親友時々強敵 その2
シェルザード城が村と呼べるなら、クラーレ城は街である。
単純な広さだけで言うだけではなく、シェルザードの周りは森で覆われており、はたから見れば森の中に大きな家が見える村といっても過言では無い。
クラーレ城は城下町も商人達の出入りも激しく活気に満ちており、白を強調した街にしっかりと手入れをした緑の草木のコントラストがとても綺麗である。
クラーレ城は植物などを積極的に研究をして薬剤などにも他国からの評価も高かったのである。
ガーデニングされた大きな中庭に女の子が1人お茶を楽しんでいる。
「で、今回は失敗したって訳?」
「は⋯はい。申し訳ございません! 姫さま!」
姫さまと呼ばれた女性ーーセレンは背丈はまだ子供であり、黒髪のツインテール、怒りをあらわしているのか少しつり目でも怖いと感じれずむしろ可愛いと言えるぐらいであった。
「はぁ〜まぁシャルはアホだからどうでもやりようはあるけど、あの男はどれぐらいなのよ?」
「は⋯はい。正直に我ら隠部隊が束になっても勝てるかはわかりません。何より行動の全てが未知数です⋯」
あの夜に起こった出来事を全て話す。
「なるほどね。なら兵器というのは理解しているのね⋯。っとなると、今までどこにいたのかしら⋯シャルの癖に運だけは昔からいいからほんっとムカツク」
少し考えた後、スッと立ち上がる。
「あんたとりあえず顔見られてるんだし、罰も含めて当分独房にはいってなさい。他のは私とともに行くわよ」
「いくって、どこにですか?」
「決まってるじゃない。アホの所によ」
そう思った矢先、扉がノックされる。
「失礼します。姫さま、毎月のようにシェルザード小国からシャルロッテ姫がお越しになられました」
首をかしげる。
「はぁ? 付き人は?」
「いえ、いつも通りお忍びのご様子ですのでお一人様です」
「どういう事なのかしら⋯? とりあえず支度済ませて行くからいつもの2人で合う為の高台部屋で待たせておいて。あんた達は周辺の警備を強化よ」
部隊は散開すると、セレンは自分の部屋に戻り身支度をしはじめる。
「余裕? って事かしら⋯。まぁ好都合ね⋯」
本棚の本を一冊押し込むと、カチリとなりその隣の壁が少し浮き開き、その中へと入っていった。
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薄暗い部屋に青いライトが照らしており、出口以外の壁1面全てに棚が並べられている。
棚の中にはいくつもの小瓶や薬剤瓶が綺麗に揃えられて並べており綺麗に管理されていた。
「にしても、情報との誤差には困るわね。隠部隊が嘘をいうことはないだろうし⋯この困惑も向こうの思惑なのかもしれないわね」
そういいながらも瓶を吟味しながら色々手に取り、薬剤を入れる四角のポシェットの中に並べて入れていった。
薬剤部屋を後にしながら、高台の部屋にいく途中も色々と考える。
「うーん。いつものように腹痛程度で来てたらいいんだけど⋯今回は未遂で全てを知った上で毎月の少量の毒の事を追求されるとめんどくさいし⋯お茶になにか混ぜようかしら⋯」
ブツブツいいながら歩いているとメイド達が慌ただしく走っていた。
「どうしたの? なにかあったの?」
「ひ・姫さま! シャルロッテ姫が急に苦しみ始めて⋯」
最後の言葉を聞く前にもうシャルロッテの方に走っていった。
応接間に入ると、メイド達がシャル姫を介抱しようと動いていた。
「どきなさい!」
一喝すると一部を除き部屋を出て行く。
「現状は?」
「私達も今しがた到着したばかりで⋯」
顔色が悪く、呼吸も浅い。
一目でわかる程、意識レベルも低下している。
「早急にフルポーションの点滴を!」
ポシェットを開け、瓶を数種類開けて空の瓶に混ぜていくと、多種な色の薬剤が一つにまとまると直ぐに飲ませる。
(とりあえず、強心薬と麻酔効果と除毒効果はしたけど⋯)
それから様子を見ると次第に顔色も良くなり容態が良くなっていくがシャルロッテは寝たままである。
(おかしい⋯あんだけ意識混濁まで起こして死にかけていたのに⋯数時間で回復? こんな症状はじめてだわ)
シャルロッテの目が開くとガバっと起きる。
「あれセレンちゃん? 私寝ちゃってたの?」
何事もなかったように起き上がる。
