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72 やられる前にやっちまえ!

 クライネル王国は、現在国王が王都を捨てて国の南部へ避難している最中。

 国王が国を捨てようかと考えてるぐらいひどい状況だけど、その一方でディートハルト砦に残っている戦力で、魔族が再侵攻してくる前に、逆に侵攻して魔王を倒してやろうと意気込んでいる。


 まあ、そんなこと言ってもディートハルト砦に詰めていた兵士1万2千の内、生き残ったのは3千足らず。さらに負傷者が多いため、戦力として当てにできるのは1200人しかいないそうだ。

 ここに王都守備隊500が合流したことで戦力は1700に増えたけど、これじゃ完全に焼け石に水だね。


 魔王配下の魔族軍が動けば、もはやディートハルト砦の防衛は不可能で、そのまま王都まで遮るものもなく征服されてしまうだろう。



 ちなみに王国の各地では、減少した戦力を回復させるために、徴兵がされているけど、これは完全に使い物にならない。

 現在進行形で兵士を集めている段階で、まだ部隊としての形すらない。


 集められた人間にしても地方の農家がほとんどで、武装は鋤や鍬、鎌といった有様。クライネル王国の国力では、これらの人にまともな武器防具を支給することすらままならず、兵士として全く役に立たない、

 何しろその辺の一般人をただ適当に集めているだけだもんね。

 これじゃあ魔族に殺されるだけの、動く案山子を集めているだけだ。




 で、クライネル王国としては、やられる前にやっちまえって感じで、もう完全にやけくそ状態になってるわけ。

 防御するための戦力がないから、仕方ないよね。


 そしてそんなやけくそ軍団を率いるのが、僕の魂の友(ソウル・フレンド)カタリナちゃんだ。

「さあ、全軍前進。魔族どもを1人残らず血祭りにあげて、王都へ凱旋するのよ!」

 カタリナちゃんは1700の兵士を鼓舞している。

 勇ましいものだね。


 ちなみに僕の耳には、『そして私は金銀財宝に囲まれた、贅沢三昧の生活を手に入れるの』っていう、カタリナちゃんの心の声がよく聞こえるよ~。

 今のは間違いなくカタリナちゃんの本心。僕の幻聴のはずがない。


「カタリナ様、どこまでもお供いたします」

「どうか、なじってください」

「ぶ、ぶって……」



 ……なんか勇ましいカタリナちゃんの傍で、変な声が聞こえたけど。あー、こっちはきっと幻聴だね。


 なんかカタリナちゃんが眉を不機嫌に曲げて、近くにいるデービットおじさんにパンチをお見舞いたよ。その体が10メートルぐらいぶっ飛んだけど、きっと気のせいだよね~。


「どうしたらいいんだ。僕は一体どうしたら……」

 そんな大将軍様の所業を見て、ラインハルト君が錯乱したようにブツブツ呟いてるね。


「よかったら、この国捨てる?」

「い、いや。僕はこれでも末席とはいえこの国の貴族のひとり。そして国王陛下に仕える近衛として、逃げるわけにはいかない」

 僕の提案をラインハルト君は拒絶したね。


 僕はラインハルト君の意思を尊重するので、説得しようとは思わない。

 とはいえ魔王率いる魔族に勝てたとしても、その後はカタリナちゃんがこの国の支配者になるコースがほぼ確定だろう。

 きっとそこはカタリナちゃんにとっては住み良い場所になるだろう。そしてカタリナちゃん以外の人にとっては、苦労がとても多そうだね~。



「レオン様、もしカタリナ大将軍がおかしな行動したら、止めていただけないでしょうか?」

「無理だな」

 こんな混沌とした状況の中、ラインハルト君は一縷の希望を抱いてレオンに救いの手を求めた。けど、レオンは考える間もなく拒否したね。


「クッ」

 苦虫を噛み潰したような顔になるラインハルト君。


 けど、自分の国の事なんだから、自分たちで何とかしてよね~。

