79 なげやり戦後処理
「カミ、ヨー」
「アラヒト、ガミ、ヨー」
「バンザーイ」
生き返らせた鬼王の部下どもが煩い。
なぜかあいつらは僕のことをおかしな呼び方してるけど、新手の宗教をお断りしている僕は、「僕の事は魔皇帝かシリウスのどちらかで呼べ」と、説教しておいた。
奴らはかなり抵抗したものの、最終的には僕のことを、「魔皇帝陛下」か「シリウス様」と呼んでくれるようになった。
いやー、よかったよかった。
これで僕が君臨している"アークトゥルス魔帝国"の中で氾濫している、邪教集団の信者になることもないだろう。あの邪教集団どもは、僕のことを"神"と呼んでる、頭のイカレタ連中だ。
国策として弾圧しているのに、なぜか数が減らないので、手におえない厄介な存在なんだよな。
≪全くです。こんなアホを神格化するなんて、まっとうな人間や魔族のすることじゃありません!≫
(そうだよねっ!)
ちょっとばかし僕の扱いひどくない?そう思わないでもないが、僕とスピカさんの意見は双方とも、一致だ。
邪教集団は滅びるべし!
とまあ、そんなことがあった後、僕たちは鬼王が支配していた城の外へ出た。
「シリウス様、御無事で何よりです」
外に出れば鬼王城を包囲している軍団の指揮官である、ノスフィーネ山脈のドラゴンが僕たちを出迎えた。
そしてすぐに僕たちの後ろに続いている、鬼王の息子を認める。
鬼王の取り巻きどもは、まだ蘇生したばかりということもあり、城外にまで連れ出していない。
「……」
息子のことを、ドラゴンは威圧するように黙って見ている。
敗者である息子の方は、黙ってその視線を受け止めるだけだ。しかし息子の視線には、あまり強さが感じられない。
父親は辺境の地とはいえ魔王を名乗っていたけど、この息子にはそこまでの気概がないらしい。
「して、シリウス様。この後我々はどのようにすればいいでしょうか?」
結果、ドラゴンは息子のことを無視して、僕に尋ねてきた。
この後の事ね~、この後の事?
「何かしておかなきゃいけない事ってあったっけ?」
「鬼王の気配が既に感じられません。と言うことは、鬼王は処断されたのでしょう。ならは、鬼王領はシリウス様の帝国に組み入れられるのでは?」
「はいっ!?」
このドラゴンは何を抜かしてるんだろうね。
この鬼王国を僕の国に組み入れるなんて、そんなことするわけないじゃん。
何しろ魔族の大陸……
えーと、この世界では南に人間が住んでいる"巨大大陸"があり、それに対して北方には魔族の住んでいる"魔大陸"とか"北方魔大陸"と呼ばれる大陸が存在している。
もっとも魔大陸とは呼ばれていても、正確には3つの大陸が存在している。
この中で最北にあるのが、昔は"竜大陸"と呼ばれていた大陸。もっとも現在では、僕が君臨している"アークトゥルス魔帝国"が支配する大陸になっているため、"アークトゥルス大陸"と呼ばれるようになってるけどね。
すごく安直なネーミングだけど、僕のものだって分かりやすいから問題ないよね~。
で、アークトゥルス大陸の南には、地続きで"ゾイル大陸"が存在している。
このゾイル大陸の北半分は現在アークトゥルス魔帝国の領土だけど、南半分はゾイル魔帝国と呼ばれる、僕の国とはまた違う魔帝国が存在してる。
アークトゥルス大陸とゾイル大陸の2つは、この星の静止軌道上から見れば、南北アメリカ大陸を彷彿とさせる形をしてるよ。
で、この2つの大陸の西に、広い海を挟んで"グレイゴスラー大陸"がある。3つある魔大陸の中では一番大きな大陸で、ここを支配しているのは大陸名もそのままに、グレイゴスラー魔帝国。
魔大陸と一口に言っても内部はこのようになっていて、おまけに魔皇帝を自称する人たちが僕を含めて3人もいるわけだよ。
まるで中国の三国志だね。
魏呉蜀の3カ国だけど、果たして誰が魏で、誰が呉で、誰が蜀だろう?
