世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!?〜シスコン兄が最愛の妹を取り戻すために猫耳少女を◯◯させる!でも俺が◯◯ると殺されます!〜【読み切り版】
「なんだよこれ。話が違うよ!」
「ちょっとなんですのこの化け物!?」
俺と猫耳少女の目の前で、体長3メートルはあろうかというクモの化け物がムシャムシャと音を立ててそれを喰らっていた。
「うっ!」
それを見ていると腹から嫌なものが上がってくる。
なにせ、そのクモは人間を頭部から喰らっているのだから。
「おじさん、頭の斜め半分を食われてるのになんで笑ってんだよ。」
しかも、そのおじさんは隣人とだろうか世間話をして笑い合っているのだ。
本人も隣人もクモの化け物にすら気づいていないかのように。
『それは人間ではなく思い出を食べているからよぉ。 でもおかしいわねぇ? 思い出の中になんでこんな化け物がいるのかしらぁ? 』
こんな状況だと言うのにツキさんの呑気な声が頭に直接響いてくる。
そう、ここは現実ではない。俺の中にある妹のスズの思い出の中だ。
世界の再構築者として覚醒した俺は他人の思い出を吸収し、世界を滅ぼすエネルギーを得てしまった。
それに伴い、スズをはじめ周囲の人間は俺の事をすっかり忘れてしまっている。
今は俺の中からスズの思い出をひとつずつ取り出しあるべき場所へ返すために、ツキさんの妖術とやらで猫耳少女とスズのとある思い出の中へ来ているのだ。
ちなみに、思い出の中に来てしまった副作用か猫耳少女の名前は思い出せない。
『そいつは思い出の核を探しているのだと思うわぁ。世界の再構築者についてここまで調査をしたことがなかったからわからなかったけどぉ、おそらくそいつが思い出を喰らってエネルギーに変えてるとかそんなところでしょぅ。』
「そんな適当な! うわ! なんかこっち見てるけど大丈夫なのか?」
『情報が無いからとりあえず逃げた方が良いかもねぇ。』
次の瞬間、クモの腹部が盛り上がり、体調30センチほどの子クモが無数に湧き出し、俺たちの方へ向かってきた。
「うわ! 気持ちわる! なんかヤバくないか!」
「タカシさん! とりあえず逃げますわよ!」
俺たちは一目散に逃げ出し、子クモたちを撒き息を切らして地べたにへたり込んだ。
「な、なぁ、俺を殺そうとした時みたいに薙刀でなぎ払えないのか?」
「バ、バカ言わないで! お母様ならともかく私はあんな化け物と戦ったことすらないのよ!」
お母様とはツキのことだ。
「その割には俺を殺そうとした時にやる気満々だったけどな。」
「うるさいわね! あれは命令だったから仕方なく……」
「へぇ。」
「とにかく! 今はこの状況をどうにかしないとあなたの目的を果たせませんわよ!」
『そのことなんだけどぉ。さっきも言った通りあの化け物は思い出の核となるものを探しているのだと思うわぁ。その核をあいつに食べられちゃったらもうこの思い出は妹さんには戻せなくなるかもねぇ。』
「そ、それは困ります!」
『とりあえず思い出を守ることを優先した方が良さそうねぇ。タカシちゃんもまだこの思い出を完全に思い出せてないからちょうど良いウォーミングアップじゃなぁい?』
「そんな他人事みたいに! そもそも思い出の核って何なんですか?」
『そんなの決まってるじゃなぁい。これは誰の思い出の中なのぉ?』
「それってスズがあいつに食われるってことなのか!?」
『そういうことだからぁ、がんばってねぇ。』
「こうしちゃいられない! 行くぞ!?」
「行くぞってどこに行きますの?」
「わからない、でも早くスズを探さないとって!? 危ない!」
「きゃ!?」
俺はとっさに猫耳少女を突き飛ばしそのまま転んでしまった。
『キシャー!』
茂みの中から先ほどの子グモが襲ってきたのだ。
「え、えい!」
『キュー!』
