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勇者達の翌朝(旧書)  作者: L・ラズライト
5/13

4:土の宿

遺跡で謎解きをした一行が、土のエレメントに向かう準備をします。


※「師団長」は「大隊長」に変更しました。

旧書・回想「土の宿」


「1」・


街に戻ると、ディニィあてに、騎士団から通信がはいっていた。ラッシル領内を通過して、数隊が森に向かっているから、協力する、という事だった。落ち合う地点を連絡してきた。

ラール、ルーミの二人とも、内部の空気がねっとりして嫌だ、と言ったのと、手紙の解読をするのと、鍵を取り返した事による町長の感謝のため、その夜は町一番の宿屋に只で泊めて貰えた。王女のいるパーティ、スポンサーがコーデラ王家とラッシル王家なのだから、只というのは心苦しかったが、断る理由もないので、申し出を受けた。

部屋割りは、女性三人は四人部屋で同室、男はキーリとユッシが二人部屋、残り三人は四人部屋を使う。ユッシが、

「おっさん部屋と若人部屋だな。」

と言っていた。キーリは、笑っていたが、ひきつっていた。

ルーミは、部屋に行ったら、まずシャワーに飛び込んだ。俺は、ユッシ達から、大浴場に誘われたので、そっちに行った。

浴場を出たところで、サヤンに会った。彼女も大浴場に行ったらしいが、一人だった。

「ラールもディニィも、部屋風呂派だから。一人で、大浴場、つまんない。」

背後にいたユッシが、なんならわしと一緒に男湯に入るか、といい、懲りもせず、叩かれていた。

部屋に戻ると、まだルーミはシャワーを浴びていた。彼は一人だと風呂で考え事をするくせがあるので、たまにのぼせる。シャワーなので大丈夫だと思うが、外から二回、声をかける。返事はない。

裸でいる所に、入って行くのは、抵抗があったが、水みたいなのを浴びてたとか、溺れかけていた、とか、色々有るので、覗いて見ることにした。

「ルーミ、入るよ。」

もう一声かけ、中に入る。湯煙が蒸せるほど立ち上がる。

ルーミは、立っていたが、壁に持たれていた。俺を見ると、倒れ込んでくる。いつも彼の好む温度よりも、熱いシャワーを直ぐに止め、浴室のドアを一杯に明けた。換気扇はついているようだった。

