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ここにある彼方から  作者: 暁月暖書
新世界の箱庭
16/21

黒い天使

 獰猛な爪が建物の壁を引き裂く。


「怒我死出似戲呑?」


 渾身の突きも躱されてしまい、謎の生命体は血管を浮き上がらせている。

 瞳があるはずの場所は窪んで黒い液体が流れ出ている。


雷銃(ボルトガン)三連射」


 連続で放たれた雷の銃弾がバチバチと闇を照らしながら化物へ当たっていく。


「殺眼出壊壊壊壊壊!!!」


 苦しそうに腕を振り回す度に凶悪な爪が瓦礫を破壊していく。

 既に周囲の建物が崩れ始め、閑散としたクリプトンの一角は戦場と化していた。

 救いだったのは住民達が教会の人間によって街の異常事態を察知して避難を始めていたことだろう。まだ犠牲者は辺りに見当たらなかった。


 コナタは一歩、前に踏み出すと一言呟いて全身に帯電させる。

 それは夜闇に輝く一等星のようで、それをまといながら動いている可憐な少女はまさしく天からの使いに思えた。


「これ以上、この街は壊させない」


 発動中は継続的なダメージを受けるこの魔法だが、触れた敵に電撃を流し込む(タッチ・ザ)(・チャージング)雷電障壁(エレクトリックバリア)の複合魔法である。

 薄く身体にまとわせた触れると電撃を浴びせられる接近戦に向いている魔法だが、このまとっている電撃を雷銃(ボルトガン)に上乗せすることで威力を高めることが出来る。


 右腕を謎の生命体に向けて構える。

 コナタが魔法の重ねがけを研究した結果として知り得た技に名前を名付けるとするならば――


「――雷大銃(ボルトマグナム)


 ズガンと雷が落ちた時のような轟音が響き渡った刹那には謎の生命体は吹き飛んでいた。

 西洋風の古い民家の中に消えていった後、物音すらしなくなった。


 コナタの足元には撃ち込んだ衝撃に寄り切られて小さな道が二つ出来ていた。

 腕が痺れている。雷散弾銃(ボルトショットガン)よりも強い反動がこの魔法の欠点だ。


「しばらくは指が上手く動かせそうにない……」


 帯電していた力が抜けていき、コナタは身体に感じる痺れるような疲労から地面に膝をついた。

 肩が上下するように呼吸が荒い。攻撃を躱すために激しく動いていたが、人造人間であるコナタはこの程度では疲れないように身体能力を強化されている。

 すると、額から滴る汗が地面に落ちて滲んでいく。


「はぁ、はぁ、どうして……?」


 困惑していると、這って近寄ってきた教会の男が話しかけてきた。


「うぐっ、はぁ。それはな魔力が尽きかけているんだろう。あれだけ派手な魔法を使ってるんだ。見たことのない魔法だったが魔力の消費はきっと大きいはずだろ?」

「私はこれでもカンストしている魔法職。この程度で魔力枯渇なんて……」

「目眩がするのか? なら間違いないな。しばらく休まないと、今日はもう魔法を使わない方がいいぞ」

「それは出来ない。でも――」


 魔力枯渇。

 ゲームだった頃は魔法が使えなくなるだけで、今のようなバッドステータスが付くということはなかったはずだ。やはり、全てがあの頃と一緒だと思っていると取り返しのつかないミスをしてしまう恐れがあると再認識する。


「――でも、魔力が尽きてしまったらどうなるの?」

「大半が気絶するだろうな。その後に適切な処置がされないと最悪の場合、死に至るらしい」


 酸欠のような状態になるのだろうか。

 魔力がこの世界でどのような意味合いになるのか考えたこともなかったが、コナタが考えている以上に魔力というものは人体の構造と密接な関係があるのかもしれない。


「とにかく無理はしないことだ。君があの化け物を倒してくれたおかげで暫くしたら仲間が助けに来てくれるだろう」


 男は地面に座り直して息を整える。どことなく彼の表情が光悦としているように感じた。


「……それも困る」

「心配しなくていい、君は僕の命の恩人だ。僕が仲間達に君は敵ではないことを説明するとも」

「そういうことじゃな――あの、アナタのところの司教? 彼は一体何を企んでいるの?」

「ふーむ、司教様か。僕らにもあの方の心意は掴めない。でも、仲間の噂では永遠の命を狙っていると聞いたことがある。それがあの魔女と関係していることも今回の騒ぎではっきりしただろう」


 コナタは眉間にしわをつくる。


「じゃあ、アナタ達は今まで何を目的にしているかわからずに私達を追いかけてきたの?」


 男はたじろいだ。年端もいかない少女の眼差しが胸を刺したのだろう。それほどまでに強い敵意を感じる眼差しだった。

 唇の端が震え、そして男は汗を流しながら口に出した。


「そう言われてしまうとまいったな……。だが、僕らも平穏を害そうとする魔女を討ち滅ぼすのはこの街の為になると思って――」

「もういい、聞きたくない」


 コナタは軋む体に無理を言って立ち上がる。

 ここまで苛立っているのは何故かわからないまま、とにかく集合地点へ向かおうと歩き出す。


「待ってくれ! 君が怒っている理由がわからない……魔女は、彼女は君の仲間だというのか?」

「……アナタには関係ない」

「だから待ってくれ! 君は……いえ、貴方は我らが崇高なる神の使いなのだろう? 僕らを導いてくれないのか!?」


 彼は必死な形相で這ってくる。その眼は崇拝の輝きを帯びていた。

 しかし、コナタは呆れてしまった。男の言い訳を粉砕するように言い放つ。


「何を言っているの? アナタは誰かに言われたことしか出来ないの? だから真実も知らずに誤ちを犯そうとしているのよ」


 コナタはそれっきり振り返らずにその場を離れた。

 胸糞が悪い。


(私は何で怒っているんだろう……)


 モヤモヤとした心の内を目を閉じて整理すると闇夜を駆けていく。余計な感情は視界を濁ませる。

 今は彼女を救って未来に繋げる。それだけを目標にしているのだから。

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