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心のまま楽しめばいいの

作中で曲のタイトルと歌詞を引用した部分がありますが、著作権は勿論作詞家様にあります。

作中で実在したアイドルグループ名が出てきますが、あくまでフィクションとしてお読みいただけると幸いです。

ここは、夢追い人たちの為のちいさなライブハウスです。新米アイドルAFTERSCHOOLのライブが始まる17時まで、あと三十分しかありません。


メンバーたった三人ですべて自主制作する地下アイドルですから、ステージに立つための化粧もそれぞれ自分たちでやります。漆黒のアイラインとアイシャドウを濃いめに塗りたくり、まつげはバサバサに。つけまつけるのは難易度高めの為、隊長に助けてもらいました。


わたくしたちはみな福沢諭吉氏と縁遠い金欠ガールですので、ライブ衣装は何でも売ってる驚安の殿堂、ドン・キホーテで購入したコスプレ服です。つまり、真紅のミニスカ軍服です。軍服は戦闘員である証です。このアイドル戦国時代に、下剋上する為の。レザーのニーハイブーツを履いたら、戦闘態勢は整いました。


「みなさん準備完了ですか? では、集合!」


わたくしたちは舞台裏で輪をつくります。たった三人の小娘だけのちゃちな輪です。


「では本日も、SexyかつCoolに歌い舞いましょ..........」

「沙羅、私から一言言わせて」


グラマラスメイクで顔面ビジュアル度の増したミヒ様が、鋭いまなざしでわたくしの言葉を遮りました。


「今日はビデオカメラ設置したからライブの映像を録って、その動画をようつべにうpするつもり。だからお前ら、今までの倍バイブスあげてけよ!!」

「おっけー。バッキバキのメッキメキに躍りまくる!」

「ということは外国の方もわたくしたちのライブを見ていただける可能性があるということですね? では本日の目標は..........地球人を愛そう!です!!」

「おーーーーー!!」

「目標がクソでかい」


隊長は雄叫びを上げ、ミヒ様には指摘を受けましたが、そんなことは関係ありません。


いざ、練習してきた成果をお見せしましょう! ファンの方々とのライブを楽しむのです!










わたくしたちのデビュー曲のタイトルは、銃声を意味したり、ずばり男女の性交を表す〝Bang!〟にいたしました。隊長が振りつけした踊りは、まるでアイドルに可愛らしさは無用と宣言するかのように、軍人の如くゴツい女戦士をイメージしています。


チビでペチャパイな氷の女王・ミヒ様がマイクを握ります。挑発的な歌詞はこうです。


A-ha! A-ha! A-ha!


T.R.Y. Do it now!

Can you follow me?

Yes!! Uh-ha~!!

T.R.Y. Pick it up!

You'll never catch me!!

Oh No!!


心のまま 楽しめばいいの


ためらわずに抱いて 分かるから


もう戻れない 身体が覚えて


愛のリズムが 聞こえて Catch up!! Oh!!






われらがディーバの放つ、黒人ばりの耳をつんざくシャウトは、同じくステージに立っているわたくしをも興奮に身震いさせます。


しかしながら観客の数はといえばメンバーと同じく3人しかいませんでしたので、これがバイブスアゲアゲのライブであるという表現は、なかなかできないのです。









ライブは無事に終わり、3人のファンのみなさまとの触れ合いのお時間となりましたがーー。


「僕、CD50枚買うから..........だからどうか僕をミヒ女王様のペットの雄豚にして好きにしてください。快楽でブヒブヒ鳴かせてください」


ミヒ様信者第1号さんが、この商談にすべて賭けている営業マンのように真剣なまなざしで懇願しました。ミヒ様は笑顔を引き攣らせながら、Bang!の自主制作CDをきっかり50枚取ると、手を出しました。


「ミヒ様の御手、尊みがすごいぃ..........スーパーすべすべ、そしてやわい..........」

「違うキモい触んな! 8万5千円!!」

「御意。この為に実家のママンから借金してきましたッ」


ミヒ様信者は総じて、クレイジーです。


「隊長、今日もえろかっこいー♡ 踊りだすと表情が普段と違いすぎてシビれちゃった♡ あたしの女神として崇め奉ってもいいですか♡」

「りなちゃん、今日も来てくれてありがとね!! りなちゃんもダンス、頑張ってる?」


学校帰りなのか制服姿の女子高生が目をハートにして懇願しましたが、隊長は上手く交わしています。


「はい!! 隊長の神ってるダンスにはまだ遠く及ばないけど..........」


隊長の場合は、年下から同い年くらいの女性ファンが多いです。


ここまでミヒ様と隊長のファンという流れで、最後の3人めのファンはといえばーー。


「ハァハァ、ミヒ姫ハァハァ」


3人めの方は人間だと思いますか、それとも獣の類だと思いますか?