ルーミは意識はあった。なくしかけていたかも知れないが。

「熱いのは苦手だろ。どうしたんだ。」

「…熱いほうが、消毒になると思ったんだよ…」

「とにかく、外に…」

「…もうちょっと、このままで、一人じゃ、倒れる。」

しがみついてくる。

「ああ、ひんやりする。」

…人の気も知らないで、呑気な事を。俺は、ひんやり、どころではない。

せめて、これくらいは許されるだろう。俺はタオルでルーミを軽く巻き、抱き上げて運んだ。頭が冷えて「冷静」になったルーミは、

「うわ、いい、下ろせ。」

と慌てたが、抱き上げてしまえば、こっちの物だ。

「遠慮するな。これくらいしなきゃ。『彼氏』としては。」

抵抗していたルーミの動きが止まる。

「…聞こえてたのか。」

俺は微笑みで答え、ベッドまでルーミを運んでやり、丁寧に置いた。

「…小姑のとこもか?」

ばつが悪いのか、やや赤くなっている。俺はそれには答えず、

「タオル寄越せ。拭いてやるよ。」

と、笑顔で言った。

ホプラスの意識が、この後におよんで、抗議してくる。ルーミは、冗談でも、こういう事は嫌がる。一度拒否されているんだから、と。

だが、俺は、抗議の中に期待を読み取り、自分に言い聞かせるように、考えた。

ルーミを見てみろ。嫌がってるように見えるか。どう見たって、照れてるだけだ。

そっと手をのばし、濡れて伸びた、金色の髪に触る。少しびくりとしたが、避けない。指を滑らせて、大きく見開いた瞳に、上気した頬に触れる。

「冷やしてやるよ。」

もう片方の手を、ゆっくりと伸ばしたその時、

「僕、いるんですけど…。」

と、エスカーの声がした。呆れ顔で、俺達を見ている。

「なんで、ここに?!」

「何でとはご挨拶ですね、兄さん。今日は三人一緒でしょ。お邪魔だったら、僕、キーリさん達の所にいくけど。」

「いや、いい、邪魔じゃない、ぜひ居てくれ。でないと…」

俺は大笑いした。ばつの悪さをごまかすためだったが、別の効果があった。

「お前、知ってたな!エスカーがいること、知っててからかったな!」

知るわけがない。だが、俺は

「『小姑』のお返しだ、怒るなよ。」

と、笑いながら言った。エスカーは、

「姫が、話があるからと、二人を呼んでいたんだけど、取りあえず、ホプラスさんだけ先に。兄さんは…身繕いしてからで。」

と、達観したような口調で言った。俺は笑いながら廊下に出たため、ルーミがなんと答えたかはわからなかった。

廊下で、俺は青ざめた。やばい。まずかった。エスカーがいなかったら、今頃。

そうなったら、強制回収だろう。融合することはまずないと思ってたから、回収の基準は詳しくはないが。ルーミとディニィをくっつけずに、予定の子供を産ませず、計画を壊したりなんかしたら。

気を取り直し、女性達の部屋に向かう。三人揃っていた。

「丁度よかったわ。ホプラス、あなたが先に見た方がいいわ。」

と、ディニィが、訳した手紙を差し出してきた。

ディニィは、一日かかると思ってたけど、と付け加えた。


“この手紙を解読し、鍵を手に入れた君へ。

私は神聖騎士である。エパミノンダスの残党・マイディウスを討伐するにあたり、大隊長ダルタニス率いる、討伐部隊に選ばれて従軍した。マイディウスが立て籠ったのが、山奥の村だったので、大した勢力ではないと思われていた。私を始め、何人かは、複合体の可能性を考え、念のため神官か、魔導師を要請すべきだと進言したが、大隊長は、情況から、今なら早期解決できると判断し、突入を試みた。

だがそれは、マイディウスの思う壺だった。

彼は、宿主にする、強い肉体を欲していた。そのため、わざと弱いふりをし、騎士団をおびきだした。

『水の宿主は、騎士崩れを使った。だが、しょせん騎士崩れなので、忠誠心が薄い。洗脳が上手く利かなかった。』

と言っていたので、私たちの前に、元騎士が犠牲になったようだが、詳細は不明だ。参考のために書き記す。

マイディウスは、最初、大隊長の肉体に土のエレメントを、私を洗脳して、逃走を計るつもりだったのだろう。が、私は直前に大隊長を突飛ばし、自分の肉体に土のエレメントを入れた。風魔法使いの私ならば、押さえられるかもしれないと踏んだからだ。

狙いは当たったが、押さえるまでに、大隊長を殺してしまったらしく、足元に遺体があった。マイディウスの姿はなかった。

不可抗力とはいえ、上官を殺した私は、せめて償いに、人の意識のあるうちに、エレメントと共に、自らを隔離しようと思う。

その為にある女性に不名誉を背負わせてしまうかも知れないが、大義のためである。

祠に立て籠る事も考えたが、万が一の事を考慮すると、町に近すぎた。

この手紙を読めるのなら、高位の神官がパーティにいるはずである。


私を、倒してくれ。


なお、私の古代神聖語は、幼少時に神官の叔母から、教養として教わった物なので、拙い表現は許して欲しい。


神聖騎士クィントゥス・オ・ル・タルコース”



「2」。


クイントゥス・オ・ル・タルコースは、代々、騎士団長を始めとする、優れた武人を排した、名門貴族の第五子だった。全部で9人兄弟だったが、男子は、一番上の兄と、二番目の兄と、五番目の彼だけだった。四番目の姉までは先妻、それから先は後妻の子だったため、四番

