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ここにある彼方から  作者: 暁月暖書
新世界の箱庭
19/21

 私にとって鎖とは()()()()()ものだった。

 幼少の頃を想い出す。母親に毎日地下牢で鎖に繋がれて何度も何度も聖書の内容を読み聞かされた。

 私は泣いていたが母は読み聞かせることをやめなかった。


「鎖よ、鎖。さぁ、罪人達を縛り付けろ。俺の言うことが利けない奴を縛りあげろ!!」


 四本の鎖が乱れる渦が大きくなり部屋全体を引き裂くように広がっていった。

 壁にぶつかろうが止まらない鎖は破片を隙間へと挟み込みながらノコギリを振り回すようにコナタ達へ襲いかかる。


「きゃっ!」


 咄嗟にクレアはその場に屈み込んだが天井から迫ってくる鎖にいずれ捕まってしまうだろう。

 コナタは模索する、この状況を打破する一手を。


「コナタ様! 一度部屋の外へ避難致しマショウ!」


 マーズがクレアの傍で守るように構えながらコナタに振り返ってくる。

 しかし、鎖の渦の速度は増すばかりで部屋の外まで間に合わない。考える。考える。考える。


「コナタ様!?」


 コナタは自身の持ちうる最大の防御魔法を自分自身へ付与し、そのまま渦の中心へと駆け出した。

 マーズは驚きのあまり一時的に固まるが、直ぐに止めようと此方へ手を伸ばしてくる。


(……間に合って!)


 コナタはそれでも止まらずに突進し、そして鎖がコナタの身体を捉える。


ガギン!


 と鈍い音を立てて直撃した鎖はコナタを中心に弧を描いた。コナタは思いっきり足の裏に力を込めてその場に留まろうと踏ん張る。


「うぁぁぁぁあああああ!!」


 鎖の先端は大きな円を描いて渦の中へと戻っていく。続けて二本三本とコナタの二の腕に当たっていくが、鎖は同じように弧を描いて渦の中へと()()()()()()()()()()()


「ぐああああああ!!?」


 一本目の鎖の先端が渦に突き刺さりその中にいたアモスにダメージを与えた。

 そして遅れて二本目三本目の鎖が渦へと突き刺さっていく。鎖の動きはそこで止まり、ぐしゃぐしゃに切り刻まれた部屋が姿を見せた。


 鎖がジャラジャラと音を鳴らしながら床に落ちていくと、渦の中から脇腹を抑えるアモスが出てくる。


「どういうことだ……何をした……」


 抑えている手からは紅い鮮血が漏れ出している。

 コナタの二の腕に絡まっていた鎖も外れて床に落ちる。ローブの二の腕の部分はほとんど傷が見当たらないが紅く染まってしまっている。右腕の感覚がほとんどない。


「私が柱になった、それだけのこと……。今の攻撃は凄かった、このローブの耐久力と魔法がなければ打つ手が無かった」


 アモスは膝から崩れ落ちる。


「それは褒めているつもりなのか……?」


 寝転びながら虫の息でアモスは言った。

 コナタは倒れているアモスに近寄ると左手で機械人形の核を奪い返す。


「あなたは挑戦者ではないけど、それでも私をここまで追い詰めたのだから」


 クレアも起き上がっており、ジュピターとサターンに駆け寄っていく。


「く、くさり、を、はず、すな」


 アモスの瞳に執念を感じた。コナタは苦しそうにもがくアモスに話しかける。


「何故、あなたはこんなことをしたの?」

「く、さり、だ。俺が、求めるのは、地位だ。母に、認めてもらえない、のだ」

「母?」

「縛り、つけ、が、ないと、誰も」


 瞳から光りが消えていくアモスに、コナタはそっと肩を触れる。


「あなたも大変だったのね」


 アモスは何も発しなくなった。


「どういうこと、コナタ。何故そんな外道にも情けをかけるのかしら」


 顔を上げるとコナタを睨みつけるクレアがいた。


「あなたも殺されかけていて、私の家族をこんな目に遭わせたそいつは敵なのよ!?」

「命の価値に差などないと丸夫は言っていた。だから敵味方で私は態度を変えない」

「理解できないわ! あなたは何も分かっていない!」

「私こそ理解できない。クレアは何を言いたい?」

「何をって……とにかく気に入らないのよ!」


 マーズは諌めようと試みているがクレアが腕をブンブンと振るわせる度にあたふたしている。


「そういうところ、コナタは感情が無いみたいだわ!」


 コナタは自分がどんな顔を今しているのか無性に気になった。だが、残念ながら切り刻まれた部屋には鏡など存在しない。

 クレアが部屋を見渡すと転がっている少年少女の遺体を見つける。


「酷い……こんなことまでしていたのよ! それでもソイツを庇う気!?」

「庇ってなどいない」

「この―――」


 怒り心頭のクレアがコナタとの距離を詰めようとした時、無間影(むげんえい)がクレアに向かって短剣で斬りかかってきた。

 音もなく襲いかかってきた影にマーズも反応できず、短剣がクレアに突き刺さろうとするが――


雷銃(ボルトガン)


 コナタは何のことも無しに無間影を撃退した。そのまま影が生み出され続ける本体まで一瞬で距離を詰めると、飛び上がり床に広がる濃い影へ雷散弾銃(ボルトショットガン)を放って消滅させた。


「……あなたは」


 コナタは着地して振り返ると、驚愕しているクレアに首を傾げる。


「これで、あなたの目標は達成された?」

「え、ええ」

「クレア、あなたに聞きたいことがある。時間を作って欲しい」

「何を……聞きたいの」

「この世界のことについてもっと詳しく、それと……」


 彼方(カナタ)についての情報。この世界に来ている可能性はあるのか、その場合は何処にいてどういう状態なのか。それを精査したい。


「それと……?」

「カナ――」


 コナタが口に出す寸前、天井から黒い異形のモノが降ってきた。


「魔墮亜粗ン出苦呬流呑ー?」

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