、それに付き合わされるこっちの身にもなってほしいが、彼の表情はあまりにも真剣そのものだった。
彼が向けてくるものは、子供を本気で案じる心根の優しい真っ直ぐな瞳そのものだ。
「……お邪魔しました」
コナタはこの場で情報を集めることを諦めてさっさと立ち去ろうとする。
「……宛てはあるのか?」
何に対する宛てなのかは知らないが早めに切り上げたいので適当に返答する。
「これから見つける。だから心配はいら――」
「そうか。だがな、人生甘くないもんだ。上手くいくばっかじゃねぇからな」
大男は立ち上がると、カウンターの奥の方に顔を向け先程の受付嬢らしき名前を怒鳴るように呼び出す。
「おいレオナ! いつ迄寝たふりしてやがる! 奥からお前のお古の服を持ってこい!」
「えー! まさかバー店長、そいつを!?」
「いいから早くしろ!」
「……へーい」
受付嬢は奥から手だけ覗かせてひらひらおどけたように振ると、暫くして受付嬢が着ている服と同じものを持ってきた。
レオナのお古と言っていたように、サイズはコナタにちょうど良さそうな小さなものだった。
「もしよかったらここで働きなさい。明日からでいいが、みっちり働いてもらうことになる。まずは仕事を覚えされるところからか」
突如、そんなことを言い出した大男にコナタは脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受ける。
(ここで働く? 冗談じゃない!)
「勝手なことを言わな――」
「いいからっ、遠慮するな。強引で悪いが、そういう子供を見つけたら通報しなきゃならねぇ決まりなんだ。だからこれは俺のためにしている事で、君の為にもきっとなる」
「いやだから!」
「そうだな、まずはその装備を返しに行かなきゃだな。一緒に行くからどこか教えてくれ」
大男はレオナから受け取った服を投げ渡すと、コナタは顔に服を張り付けながら不快そうに受け取ることになってしまった。
「俺はバーソロミューだ。ここで働くからには世間知らずじゃやってけねぇ。明日から厳しく教えてやるから覚悟しとけ」
「店長の名前はなげぇーから、あたしはバー店長って呼んでるよ」
受付嬢が横から口を挟む。
「余計なことは教えないでいいんだバカ」
「イタタ、暴力反対! 暴力反対!」
どういうことか冒険者組合の受付嬢見習いにされそうだ。
どうやら向こう側は親切で言ってきているようだがロールプレイが極まればここまで他人を容赦なく巻き込むものなのかとコナタは呆れる。
だが、ここで一つの疑問がコナタの脳裏をよぎる。
(本当にこの二人は何者なの?)
NPCだとしたらあまりに自由だ。話が通じていないような気もするが、強引なところを除くとまるで普通の人間のようだった。
意思を持っているAIの研究ならずっと昔から行われていると丸夫から聞いたことがある。低度ではあるが人工知能が入った特殊なNPCがいることも知っている。
(……でも、わからない)
充分に発達したAIのみに限るが、人権を認められるようになって随分経つ。
そんな高性能なAIが、ゲームに用いられることはないと思っていた。ましてや仮想世界にそれを当てはめてしまったら人権問題に発展しかねないといくつかの国で禁止条約が結ばれていたはずだ。
「どうした? 早く着替えなさい。奥に着替えができる部屋がある。レオナ、案内してやれ」
「はーい」
言いたいことは山ほどあるが、嫌々にでも承諾させられたのだったので一先ず従うことにする。
彼らがNPCかプレイヤーかを見定めたいし、何より冒険者組合にいれば情報が集まりやすいと考えてきたのだ。他のプレイヤーが訪ねてくる可能性だってある。
この不思議な状況を金紅のメンバーに見られたくはないが、やはりメンバーの誰とも連絡がつかない。
他のプレイヤーがいないことはないだろうと希望的観測を持っているが、存在しないという根拠も今のところはない。
ただ、運営から送られてきたメールの一文を思い出す。
『選ばしものたちよ。新たな世界への入場許可証は発行済である。君たちの陣営の武運を祈る』
(……複数人に宛てたメールなのは明白なんだけど)
これは運営の意思なのか、それとも個人的な犯行なのか。もしくは第三者の存在も考えなくてはならない。
何もわからないなら少し遠回りしようが仕方がないだろうと自分を言い聞かせる。
(……丸夫、きっと大丈夫だよね?)
コナタは首を横に振ると、案内された着替え室の扉を閉めた。