目と五番目の間は、20歳近く年が離れていた。

一番目の兄は、文武両道に秀で、騎士団の若手で最も団長に近い男と言われていたが、魔法院の副院長で、次期宰相と言われていたエパミノンダスが陰謀を企み、その討伐で、命を落とした。

次の兄は、運動能力が低く、魔法は少しましだったが、いわゆる「お預かり」で、騎士養成所にいる間に、両親に無断で、身分の低い女性と結婚し、駈け落ちした。しかし数ヶ月後、一人で戻ってきた。女性が金目当てな事に気付いたからだ、という理由だったが、詳細は不明だ。ともかく、彼は、一族の歴史に、強烈な醜聞の金字搭を立てていた。

一族は、順番なので、長男の死後は次男を当主にしていたが、こっそり期待をかけているのは、第五子のクイントゥスだった。

クイントゥスは、長兄をとても尊敬していて、当然、反動として、次兄を嫌っていた。長兄のようになり、次兄のようにならないために、周囲ともども必死で努力し、騎士団養成所の少年部で、常にトップを維持し、一年スキップして、中等部にはいった。年齢に合わない威厳と、厳しいモラリストの側面がカリスマとなり、貴族の師弟を中心に、人気を得ていた。

カリスマは、彼の個性に根差した、自分の内から出る光だった。これは、最後まで彼のものだ。だが、首席の座だけは、一年後に三年スキップして、入ってきた、戦災孤児出身の天才に、奪われる事になった。

ホプラス・ネレディウス、これが、その天才の名だった。年齢と体格のため、剣術や格闘は不得意だったが、最初のうちだけだった。ラッシル系のホプラスは、コーデラ人より成長が早く、背も高くなり、あっという間に追い付いた。

タルコースが、ホプラスをどう思っていたか、細かいところははわからなかった。連絡者の事前情報にも、そこまではなかった。貴族組や、貴族組と親しい平民組は、ホプラスを「出来すぎているから」と、嫌っている者が多かった。だが、タルコース本人は、ライバルと認めているようだった。

彼も勇者候補だったのだが、大衆受けが悪いという理由で、早々に外されていた。

タルコースが「死亡」していた事は知っていた。ディニィの護衛を引き受けるために、王都に行った時、再会した騎士団の友人・ガディオスとアリョンシャから最初に聞いた。墓参にと思ったが、遺族の希望で「墓」は故郷に作られた、ということだった。長兄は騎士団の墓地に葬られていたので、今度は故郷に、と考えたらしい、と聞いている。

頼りない次兄の代わりの、領民へのモニュメントかもしれない。

突入せずに残って生き延びたメンバーの中に、養成所時代からタルコースと親しかったエイラスがいたらしいが、彼はその後、直ぐに地方勤務になっていた。

「俺、タルコースにあったこと、あるよ。」

とルーミが、言った。彼と団長に挨拶に行った時に、婚約者を紹介に来てたクロイテスに付き添ったのか、一緒にいた。その時、俺とルーミを見て、

「やはり騎士にはならないのだな。」

と声をかけてきたので、二言三言会話した。彼と話す機会はめったになく、片手剣の実習でも、対戦することはなかった。講師側が気を回したらしい。

ルーミがその事を言っているのかと思ったが、違った。

「その前に、お前に会いに、騎士団の寮に行った時に、廊下で会った。お前の上司だと思ったから、丁寧に挨拶した。」

エスカーとディニィは、王都で面識があった。エスカーは、タルコースが就任した時に、師匠から、「今年の一番の騎士らしい。」と紹介されていた。

「紹介された時、ちょっと複雑な顔をしてたんだけど、後で、『本物の今年の首席は、恋人について行くために騎士を辞めた。』と噂を聞きました。ああ、それでか、と思いました。まさかホプラスさんと兄さんの事だとは思わなかったけど。…僕が言ってるんじゃなくて、噂ですよ、噂。」

