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勇者達の翌朝(旧書)  作者: L・ラズライト
11/13

紺碧の真珠

ラスボス戦です。


物理的な勝敗だけではなく、精神的な意味も含んでいます。


旧書「紺碧の真珠」


全てが合わさると、白くなるんだな、ルーミがそうつぶやき、諦めるように目を閉じていた。


   ※※※※※※※


島の建物は廃墟で、不気味な様子をしていた。

モンスターはタフで、倒しても倒しても立ち上がる者もいる。戸惑ったが、死体にエレメントが入っているためのタフさだとわかった。

慣れないタイプにはなるが、回復能力はないため、足や羽を攻撃して行動不能にしてしまえば、恐れるに足りなかった。

「こんな事なら、神官を何人か借りてきたのに。」

とエスカーが言った。ラスボス戦を控えて、ディニィの負担を軽くしたいが、このタイプには聖魔法がよく利く。

「それだと、彼女たちを守るために、盾持ちを増やさないと。結局、人数を絞って、この形になってると思うわ。」

ラールが答えた。キーリは、死体に刺さった矢を抜いて、毒素の侵食がないものを選んでいた。サヤンはモンスターを蹴飛ばした時に間違って触ったので、毒素で腫れた足に、ディニィから回復を受けていた。ユッシはキーリに、「コーティング矢」の性能について尋ねていた。

俺とルーミはいつも通り、パーティの先陣にいた。死体系のわりに、悪臭がなく、全体的にからっとしていた。

「水のエレメントの研究所だったはずだよな。なんでこんなに乾燥してるんだ。まあ燃えやすくて助かるけど。」

と、ルーミが、俺に聞いてきた。

「だからって、他のエレメントが豊かなわけじゃないしなあ。エパミノンダスが吸収してるのかな。」

聞かれても、俺も見当がつかないが、今のところ、ルーミがいうのは、一番可能性のある答えだろう。


「俺は、連中の人間だった頃の様子は知らないんだが、なんかなあ、それが想像できない、と言うか。そもそも、俺達とは、同じ世界にいない奴らだと言ったほうが、納得できるというか。」


「兄さんも、そう思いますか?生前…と言っていいのかわかりませんが、両極端なとこがあったな、と師匠が。単に感情の起伏の激しい人かと思ってましたが、現象を見てると、別の意味もあるかもしれませんよ。」


この視点には、ぎくりとさせられた。俺たちの世界の根幹にも関わる話だが、俺にも今は、確かめようがない。


敵が立てこもっているのは、最奥の実験棟だと思われたが、探知の結果、その手前にある「礼拝堂」の可能性が高いとわかった。職員用に、きちんとした物を建てたかったらしいが、予算かスペースの関係で、イベントホールを転用していた。特に特別な装置はないので、「罠かも」という意見がでたが、どっちにしろ、途中にあるため、寄ることになった。

前衛を俺達の他、ラールとサヤンも加え、「礼拝堂」の入り口に近づく。

その時、誰か叫んだ。サヤンだと思う。彼女は、飛んできた何かを避けたが、足をとられたなのか、勢いよく転んだ。続いて、ラールが、ルーミに「避けろ」と言ったが彼女も転んだ。

ルーミは、彼女たちを助けようとしたが、何かに絡めとられる。煙。火の臭いはしない。ガス攻撃にありがちな異臭もない。

前衛四人を内側に、礼拝堂のドアが閉まった。俺はドアに向かったが、開かない。

サヤンとラールは倒れていた。ルーミが彼の近くのラールを、俺がサヤンを見る。意識がない

ガスではないようだが、薄い真珠色の靄の様なものが、礼拝堂の中心部、演壇から出ている。エレメントが特定できない。

ルーミが、

「エレメント…全部合わさって真っ白に…?」

と言い、そのまま倒れた。駆け寄ろうとした俺は、一瞬、意識が重くなったと思ったら、次の瞬間、反対に、嘘のように軽くなるのを感じ、戸惑う。

軽い。俺しか、いない。ホプラスが、感じ取れない。

“邪魔な連中には、眠ってもらった。”