「寝てたっていうか倒れたのよ」
「え〜嘘だ〜!」
(うん。いつも通りのアホね⋯)
アホさ加減のせいか、一安心した為かは分からないが大きく溜息をつく。
「で、体はなんともない? 苦しいとか痺れるとかは?」
「ちょっと⋯胸辺りは苦しいけど大丈夫!!」
両手でグイッと力こぶを見せるようにすると胸に止まっていたボタンが飛び胸がぶるんと飛び出る。
「⋯苦しくなくなっちゃった。てへっ」
「ま⋯まぁ、それはよかったわね⋯。で、何か変なもの食べた?」
額に青筋をたてながらも一応薬剤師として症状の確認を優先にする。
「え? うーん⋯。あ、そういえば凪さんから大きな飴玉もらったよ!」
「あめ? 普通の?」
「普通っていうか⋯、自分で作ったっていってたかな。味は美味しかったけど⋯、あ! 凪はね、私の夢を叶えてくれる魔術士なんだ! この間の映像みたらわかると思うけどその時に偶然助けられて、お手伝いしてくれる事になったんだ」
(考えられるのは飴玉しかないよね)
「お手伝いはいいとして、シャルはその得体の知れない人の何を知っているの? 助けてくれたからといって信じこませるのも手口の一つだよ? もしかしたら傭兵をけしかけたのもその凪かもしれないし」
「だって、基本的に自分の事は何も語ってくれないし⋯」
「私の勝手な解釈だけど、シャルが倒れたのはその飴玉としか考えられないのよ」
「え? そ⋯そんなことは、でも! このあいだのグラスに微毒が混入も教えてくれたし⋯でも⋯まさか⋯あの時のコップの中身⋯本当に⋯⋯毒⋯」
(なるほど⋯あの微毒は飲ましたのね。どこから盛られているのか確認する為⋯)
「うん。なら私がする事は一つね」
頭を抱えて悩んでるシャルの前に立ち上がる。
「クラーレ城皇女セレンの名において貴女をお守りする事を誓います」
「ど⋯どうしたの? セレンちゃん」
プリンセスモードになっているセレンに戸惑いを感じる。
「もしかしたら貴女を餌に危険な魔術士が乗っ取るかもしれない。それを事前に防ぐ為ここに契約をしましょう。私の親友として友達として同じ姫として」
そういって高級な紙を提示する。
2つの記入欄に、セレンの名前はもう書かれていた。
「わかりましたわ。シェラザード小国皇女シャルロッテの名前において、その契約を受託いたします」
そういって空いている欄に名前を書いた。
「ありがとう。これでずっと一緒にいられるわね」
「?? どういう事ですの?」
名前の書かれた紙を引っ張るとA4サイズの紙にもなる。
名前の記入欄は下部の方である。
上部の方にはSHOWTIMEと書かれている。
「貴女の夢はここでおしまい。今の状況のまま戦争もしなくてわたしとゆっくりと暮らしていきましょう」
そう言いながら紙をピラピラすると燃え上がりそのまま消えた。
【1on1の戦闘が受理されました】
セレン:シャルロッテ個人においての全ての権利。
シャルロッテ:叶えられる範囲での希望。
ルール:相手の降参、気絶、第三者による助力を得た場合。
「そんな! 一方的な戦争が受理されるなんて⋯」
「それはそうでしょ。私はシャル個人に対し、貴女は国を手に入れる事もできるのだから」
ポシェットから薬品瓶をポイっとシャルに向かって投げる。
「陣営は私に有利だから、さっさと終わらしてあげるね。それでもうあの怪しい魔術士と関わらなくて済むし、ここでペット生活ができるわ」
満面な笑みで言いながら、更に2つの瓶を同時に投げる。
1発目の瓶をベットから転がり落ちるように避け、瓶はそのまま空を舞い壁にぶつかり割れる。
2発目3発目の瓶もそのままぶつかり割れるとポンっと小さな爆発を起こす。
「セレン! やめてください! 私はーー私は貴女の事を家族のように思っていましたのに!」
「私もそうおもっていますわ。でも、優劣は大事だと思うの」
「そんな事はありません!」
「なら、同じ年齢でありながら私と貴女の発育の差は? 一緒に歩いても私は子供と思われるのは? 貴女の心にはないだろうけど私の心にあるこの悔しさは!」
「そ⋯それは⋯」
「ただ⋯それがあっても、私はシャルの事が好きなんだと感じる心は本物なの」
スッとメイドも含め全員が顔に手をかける。