もっとも君臨している魔皇帝は僕以外全員魔族なので、ひっょとすると全員が呂布で、戦闘狂しかいないかもしれないね~。
あ、僕は別に戦闘狂じゃないし、不老不死だけど魔族じゃなくて人間だから、呂布に立候補するのはやめておくよ~。
そうそう。
僕を「同じ人類に含めるな!」とか言わないでね~。
でないと僕、泣いちゃうよ。
そして話を元に戻すと、アークトゥルス大陸とゾイル大陸が地続きでつながっていて、さらにこの南に人間の住む"巨大大陸ゴンドアナ"が存在している。このゴンドアナ大陸は、3つの魔大陸全部を合わせたよりもさらに広大で、前世の地球で例えるとユーラシア大陸ばりにバカでかい大陸となる。
そしてこのゴンドアナ大陸とゾイル大陸も地続きになってつながっている。
ゴンドアナ大陸の北端にクライネル王国が耳クソみたいなサイズでへばり付いていて、その北に広がるゾイル大陸の最南端に、こっちも耳クソサイズで鬼王の領土があるわけだ。
とはいえね、この鬼王の領土を僕の国に組み入れるとしても、本国との間にはゾイル魔帝国があるから、完全に飛び地になっちゃうんだよね。
そんな飛び地を手に入れて、どうしろっていうんだよ?
おまけにゾイル魔帝国とアークトゥルス魔帝国は犬猿の仲で、戦争だってしてる有様。
なので鬼王の領土を組み入れても、使い道がないばかりか、統治が面倒臭いことになる。
特に領土の防衛問題なんてどうするつもりだ?
つまり、確実なお荷物にしかならない。
「ぶっちゃけ鬼王の領土なんていらないんだよね……よし、お前にやろう」
即断即決。
僕は目の前にいるドラゴンに、この国をやることに決めた。
「わ、私にこの国を……まさか魔王に即位しろとのご命令でしょうか!」
ドラゴンさんは、狂ったように声を上ずらせてるね~。
そんなにこんなド辺境にある鬼王領が欲しいものかね?
僕はこんなちっぽけで、豊かでもない土地なんて、欲しくもなんともないけど~。
とはいえ、目の前では欲しそうにしているドラゴンがいるので、擦り付けてしまうにはちょうどいい相手じゃないですか~。
「うむうむ、そうしよう。せっかくだからお前は今日から"魔王"として、この国を支配するといい」
「シリウス魔皇帝陛下の勅命、謹んで拝命いたします。我が命が続く限り、陛下には無限の忠誠を……」
「あっ、はいはい。そういう暑苦しいのはいいので、これからはここを治めて頂戴な」
「ハハーッ」
地面に顎をこれ以上ないほどこすりつけて、ドラゴンは僕に平伏した。
「……ですが、そうなれば鬼王の部下どもはいかがいたしましょう?」
領地の擦り付けには成功した。
だけど、その後になってドラゴンが尋ねてきたよ。
「どうするって、お前の好きにしたらいいだろ」
「好きにしてもいい。……ですが私程度の実力ですと、さすがに鬼王の部下全てを押さえつけるだけの力がないので、反乱を起こされればひとたまりもありません。なので処断する以外に方法がないですな」
処断と聞いて、僕の背後にいた息子さんがビクリと震えた。
「へ、陛下。なにとぞ、助命を」
今度は息子さんが地面にひれ伏すよ。
全く、どいつもこいつも恥も外聞もなく地面に転がってひれ伏すばかり。少しは自尊心と言うものがないのかね?