ディニィは、神官なので、普段は神殿にいたが、祝い事の時は王族としてパーティに出た。その席で、何度か会った、という。

「お父様は、ガディナの婿に、あの人を、と思ったことがあるの。ガディナには子供の頃から好きな人がいたから、成立しなかったけど。ダンスが少し苦手だったようだけど、なんだか、『完璧』って言葉が、ぴったりな人でした。」

話を聞いて、キーリが、

「それなら、これだけ知り合いが居れば、なんとかなるかも知れませんね。」

と言ったが、ラールが、

「それは期待できないと思うわ。残酷なようだけど。」

と冷静に言った。

「水の宿主はどう?彼も知り合いだったはずよ。もちろん、かなり性格は違うようだけど。そういうのが、通じなくなるのが、複合体なんでしょ。おそらく。」

水の宿主は、同じく騎士養成所時代の同期の、クミオ・キーシェインズだった。貴族ではないが、誉れ高い老将の外孫のため、貴族組とみなされていた。彼自身も、貴族組として、平民組と孤児組の事は蔑視していた。平民組は、貴族組に近付きたがる一派もあったので、彼一人がそう、というわけでは、もちろん無かった。

彼は普段はタルコースにくっついていて、その時はおとなしかったが、タルコースが見ていないと、人が変わった。

パーティのみんなには言っていないが、俺と彼との仲は、最悪だった。彼は小柄な金髪の美形に目がなく、男女を問わず、まだ15にもならない少年少女でも、庶民であれば、金でいうことを聞かせようとするため、その手の評判は悪かった。

俺がルーミと再会する前、酒場でギルド仲間と食事をしていた、まだ13のルーミに、しつこく値段の交渉を持ちかけ、迫り、彼から殴り飛ばされて、騒ぎになった事がある。

その後、俺はルーミと再会するのだが、それを、自分が目をつけていた子を、俺に横取りされた、と思ったらしい。

一度、養成所の食堂で、露骨に性的な嫌みを言われた。俺とルーミは、「兄弟」だったが、養子同士で、血縁はないし、顔も似ていない。ルーミの容姿が良い事もあり、確かにその手の「誤解」(皮肉な事に、今では、俺に関しては、誤解ではなかったということになるが)はあった。普段なら聞き流すが、その時の俺は、ルーミと喧嘩していて、もやもやとしていたため、思わず殴り飛ばしてしまった。

証人がたくさんいたので、俺は一日の謹慎で済んだ。キーシェインズは一応被害者なので、処分はなしだが、これで、タルコースがキーシェインズを庇わず(タルコースは、わざわざ謹慎中の俺の所に、監督不行き届きを、謝罪にきた。)、見放したため、卒業はしても、直ぐに親元に帰された。水の宿主になったのは、この後だ。

ラール達は、このいきさつを知らない。仲の悪い元同僚程度に思っているはずだ。

サヤンが、ラールの後を継ぎ、「あたし、難しい仕組みはわからないけどさ、水の奴はともかく、風の時を考えると、どんな人でも、複合体になってしまうと、だんだん押さえが効かなくなってきちゃうんじゃないかな。タルコースって人は、かなり強くて、自分で自分を閉じ込めるとこまでは、しっかり出来たけど。」

と語った。

「おお、それで、火は人間以外にしたのかも知れん。ドラゴンなら、人間のような意志がないから、操れると踏んで。」

とユッシが、恐らく、核心を突いた。

「でも、まだ、希望はあるわ。今度は、風魔法使いに、土のエレメントでしょう。私の聖魔法があれば、浄化できる方向に進めるかもしれないし。」

ディニィが、静かだが、芯の強い声で言った。

俺は、ルーミの結論を待った。だが、、ルーミは、俺の発言を待っている。

融合前の俺なら、タルコースが、倒してくれ、というなら、無抵抗を幸い、さっさと倒して終わりにする。だが、融合した今は、違う。

「ルーミ、みんな、もし、可能であれば、なんだけど。」

俺は、一つの提案をした。それは受け入れられた。

タルコースの魂のために。


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