「だから、貴女をこのお城という箱庭で飼うの。それだけでいい。私の心のわだかまりもなく一緒にいられる唯一の方法⋯」
ガスマスクを装着していた為表情は分からないが、その声はとても嬉しそうに感じた。
「ゴホっゴホっ⋯」
「物理兵器をいくら知っていようが、本当に怖いのは毒なのよ。撒くだけでも汚染してもいい。小さな針でも構わない」
クスリと笑う。
「いるんでしょう? 噂の魔術士さん。まぁいても何もできないでしょうけどね」
「ふむ⋯気づいていたのか?」
メイドの1人が姿を変える。
「気づいてはいたわ。かすかに匂いが違うからね。ただこの状況まで持っていけば私の勝ちは確定したからネタばらししただけ」
「思ってた以上に頭が回るんだな。姫ってのは大体ソレみたいに平和ボケしてるのかと思っていたが⋯」
「シャルが特殊なのよ。他の国では武闘派も多いわよ。ついでじゃないけど私にも教えてくれないかしら? どうやって侵入したのかしら? 一応厳重にはしたつもりなんだけど⋯」
「ん? あぁ普通にだよ。兵器しってるなら光学迷彩ぐらいは聞いたことぐらいあるだろ?」
「えぇ、姿を消すのよね。ただ気配や空気の圧迫感と微かに一瞬でもブレる空間がキズでしょうけど」
「それを応用した魔術だ。幸いに城だったからな、相手の視覚に同調してちょっと感覚をズラすんだ。そうすれば相手が思い込んだ相手に思い込ませれますわ」
セレンから見た凪は喋り方においてもシャルロッテになっていた。
「なるほど⋯これで普通にどこの部屋も出入りしたという訳ね」
「まぁ、そうだな」
「解説ご苦労様。そろそろ終わった頃かしら。手伝いもできず敗北した気分はどう?」
「敗北? どこが終わってるんだ?」
振り向くとシャルロッテが立っていた。
「ありえない!! この毒を吸って動けるなんて!」
ワナワナと震える。
シャルロッテはシャルロッテで自分の現状に戸惑っているが、原因は理解していた。
「な⋯ナギ〜!! 私に何をしたんですの!!」
「ん? クリアした時に贈られる防具の進呈?」
「防具? 防具ってなんのことですの⋯ま、まさか⋯あの飴玉ですのー!!!!」
「お、冴えてるじゃないか。適合しなければ死んでたかもしれないが適応してよかったな」
「シャレになりませんわ!!」
「少なくともこうなる事もあるかもしれないだろ? 攻撃力はなくてもいい。とりあえず防御面だけはフォローしておいたんだ」
「そ⋯それはそうかもしれませんが」
「まぁ、いいじゃないか。結果オーライなんだし。それよりもそろそろ変身したらどうだい? 今のまんまでは状態異常は一切受け付けないだけで防御力はないぞ?」
セレンは刺々しい鞭を手に取っていた。
「なら⋯この蠱毒で毒を直接与えてあげるわ。数々の毒を吸った鞭なら、確実に毒を与える」
「といっても、どうすればいいのですの!! あのムチとてつもなく禍々しい色してますし、姫が鞭でいたぶられるのは絵柄的にNGですわ!」
【意識反応確認】
【自律型全身鎧アイギス起動】
【初期登録のため、掛け声とポーズをお願いします】
「え? え? えぇ? そんな事言われても私にはそういう知識ありませんわ⋯」
ハッと昔を思い出す。
なぜ今思い出したのかは分からないけど⋯セレンと幼い頃からに一緒に見ていたアニメを⋯。
シャルロッテがキッとセレンを睨む。
「セレンちゃん。貴女と私は一緒なの。優劣はなく姉妹のように、家族のように。私がこんなにバカなのにセレンちゃんは頭がものすごくいい。それは私がとても悔しかった事!! だから! ココで貴女の目を覚ましてあげる!!」
貴女に祝福の鐘(両手を開き胸におく)
きらめく乙女の心を強さに(左手をピースにして目にもっていきキラリ☆)
マジカルプリンセス! メイクアップ! (恥ずかしさの為か顔を真っ赤にして最後の決めポーズ)
注:いい大人です。
シーンと静まる空間、だれもが滑ったと感じる冷感、ある意味やりきったと思う快感。
セレンと凪以外は爆笑する。
セレンは昔に見たアニメだとすぐ分かり、凪は思考誘導したとはいえ、恥ずかしながらも目を覚まさせる気があるんだと感心していた。
【初期認証完了】
【アイギス起動します】
胸の辺りから光が溢れ出し、光が収まると機械のドレスを着たシャルロッテが立っている。
「こ⋯これは⋯!」
