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..................

むかしむかし、神は怒って、だから人間は人間を供物にした。


これも、その人身御供。僕のかわいい妹の肉体は、神に捧げられた。その代わりに与えられしたましいの器は、吐きたくなる程に、醜悪・・



何故、妹をよりによってこんな醜い姿に?


何故、よりによって僕の妹が生贄に?




妹は神のものなんかじゃない。紛れもなく、僕のだ。それをあたかも自分の所有物かのように好きにしてーー。




..........いと憎し、神。




僕は、寝殿に暴れもせずおとなしく佇む化けものの頬(いや、顎かな?)を、やさしく撫でた。


「愛しい、愛しい、僕の化けもの..........きみは屍になったとしても、僕のだよ。大事にするから、安心して」


そう言って微笑みかけると、化けものが何か喋った。


〈やだ、嫌だ、や、だぁ..............〉


「化けもの、何が嫌なの?」


〈嫌だ..........違う、違う違う違う違う...............あいされたかっただけなのに..........だれでもいいから、あいされてみたかっただけなのに..........〉


化けものはぎょろりと飛び出た複数の目玉からドロドロと汚泥を出した。これがひどく臭う。


〈ときどきねぇ..........沙羅、自分がバケモノだってことを、忘れちゃうの..........わからなくなっちゃうのぉ..........いつもいいふうに解釈して..........でももう死んだほうが、らく..........〉


「そうかあ」


つまり自分が人間だって勘違いしちゃう、と。


その原因は、()()()にあるんじゃないかなあーー。


沙羅にとっては、ひどい現実を忘れさせてくれる人たち。僕にとっては、沙羅を勝手に変えてゆくから、目の上のタンコブ。


「ふたりとも。出てきていいよ」


すると、うす暗い物陰から、沙羅の友だちが呆然として現れた。それもふたり。


ふたりのその表情が表しているのは、驚愕、それから紛れもない恐怖。




ーーかわいそうに、怯えている。




「沙羅、なの..........?」


そう言う美妃ちゃんは、見るからに両足を震わせ、目は怖気づき、狼狽えていた。


ーー分かるよ、これほどの醜さだものね。


そして震える足で、一歩また一歩とバケモノに近づいていき、ひとすじ涙を流したーー。






「綺麗...............」



















....................エッ?


え、何、どゆこと? 今、綺麗って言った? どういう意味で言ってんのコイツ、もしかしてグロすぎてもはや綺麗?とか? そんなんある?


「綺麗すぎる..........沙羅、神さまみたい..........」


美妃様はそう言って、バケモノの前で手を合わせた。




ちーーーん。




「神さま、お願いです。どうか沙羅と性的に結ばれますように..........ってかこのコが沙羅じゃん! つッ、つまり今、面と向かってセッ◯◯を懇願したことに..........」

「美妃、拝んでる場合じゃないでしょ?」


志保さんは美妃ちゃんの頭をコツンと叩くと、化けものをまじまじと見て、言った。


「あたしバカだから、正直この状況よく飲みこめなくて頭ん中「???」だし、よくわかんないけどさ...............まずはお嬢を、守らないと」


そして、僕を見た。


「この、糞ヤローから」












〈たすけて..........たすけてだれか..........沙羅をたすけて..........にいさま...............〉


「沙羅に糞ヤローって言われるのはギリ許せるけど、あんたに言われるのはイラっとくるなあ」

「とりあえずどうやったら元に戻れるか、だよね」

「言葉は分かるみたいだよ」


ーーあれ? もしかして僕シカトされてる?


〈にいさま..........おにいちゃん..........〉


「ほら、僕を呼んでるよ。愛らしいね」


〈おにいちゃんのせい..........沙羅のものがぐちゃぐちゃにされたのは..........おにいちゃんが、沙羅がはじめて作ったものをぐちゃぐちゃにした..........あふたーすくーるも、おれんじきゃらめるも..........おにいちゃんが壊した..........〉


「沙羅のためだよ。沙羅にとって良い影響じゃなかったからね。..........僕が代わりの楽しみを用意してあげるよ、だから泣かないで」


僕がギョロ目から流れでる汚泥を拭おうとすると、それをパシリと遮られた。


目障りな女に。


「お嬢、こんな上から目線の男の言うことなんか聞くなよ、信じるなよ。こんな男より、あたしたちにしなよ。この男より短い付き合いかもだけど、あたしたちはこの男よりもっとずっと、お嬢を愛してる」


かのじょは真っ直ぐな目をしてバケモノに向かって話しかけている。


「お嬢はあの日、あたしが欲しいって言ってくれた。あたしを必要としてくれた。あたしと一緒にアイドルがやりたいって。..........美妃は綺麗って言うけどさぁ〜、これじゃアイドルは無理でしょ?」


かのじょはそう言って苦笑した。


「ねえ、本当にあたしたちとアイドルやりたいなら、戻ってきてよ。お嬢」

「戻ってきて、沙羅..........」


すると、いままで自分の妄想に取り憑かれていた沙羅が少し動いた。


()()のほうへゆっくり、にじり寄ってくるーー。










ーーでも、僕じゃなかった。沙羅が求めたのは。






〈たいちょお..........わたくしも、たいちょおを愛しています..........喰べたいくらい〉


「最後の一言は余計かな、お嬢」


〈みひさま..........こんなすがたになってもわたくしのこと、すき?〉


あれれ、何だか女の子同士だけどこのふたりだとキワどい質問したよーー?


ペチャパイ小娘は、ヌメヌメと湿っているバケモノの腹に何の躊躇もなく抱きついた。


「どんな一面を見せられても好き♡♡って思わせてくれる沙羅が最&高すぎて、大好き!!」


すると沙羅は、数百本もの歯の生え揃うグロい口を、ぐわりと開けるとーー。


表面のテロテロ光る真っ赤なその舌で、ペチャパイ小娘を、べろりと丸呑みにしたッ..........!






..........って、ジョーダン。頬を伝う涙のひとすじを、べろりと舐めとり、喉元がごくりと動くとーー。








まるで魔法で醜いカエルに変えられた王子さまが、お姫さまのキスでその美しい容姿を取り戻したようにーー。


とはいかず。


呪いで醜いバケモノに変えられた少女は、美少女の涙の雫で、その()()()()な容姿を取り戻しましたとさ。


めでたしめでたし♡

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