いや、そりゃあ殺されそうになってたら、恥や外聞なんて気にしてられないよね。そんな役にも立たんものは、かなぐり捨てなきゃ生きてけないよ~。
それに僕としても、
「うーん、それはちょっとなしでいきたいな。せっかく生き返らせた手間があるんだし、処断はなしで行こう」
「陛下のご厚情に感謝いたします」
息子が煩いが、これを僕は完全に無視。
「とはいえ、こいつらを本国に連れていっても役にも立たないし。……そうだ、お前に力をやろう」
ここで僕は、目の前にいるドラゴンさんにビシリと指を突きつけた。
そして僕は黒い瞳で、ドラゴンの黄金色の双眸を射抜くように見る。
ただドラゴンの目を見た瞬間に、僕の脳内で「焼き魚の目玉を食べるみたいに、このドラゴンの目玉もほじくり出して食べたらおいしいのかな?」という考えが一瞬だけ浮かんだよ。
うん、単にそう思っただけで、だから何かするわけじゃないからね~。
それより今は真面目にしないとね~。
僕の魔皇帝陛下としての威厳が増し増しの状況なのだから~。
「お前には"ノスト"の名を与える。"黒炎邪竜王ノスト"として、旧鬼王領を統治せよ」
僕がドラゴンに"黒炎邪竜王ノスト"の名を与え、魔力を流し込んでやる。
フハハハハ、僕は魔皇帝シリウス・アークトゥルス様。
人間どころか魔族の中でも隔絶した膨大な魔力を有していて、それを目の前のドラゴンに溢れるように押し込んでいってやる。
「ウガッ、ムガアアアアッ!!!」
魔力の放流に晒され、ドラゴンが雄たけびを上げる。頭を天へと向けて咆哮を上げ、震える空気が辺り一帯に広がる。
空気が騒めき、草木が震えあがり、大地が激動する。
ドラゴンの肉体がメキメキと音をたて、10メートルほどだった大きさが、その倍の20メートルにまで膨れ上がっていく。
さらに赤い鱗は膨大な魔力を浴びて赤黒い色へ変色していき、体全体から黒い覇気を迸らせる。
口からは黒い炎が吹き上がり、先ほどまでとは存在のレベルが違う"魔竜"が誕生した。
「うっ、うおおおっ。魔力が溢れる。シリウス様の力が全身を駆け巡る!」
ただの竜から"魔竜"へ進化を果たし、ドラゴンの声は上ずっている。無論、その身に宿る力は、先ほどまでとは桁違いに膨れ上がっている。
「それだけの力があれば、鬼王の部下どもも反乱など考えず、お前に大人しく従うだろう」
とはいえ僕はドラゴンを進化させてやるために、ごっそり魔力を消費してしまった。なので、ベルトに収納している即時魔力完全回復ポーションを取り出して、それを口に入れる。
うん、『元気溌剌、"オベロナミンD"』って言いたくなっちゃうくらい、おいしいね~。
おかげで僕の魔力量はすぐさま完全回復。
魔法チートをしている僕だけど、本質は魔法使いでなく"薬師"。なのでアイテムを使った魔力回復は僕の十八番だよ。
それに大体RPGでラスボスの魔王がやられる原因なんて、プレーヤー側のアイテムチートが原因。どう考えても危険なドラックを使った身体強化や、ポーションでのHP・MP回復で、ラスボスを押し切るからだよね。
フフフ、ラスボスの上を行く、隠れダンジョン最深部の最終ボス的立ち位置である僕には、そんな小賢しいアイテムチートなんて効かないよ。
なぜなら、僕も同じ方法を取れるからだ!
で、話の脱線は毎度のことだけど、魔竜として進化したドラゴンさん……改めノストは、感極まっていた。
「シリウス様、私は生涯を賭してあなたの僕でございます。この黒炎邪竜王ノストの名にかけて、シリウス様より賜った領土は、外敵の侵入を許さずに守り続けます。いや、それでは足りない。このまま南へと攻め入り、人間の世界をシリウス様へ献上……」
「あっ、そう。人間の大陸なんていらないから、そんなことしなくていいよ」
ものすごく熱く語ってるけど、こいつ頭大丈夫か?
だいたいノストって名前にしても、ノストフィーネ山脈からそのまんまパクってきただけの、超安直ネームなのにねー。
……ところで、このドラゴンって男だよね?もしも女だったら、フィーネちゃんの方がよかったんじゃない?
それとも実は男だけど、オカマだとか?
でなきゃ、「膝に矢を受けてしまってな……」ならぬ「股間に矢を受けてしまって、アソコがないのよー」なんてことはないよね~?。
≪ご主人様、馬鹿なこと考えないでください≫
(そうだよね~、そんなアホなことがあるわけないよね~)
「とりあえず、お前はこの土地だけ守っていればいい。人間の大陸の方は、僕の方ですることがあるから、侵略は厳禁と言うことで頼む」
「ムムッ、そうなのですか。ですが、シリウス様には私など及びもつかない深慮遠謀が……」
以下、ナンタラカンタラ。
ぶっちゃけ長い口上に興味ないので、僕はノストのことをそれ以後無視した。
後書き
"オベロナミンD"……"オロナミンC"……うっ、頭が。
ちなみにゲームの"テイルズオブデスティニー"で、オベロナミンと言う名前の回復アイテムがあったような、なかったような記憶が~~~