 と、僕は心の中でラインハルト君の今後を応援することにした。






 で、僕たちはカタリナ大将軍を筆頭にしてディートハルト砦を発ち、北に広がる鬼王が支配する魔王領へ進軍していった。



 そうしてクライネル王国の国境を越えて、いよいよ魔族の領土へと踏み込もうとする直前。

 一度部隊は休憩を取ることになる。

 これから先は魔族の領土。何が待ち受けているか分からないという緊張感に兵士たちは包まれているけど、もちろん僕に緊張感など求められても困る。


「うーん、おいしくないけど、甘いな~。おいしいな~おいしいな~」

 いつものように僕はポケットから体にいい飴玉を取り出して、口の中で転がしている。


「スバルには緊張感がないのか?」

「生まれた時にお母さんのお腹の中に全部置いてきました」

 キリッて態度で、僕は答えてあげたよ。

 ただ、そんな僕を見てラインハルト君は、

「ハハハ、それは羨ましいな」

 って言ってくれた。


 あっれー?

 いつもだったら、ここで僕の事を無視したり、あるいは呆れてやれやれと言うところなのに、いつもと扱いが全然違うよ!


「フフン。ラインハルト君にも、ようやく僕の凄さが分かったようだね」

「ああ、空元気でも、元気でいた方がいいからな」

 そう言って微かに微笑むラインハルト君。魔族領を前にして、何か感じるものがあるんだろうけど、

「そんなラインハルト君には、僕の特性飴玉をプレゼントしてあげよう」


 せっかくなので、僕はサービスでポケットから飴玉を取り出した。



 まあ、僕の自作する飴玉は、味の完成度を無視して、甘さと効能にしか注意を払っていない。

 つまり不味いということだ。

 食べている僕ですらそう評価しているから、とてもじゃないけど、甘くなければ食べられるものじゃないね。



 僕の差し出した飴玉を手に持って、しばらく眺めるラインハルト君。


 心の中で「物凄くマズいんだろな」とか思いながら、食べるのをためらってるわけじゃないよね?




「えっ、えーと。その飴玉を食べると筋肉盛々のマッチョマンになれます。さあ、飴玉を食べて君もレオンのように、マッチョな肉体を手に入れよう」


 よし、これでセールストークは完璧だ。


「ハハ、こんな飴玉でレオン様みたいに強くなれるなら苦労しないな」

 そう言って、ラインハルト君は僕の飴玉を食べてくれた。



 まあ、直後想像を絶するクソマズさが口の中全体に広がって、顔を思い切り顰めたけど。


「ううっ、相変わらず不味い上に、それを引き立てる粘っこいの甘さが……」

「ええーっ、甘ければどんな物だっておいしく食べられるよ!……まあ、味はそんなのだけど」

「自分で分かってるなら、もっとまともな飴を用意しておかないか?」

「えへ~っ」


 僕はとりあえず笑っておいたよ。

 うんうん、僕のプリティースマイルさえあれば、どんな場面でも乗り越えられるさ~。



「さあ、出発よ。魔族どもを根絶やしにして、王都に戻って酒池肉林の生活を始めるのよ!」

 休憩の後、カタリナちゃんがいつものように元気な声で、部隊に進撃命令を下した。




 そうして僕たちはクライネル王国の領土を超えて、魔王が支配する魔族の領土へ入った。


 まあ、魔族の領土と言っても、いきなり不気味な森が広がっているとか、毒の沼地があちこちにあるなんてわけでなく、何の変哲もない草原が広がってるだけなんだけどね。


 でも直後、バダバタと音を立てて、1700人からなるクライネル王国軍の兵士たちが、全員地面へぶっ倒れて行った。

 それは部隊を指揮する大将軍カタリナちゃんでさえ変わらない。




 ――いきなり、超ピンチ!

 いきなり兵士が全滅ですか!?


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