猫耳少女は即座に薙刀を顕現させて子グモをなぎ払おうとしたが、思ったより素早くかわされたようだ。
「タ、タカシさん! 大丈夫って! ひゃぁ!?」
「あぁ、大丈夫……え?」
転んだときに汚れた服を左手で払おうとしたが。
『くちゃくちゃ』
「俺の……左手が……」
いつもある場所に左手はなく、左肩から喰い千切られて子グモに咀嚼されていた。
「う……うわーーーー! な、なんでーーー!? 俺の、俺の、俺の腕腕腕!?」
気づいたら腕がないなんて、普通の神経の人間ならパニックになって当然だ。
「腕がぁ! あれ? でもなんで!? 痛くない……?」
パニックにより痛覚が遮断されたのだろうか、痛みは感じなかった。
「だ、大丈夫ですの?」
「あぁ。なんだか痛みはないんだけど感覚が……」
『タカシちゃん、大丈夫よぉ。そいつは思い出の中のタカシちゃんの一部を食っただけだから致命傷にはなってないはずよぉ。ただ神経が切り離された感覚が脳に刻まれちゃったから結構なリハビリが必要そうねぇ。』
「そ、それって大丈夫って言わないです!」
『あらぁ。でも悠長にそんなことしてていいのぉ?』
気づけば猫耳少女が涙目で心配そうに残った俺の右手を握っていた。
「あっ! いつまで握ってるのよ! 大丈夫そうね。」
「いやあんまり大丈夫じゃ、ってうしろ!」
『キシャー!』
『ズシャ!』
猫耳少女はふり返りざまに飛びかかってきた子クモなぎ払った。
空中にいてはかわすこともできなかったのだろう。
子グモは真っ二つになり、直後灰と化し空中に消えていった。
「や、やりましたわ! タカシさん見ましたか!? 私やりましたよ!」
「あぁ。ありがとう。まだいるかもしれないから気をつけて行こう。」
まぐれで当たったかのようにはしゃぐ猫耳少女に少し不安を覚えつつも先を急ぐことにした。
その後、猫耳少女は慣れてきたのか襲ってくる子グモをテンポよくなぎ払っては灰にしていく。
もう夕暮れを迎え、辺りが暗くなってきている。
「タカシさん! まだ妹さんのいる場所を思い出せませんの? 猫目だからと言っても暗くなると不利ですわよ!」
「いや、何年も前のことみたいでどうも思い出せないんだよ。」
「それでも妹を最愛とする兄ですの?」
「くそっ、自信がなくなってくる、ってまたっ!」
「え!? 間に合わなっ、きゃ!」
『キュー!』
俺は残された右手で現れた子グモを全力で殴りつけた。
子グモは生き絶えたのか灰になって消えていったが、殴りつけた時に俺の右手の先に噛み付いたようで右手の指が全てなくなってしまっていた。
猫耳少女も反動で転んでしまい、膝に怪我をしてしまったようだ。
「大丈夫か!?」
「ど、どうして。 あなたの方が大怪我なのになぜ私をそこまでかばうのです!?」
「なぜって、俺はおまえの家族だからな。」
家族と聞いた猫耳少女は涙した。
そして、地面に座ったまま涙目で俺を見る。
自分の不甲斐なさが悔しい。
その瞳からはそんな思いが感じられた。
「これは!?」
その瞳を見た瞬間、俺の中にあった思い出が蘇っていった。
「ひっ! きゅ、急になんですの!?」
「俺、思い出したんだ!」
そして俺たちはある目的地に向かって走り出した。
だが、ようやく目的地の目の前まで来たところで。
『ギュジャーー!』
「お前、また出会っちまったな。」
そこには子グモと比べようもない咆哮をあげるあの最初に出会った親グモがいた。
「くそっ! やっと思い出しったってのにこれかよ。」
「タカシさん! 行ってください。 ここは私が引き止めます。」
「いや無茶だろ! あんなやつ勝てっこ……」
「嫌なんです! 私、お姉さんだから、あの2人の見本にならないといけないの。」
「おい、待て! 無茶だ!」
猫耳少女は親グモへ怯むことなく突っ込んでいった。
だが、親グモは前足を頭上へ上げると。
「やめろーー!!」
『ズシャ!』
猫耳少女は避けることもできず、その高速にスウィングした前足に胸を刺された。