「待たせてゴメンね☆ おにいちゃんが迎えにきたよ、ミヒプリンセス☆ さあ、いっしょにボクらのおうちに帰ろっか☆」


ということで3人めは、ミヒ様が裏で〝ロリコンクソハゲデブオヤジ〟と呼ぶ中年男性です。


ミヒ様はかれ(ファン)を完全にシカトしています。かれはそれだけで満足げでしたが、突然わたくしを見ました。


「お嬢、ボクはミヒプリンセスにはセクシー系よりプリプリでキュアキュアなのがハマると思うんだ。次はアイドルらしいキュートな歌を作ってね!!」

「御意、です..........」


大切なファンの方ですが、わたくしは嘘を吐いてしまいました。次もミヒ様の女王キャラと隊長のダンスを生かしたカリスマあふれる曲を作曲中ですーー。


「でもお嬢には感謝してるよ? ミヒプリンセスを顔面でも歌唱力の面でも引き立ててくれて、ありがとね☆」

「う゛ッ」


ハートにグサっときましたーー。




ーーそうなのです。アイドル活動を始めて3ヶ月が経ちますが、わたくし推しのファンはまだただの一人も現れないのですーー。






物販が終わり、晴れない気分で売れ残ったCDの枚数を数えていると、まだ衣装のままのミヒ様に声をかけられました。


「沙羅。歌、前より良くなってた」

「..........。」


それはまさにミヒ様の教え方がわたくしに合っていたからですが、それを教えてやるのは何だか癪です。


「..........何で無視すんの」


無言でCDを数え続けていると、CDを取られてしまいました。


「沙羅、私を見なさいよ」

「..........嫌です」


それでも目線をそらしていると、ぐいっと顎を掴まれてつぎの瞬間にはミヒ様と強引に目を合わせられていました。自分の醜い卑屈な心を今、見透かされている気がして視線が揺れそうになったとき、いきなり頬をつねられました。けっこう強めに、ぎゅーんと。


「いひゃいへふは(※痛いですわ)」

「ふふっ、ちょーぶさいく。つか、ぶさかわ?」

「!!」


本日二度めのパンチですーー。あわれなマヌケヅラをしていると、ミヒ様は言いました。


「さっきのロリコンクソハゲデブオヤジの発言! 超ムカつく、超イライラする! 沙羅をイジめていいのは私だけなのにね」


ミヒ様はそう言って薄紅色の唇を噛んでいます。わたくしは言いました。


「いや、もちろん誰にもイジメられたくなんてないですよ? 毒舌も、ぶっちゃけウゼェ!です」


そう言うと、普段は澄むような美白のミヒ様の顔が茹でダコのように真っ赤に染まり、目は子どもがスーパーで「お菓子はダメよ」と言われたときのようにみるみる潤んでいきました。


「...............沙羅の、ばかっ、おたんこなすっ、おっぱい星人!!」


そして男子小学生のような捨て台詞を吐くと、全力を尽くした猛ダッシュで走り去っていきました。


「あれは自分の発言を心の底から恥じてるね」


軍服を脱いだ私服姿の隊長がいつのまにか隣にいました。


「お嬢、さっきの気にしないでね。誰より努力してるの、知ってるから」

「隊長.....ありがとうございます」

「美妃にも後でフォロー入れてやって。お嬢の発言次第で右往左往しちゃう子だから」

「そうですね。..........わたくしのファンがゼロなのは自分の問題ですのに、ミヒ様に当たってしまいましたわ。謝ってきます」


舞台袖のすみっこで幼女のようにグズっているミヒ様を見つけるのは、もう少し後のことです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ちなみにこのお話を書いたやつはアフタースクールの大ファンです。活動休止した今もかのじょたちの動画を漁ってワフワフしてます。

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