真珠色の真ん中に、エパミノンダス、いや、彼だけではない、多数の人間の気配がする。しかし、同時に、彼らは一つの意識になっている。

“完全な物、この世界の最高にして、最強の物になり、全てを手にいれるには、超越した世界の意識がいる。すなわち、貴方だ。”

奴の声は古いタイプの人工音声のようだった。もしくは、人間の声だと思い込んで、弦楽器の音を聞いていて、途中で気がついた時のような、違和感のある「音」だ。

ホプラスは「眠って」いる。この軽さは、守護者の俺の意識だけだからか。

この「技術」、エパミノンダスは俺達サイドの者だろうか。大昔は、融合時に、いくつかの条件が重なると、回収後も分離出来なくなり、そのままワールドの魂になるケースが、稀にあった。しかし、今は分離技術が進み、何年もそういうケースは出ていない。あったとしても、ワールド放置はされず、回収後、「適切な者」は俺達の側に、「不適切な者」は、分離技術が向上するまで管理・保存されているはずだ。

仮に、このワールドに、そんなケースがあったとしても、ラスボスに回って、本来の勇者の邪魔をするまで放置するなんて有り得ない。

だが、狙ってやってた可能性は否定できない。異次元のラスボスは珍しくないし(その異次元が俺達の世界、というのはさすがになかったが)、「不始末」を、もののついでに、勇者に「始末」させる事にしたのかもしれない。

“我々は、神の貴方を取り込み、完成する。貴方の全能は代わらない。世界の為に、協力してくれ。”

俺は驚いて、エパミノンダスを見た。先程とは、明らかに「精神基盤」が違う。靄に彼の面影はあるが、より穏やかな表情の、別人の顔になっている。

それがさらに、別の顔になり、

“神になったら、その子も手には入る。”

と言った。そして、またエパミノンダスの顔に戻り、

“私は神になる。”

と続いた。

俺は状況を把握した。エパミノンダスはたいしたものだ。自力で「世界の謎」を解き、「融合」を実現しようとした。一見、成功したように見える。このワールドの基準なら、成功、と言えるかもしれない。

だか、俺達の基準では、失敗だ。彼らは、「混合」されているだけだ。

「残念だが、無理だな。俺はホプラスと融合している。俺を取り込んだら、ホプラスもついて来るが、こいつは、お前と『混ざって』世界を手にいれる気なんか、さらさらない。」

そういう奴だから、俺も助ける気になったんだ。第一、彼が欲しいものは世界なんかじゃない。

「なんなら、試して見るか?」

煙が俺を包んだ。入り込む意識、渡される記憶は、ことごとく弾かれる。エパミノンダスは動揺した。その時、いくつかはエパミノンダスを離れた。マイディウスの物もあった。「神」と融合できないと見て、見捨てたらしい。

刺激で、ホプラスが目覚める。少し「重い」。これを見越した訳ではないが。

とたんに、意識の中に、一人の女性が現れた。やや明るい茶色の髪に、暗いブルーグリーンの瞳。優しく微笑んでいる。

“やっと会えた。愛しい子。”

母さん、ホプラスの意識に甦る記憶。ホプラスの養母。彼が幼い時に死亡した。懐かしい子守唄を唄った人だ。

“ホプラス…愛しい子。”