親グモは前足に胸を貫かれぶら下がってピクリとも動かない猫耳少女をいちべつすると、その足をなぎ払い猫耳少女を草むらへと投げ捨てた。
「く、くそぉおおお!!」
その一瞬をついて俺は目の前にある目的地へと残る力を振り絞り走り出した。
一刻も早く猫耳少女の元へ駆け寄りたかったが、それはこの一瞬の隙を作ってくれたあの少女の好意を裏切ることになる。
その様子を見た親グモは俺が思い出の核へ近づいている事に気がついたのか、猛スピードで追ってくる。
「あと、少し。」
その目的地は、今は使われなくなった小さな小屋。
この思い出の前の年にここへ来た時だろうか、スズと辺りを探検し見つけた2人の秘密基地だ。
そう、思い出の核、スズはここに隠れている。
その理由は……
「スズ!」
おれは小屋のドアを勢いよく開けて中に入った。
そこには虹色にかがやく球体があった。
これが思い出の核なのだろう。
『バキバキバキ!』
『ギュジュァアアアア!!!」
親グモが入り口を破壊して小屋に入ろうとしている。
俺はすかさず既にないはずの左腕と、先が喰われてない右腕でその核を優しく抱きしめた。
次の瞬間。
思い出の核から、優しく白く輝く煙が吹き出し辺り一面を白く染めた。
『ギョエェェ!!』
その煙に包まれた親グモは灰と化して白い煙に飲み込まれていった。
それと同時に、俺の意識も白い煙の中に消えていった。
「お兄ちゃん! ちゃんと持っててよ!」
「わかってるって! ほらちゃんと漕げよ!」
「わっ! わっ!」
俺は妹が漕ぎだすと同時に静かに手を離した。
『がしゃん!』
まだ手を離すには早かったようで妹は盛大に転んでしまった。
「お兄ちゃんの嘘つき! ちゃんと持ってるっていったのに!」
「持ったままだったら、いつまでもひとりで漕げないだろ。」
妹は地面に座ったまま涙目で俺を見る。
自分の不甲斐なさが悔しい。
その瞳からはそんな思いが感じられた。
「お兄ちゃんの教え方が悪いからいつまでたってもひとりで自転車に乗れないんだもん!」
「なんで俺のせいにするんだよ! スズが運動音痴なのが悪いんだろ!」
「お兄ちゃんのバカ! 嫌い! 」
「ああ! 俺もスズが嫌いだよ!」
なんでわかってやれなかったんだろう。
スズは俺に八つ当たりがしたかっただけなんだと。
褒められたことではないけど、兄が妹のそんな想いを受け止めてやれず跳ね返してしまってどうする。
その後、俺は部屋でひとりふて腐れて寝てしまっていた。
「タカシ? スズを見なかった? もう日が暮れるのに帰ってきてないのよ。」
母親にそんなことを言われて起こされた。
「え? 外で自転車の練習してるんじゃないの?」
「それが、いないのよ。ちょっと探してくるわ。」
もういても立ってもいられなかった。
「母さん、俺も行く!」
「もう暗くなるからタカシは留守番してなさい。」
そう言って母は部屋のドアを閉めた。
「俺のせいだ。妹に何かあったら俺が全部悪いんだ。」
頭より体が早く動いていて、気づいたら窓から外に出ていた。
もちろん靴なんて履いてないけど、足の痛みなんてこの胸の痛みに比べたらどうでもよかった。
「スズが行きそうなところ。」
すぐに思いついた。
去年、ここに来た時にスズと探検して見つけた秘密基地。
そう、ここは毎年夏休みに家族で来ている祖父の田舎だ。
きっと秘密基地に違いない。
俺は全速力で秘密基地に向かった。
「やっぱり。」
秘密基地の小屋の前に練習すると田舎まで持ってきた女の子用の自転車が置いてある。
俺は、小屋の扉をゆっくりと開けて妹の名前を呼んだ。
「スズ。遅くなってごめんな。迎えにきたよ。」
「お兄ちゃん!」
扉を開けたと同時に、俺の妹が飛んで抱きついてきた。
そう、赤髪の猫耳の生えた俺の妹……あれ?
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