手を動かそうとしたがうごかない。
「凪さん、このドレスうごかない⋯」
喋っている途中、物凄い音が耳元で鳴り響く。
「そんな鎧、すぐにこわしてあげるわ」
音の正体はムチの音である。
「ちょ⋯ちょっとまってください。セレンちゃん。せめて動かし方をきくまでは⋯、それよりも動けないのに迫ってくるムチが怖すぎますわ!!」
その間もガキンガキンと鳴り響く。
「なんで壊れないの! 金属を溶かす酸、腐敗させる微粒子毒も含まれているのに!」
「サラッと怖い事言わないでくれません? その前に私が死んでしまいますわ! にしてもどうやって動くの!」
【装備者の能力では、アイギスは重量過多の為移動が困難と思われます】
「それってただの石像になってる事ですの?!」
【そう捉えても問題ありません。ただ動く場合であれば必要最低限部分以外の脱着が可能です】
「じゃあ、それで、それふぇ⋯鼻がむずむずしてきましたわ」
【微粒子毒が鼻に入ったと思われますが、毒耐性がある為、問題ありません】
「そうはいっひぇも、ハ、ハ⋯ハックション!!」
「え?」
一瞬で何かーー空気に押しつぶされるかのようにセレンは吹っ飛ぶ。
その時メイド達は見た。
只のクシャミだが空間が膨張し空気爆発のような衝撃が響き部屋が吹っ飛んだのを⋯なぜ自分達が無事だったか、部屋が潰れていなかったのは隣で観戦していた魔術士のおかげだと理解した。
「⋯⋯うっ」
何が起こったのかはわからない。
ただひとつ分かることは、何かに手を捕まえてもらい自分が落下していない事だけ。
右手以外は接地感がないのである。
「セレンちゃん!!」
その言葉で意識が覚醒する。
私を助けてくれたのはシャルロッテだったのだと。
「何泣いてんのよ。ほんと昔からバカなんだから」
それでも必死に助けようとしてくれてる。
ほんの少しづつ上がっていく。
(動けない鎧をきたまんま、ゆっくり上げてくれる)
「完敗ね⋯」
ボソリと言葉が出る。
「もう少しだから⋯!」
聞こえていないのか必死のせいなのかは分からない。
やっとシャルの足元まで辿り着くと、シャルロットの服装がほぼ半裸状態に気づく。
「⋯意外と毛深いのね⋯」
ドコを見て言ったかは不明だが率直な感想。
先程の完敗という言葉とおなじ音量でいったのだが⋯。
「どこ見ていってますの!!」
両手で股を隠す。
「あ⋯」
「⋯あ」
お互いが顔を見合わせるが、手はもう繋がってはいない。
片手で支えられる訳もなく、セレンはそのまま落下した。
「手をは離すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ごめんなさーーーーーーーーーーい!」
悲痛な声と共に離れていく2人であった。
ーー勝者:シャルロッテ姫ーー
「納得いきませんわ!!」
勝利を確信していたセレンが敗北したことによりゴネる。
結局シャルロッテの希望は今まで通り、お互い本音を言った事により絆を深めた事が満足だったのである。
強いて言えば、お互い困った時は助け合いましょうという共同体になったのである。
元々計算していたかの様に落下したセレンはキッチリと凪によって張られていた蜘蛛の糸のようなものに助けられており、部屋も魔術により元に戻したのである。
余談ではあるが、その日からシャルロッテ姫は身体の手入れを欠かさず行うようになり、セレンの薬学も滅茶苦茶お願いしてフル活用して脱毛もはじめたのである。
「ふむ、アイギスの魔力吸収を限界まで引き上げたつもりだったのだが⋯それでも足りなかったか⋯」
今回の誤差でいえば、アイギスがせめて動かせる範囲まで持っていけると計算していたが実際は不可能であった。
「やはり、起こしにいくしかないのか⋯ここら一帯ーー森林の龍脈なら問題はないか」
眠っている龍を起こす事による世界の変化、それとやはり気になるのはこの世界のどこかにいるもう1人の自分である。
「確実に百害あって一利なしだもんな⋯俺」
自分の時には感じることもない言葉だが、いざ第3者的視点になるとボソリと出てしまう言葉であった。
今回、情景とキャラ像も少し書いてみました。
想像とは少しズレてるけど、初めてならこんなものかな⋯(ノД`)・゜・。
これから少しずつ書いていこうとおもいます(´・ω・`)