違う、ホプラスが否定する。違う。本物は、「ホプラス」とは呼ばない。それは、ルーミが着けた名前だ。

俺は「降りきった」。悟れば、幻影は消える。連中の中には、こういう術を使える者もいるらしい。

俺は、意識のないルーミを見た。彼の手が、俺の腕を掴んだからだ。焦点が合わない。

「母さ…ホプラス。」

俺をとらえた目。焦点が戻る。母親の幻覚、か。俺はともかく、ルーミに効果があるかは疑問だ。敵はそういう個別対応はできないらしい。

「ラールとサヤンは…?」

振り替える。サヤンは今、起きた所、ラールは、少しびくりとしていたが、ゆっくりと起き上がる。

「ドア、開けなきゃ。」

と、サヤンは弾かれたようにドアに翔んでいく。ラールは、「幻覚か…」と短く言い、やや緩慢な動作で武器を構え始める。

俺と融合出来ないから他を求めたか、はたまた肉体が欲しかっただけか。いずれにせよ、彼女達にもたいした効果はなかったようだ。

「サヤンもラールも無事だ。お前は大丈夫か、ルーミ。」

「ああ。取るに足りない夢を見せられたけど。」

ルーミは、靄に向かい、続けて

「俺の母親は、ああいう発想のある人じゃないんだよ。『勉強』してから、出直してくるんだな。…する機会なんて、やる気はないが。」

と皮肉に言った。靄は悔しそうに、また一つ、気配を消した。

“私にその男を渡せば、お前の望みを叶えてやれるぞ。今のままでは、決して叶うことのない、お前の希求を。”

靄が少し、中性的な様相の人物を描く。幻覚の奴よりは少し頭があるようだ。質問で気をそらした隙に、こっそり、ドアの方にも靄のベルトを伸ばしているのが見えるが、気づいたルーミが、火魔法を出すと、すぐ引っ込めていた。

「断る。」

俺は剣を構え直して答えた。靄は何か言いたげな顔をしたが、俺は畳み掛けた。

「本物の『神』が、唯一、残してくれた最後の物だ。例え、

『神』が返せと言っても、断る。だいたい…」

だいたい、中身がお前らで、外側だけルーミでは意味がないだろう。それこそ、『勉強』し直せ。そう続けたかったが、続く言葉は、飲み込んだ。ルーミに、思いきり、足を踏まれたからだ。

「いきなり、何するんだ。痛いじゃないか。」

「お前の台詞の方が痛い。…あれ、見ろ。」

サヤンの開けたドアから、いつの間にか、皆が入ってきていた。ユッシはサヤンの、キーリはラールの、そしてエスカーはディニィの側にいた。

「兄貴、何か突っ込む?」

「いや、わしらの口出す世界じゃないし。

「一応、僕達、仲の様子が心配で飛びこんで来たのですが。」」

「それで良いわよ、キーリ。深刻な事態なのは変わらないから。」

「今更ですけど、弟の僕の立場、無くないですか?」

「二人は、きっと、私達をなごませようとして…。」

さりげなく、ディニィが一番きつい。

無視されたせいか、白靄は唸りながら、魔法用のエレメントを蓄え始める。先程まで、属性のはっきりしない所があったが、今は、完全に属性別の弾を準備している。つられて、周囲の器物が、動く。

ホプラスの意識のない間なら、守護者の力を使えたかもしれない。だが、これでいい。これは、俺達の戦いだ。だから、守護者の俺だけでなく、全員の力で終わらせるべきだ。

“馬鹿な事を。”

エパミノンダスは悔しそうに言っていた。

「じゃ、行くぞ。…ここまで来たんだ。一緒に、倒そう。」

ルーミが皆を、そして俺を見て、言った。

ユッシが斧を振るい、サヤンがが気功を放つ。

キーリは近距離用の小型ボウガンに持ち直した。ラールは、飛び道具ではなく、ナイフを構える。

エスカーは、ディニィを守るように控え、魔法の準備をする。その後方で、ディニィは、とどめ用に、力を集中している。

ルーミは、魔法で威嚇しながら、剣を振るう。俺は、両手でしっかり剣を握り、魔法剣を発動した。

「行くぞ、ホプラス。」

「ああ、これで終わりだ。」

そして、俺達は、対になって、最後の敵を攻撃した。

流石に強い、と言いたい所だが、ここまできたら、俺達の敵ではなかった。

ディニィの魔法が天雷のように閃光した時、全てが終った。エパミノンダスは、跡形もなく散った。

「これで、終ったんだな。」

ルーミが俺にだけ呟いた。俺は

「ああ。」

と答えた。今、それ以上は見つからない。

ドアから外に出る。先程までの、湿った寒い空気が嘘のように消え、からりと暑い、夏の空気になっていた。

紺碧の真珠と呼ばれた、ラズーパーリの、本来の夏の空気に。


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