危機感、焦燥
本日最後になります。次回更新は未定
残りは目を潰しているボアが二匹と、アレクが引き付けているボアが一匹。
ワームは既に地中に潜っており、こちらを『捕食』しようと機会を伺っているようだ。
(トランジェントの効果は1分。
CTは5分だ。1分以内にワームが来れば問題なくケイが倒せるだろうけどもし遅くなればボアが復帰するほうが早い。………場合によっては俺がまとめて焼くかな)
ワームにはまだデコイが効いている。あとはタイミング次第である。
「どうやらヒールは処理後で良さそうですね。………あら、このハム美味しいわ」
「……なんでナチュラルにご飯を食べてるのかわからないわ、ミーナ」
「……(魔法待機中)」
女性陣は三者三様である。あと俺の分も残しておいてほしい。
「……ッ!メイザース!!」
「え?」
ピシッとなにかが割れるような音がした直後、ビキバキと轟音を立てながら俺の足元が崩れ落ちた。
それはつまり、ワームが俺を『捕食』しようとしているわけで。
「いや、『デコイ』効いてたろ…!!」
完全に観戦モードだった俺は咄嗟に飛び退く事すら出来なかった。
一瞬の浮遊感。魔法は?間に合わない!直下落だけはまずい、少しでも軸をずらせ…!
直後、ワームの無数の歯が、圧倒的な体躯が、俺の身体を貪り、削り取り、弾き飛ばした。肉が抉れる感覚を味わいながら圧倒的な質量差で骨が折れ、内臓に少なくないダメージを受けて吹き飛んだ。
途轍もない痛みで意識が明滅する。
運悪く地面に頭を強打したようでピクリとも動かない。
名前を呼ばれているのがわかるが、どこか遠くに感じる。返事をしている余裕がない。
「ッ!!……ごふっ、ァ……」
口内に溜まり溢れかえる血。命がこぼれていく。間近に迫る死の感覚に、自分が『ゲーム』をしているわけではないと再認識させられた。
なんとかステータスを見てみれば『ゲームの頃』にはなかった状態異常……いわゆる、『傷痍系状態異常』になっており、いかに自分が死に瀕しているのかがよくわかった。
◇◇◇◇◇ステータス◇◇◇◇◇
Name/メイザース
Level/25
職業/魔導士
HP:460/1800
MP:4500/4500
SP:1000/1000
出血:スリップダメージ
骨折:行動制限
昏倒:一時的な行動不可
元々このワームは俺よりレベルが上だった。その上『捕食』は場合によっては格上の『壁役』ですら『即死』もありえるのだ。
死なずに済んだからよかったものの、何故あれほど悠長に構えていたのか。後悔してもしきれない。だが既にワームは『ブラックアウト』で封じられている。
匂いで当たりをつけ、ガムシャラに暴れまわっている二匹のボアをサリーとケイがそれぞれ一匹ずつ削っている。
俺の『少し前』ではアレクが盾を構えボアを抑えており、ミーナは顔を青くしながらこちらに駆け寄ってきている。
このゲームの『神官』が行う回復魔法は効果範囲が狭く、瀕死ほどのダメージであれば近づかなければ発動ができないのだ。
「メイザース……!今、回復を…『我が輩に再起の力を』…『ヒーリング』」
『短文詠唱』付きのヒールでHPと傷痍系状態異常が完治した。凄まじい回復力だ。
「ありがとう………ほんとうに、助かったよ。ミーナ」
なんとか絞り出した声は幾分か震えていた。まだ、死にかけたという実感が残っている。脂汗が止まらない。
「助けるのは当然です!私たちは仲間なのですから。…………本当に、間に合ってよかったです」
俺が間抜けなせいでいらぬ心配をかけてしまった。その上自分のことで精一杯なんて、酷い有様だ。なんて情けないのだろうか。
「『スラッシュ』!」
「ピ、ギィィ……」
ミーナが俺をヒールしている間にアレクがイノシシを削りきったようだ。
「そら!トドメだ!」
「ほんと、タフよね、クソ豚!」
サリーとケイの二人も無事に終わったようである。
残るは、ワームのみ。
「……さて、やられた分はやり返してやらないとな」
これは戒めだ。二度と油断してはいけない。
「ありがとうな『サンドワーム』おかげで目が覚めた。ここはもう、ゲームじゃない。遊びはなしだ『フリージングコフィン』」
そうして氷像と化したワームは、砕け散った。