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70 再び北へ

 翌日、薬の工房の所長室で机に涎を垂らしながら突っ伏して眠っていた僕は、お隣に建っている"勇者御一行さん"が住んでる"旧アイゼルバーグ邸"にお邪魔した。



 僕は工房の方で寝たけど、他のパーティーメンバーは皆、"旧アイゼルバーグ邸"で寝泊りしてるんだ。

 それに僕は、"勇者御一行さん"パーティーとはいつも行動を一緒にしているだけの、ただの隣人にすぎませんから。勇者御一行とは、それ以上関係のない赤の他人です(キリッ)




 ……とまあ、そんな詭弁は置いといておいてですな。


 "旧アイゼルバーグ邸"にノックもせずに入った僕。

 まあ、この屋敷は書類上の所有者こそレオンだけど、もともと僕がお金を出して購入した屋敷だから、いちいちノックとかする必要ないよね~。


 で、僕は廊下を歩いて、部屋から出てきたレオンを見た。


「昨日のことを全部知ってるんだな」

「フフフ、さすがはレオン。僕の行動をお見通しなんだね」

「お前の顔を見ればわかる」


 僕の顔は、自分でも自覚できるほどニタニタしている。この顔を見れば、昨日僕がレオンとアイゼルちゃんの会話を感知魔法で探っていたことが、魔法を察知できなくても理解できるってものだね。

 まあ、さすがに感知魔法を使っていた僕が、夢の中で相棒であるスピカにボコボコにされていたことまでは、知りようがないだろうけど。


「とりあえず、自分の正体を告白したようだから、アイゼルちゃんと子供のことは後で僕がちゃんと面倒みてあげるよ」

「このままだと、アイゼルと子供は助からないんだな?」

「うん。だから、手術をする必要がある」

「……」

「正直、僕の腕でも成功するかは微妙だけどね」

「……このまま何もしなければ、2人とも命がないんだろう」

「そうだよ」


 レオンは表情こそ変化がないけど、目はひどく深刻だ。そりゃあ自分が愛している、女性と子供の命だからね。当然のことだよね。



「今は魔王の件について片づける。それが終わったら、アイゼルちゃんの手術に取り掛かるよ」

「分かった。お前に全て任せる」

「任された」


 レオンは心の中で自分のことを、ふがいない父親とでも思っているのかな?

 父親にこれからなるというのに、、その子供と母の運命は、僕にゆだねるしかない状況だもんね。レオンには、僕がやろうとしている手術なんてできないし。

 親になるならば、そう思っても仕方のないかもね。


 僕もレオンとは義兄弟であり、付き合いが長い。だからこの口数の少ない男が、胸の内でそんなことを考えているのだろうと思った。





 その後僕たちは、再び王都を出立して魔王との戦いへ向かうことになる。

 アイゼルちゃんのことは、工房を任せたマイセン率いる弟子たちに託すことになる。

 今回の僕たちのパーティーは、僕とレオン、ラインハルト君の3人。

 これに加えてく、クライネル王国は軍が壊滅状態にありながらも、少しでも北へ戦力を回すため、平時では王都の治安維持を担当している、王都警備隊の兵士500人が僕たちと同行することになった。

 警備隊と言えば、カタリナちゃんの古巣でもあるね~。


 しかし王都警備隊は、現在では治安が極度に悪化している王都で、王宮の警備にあたっていた有様だ。その兵力を出してきたということは、国王も腹をくくったか、あるいはやけくそになったということだろう。


 まあ、確実にやけくその方だね。

 現に国王は、王宮で働いている者や近衛兵を率いて、魔族の領土とは反対の南へ逃れる計画を進めている。

 国境の外まで出るつもりはないみたいだけど、魔王の軍勢が国内に侵入してきた場合、きっと国境線を超えて他国へ逃げるだろうね~。

 いやー、この国って本当に滅亡すれすれの状態じゃない?

 国王が、自分の治めている国から逃げす算段に取り掛かってるんだから。


 そしてこの情報は、国家の重要機密に該当する。

 もっともスピカの盗聴によって、いつも通り僕の知るところになってるけどね~。





 で、北へ向かうことになった警備隊の隊長とレオンは、二言三言会話を交わす。


 ほら、僕って単に"勇者レオン御一行さん"と、行動を共にしているだけの人だから、隊長さんが僕に話しかけてきても困るもんね~。

 くどいけど、"僕は勇者じゃない"から~。



 そんなことがありつつ、僕たちは王都を出立して、魔王のいる北へ再び戻っていくのだった。







 あ、そうそう。それと忘れたらいけないから追記しておくけど、実は僕の弟子の中には、ディアブロ配下の悪魔族(デーモン)が、数体ほど人間のふりしてこっそり紛れてたりするんだよね~。

 アイゼルちゃんの身に何かある場合。あるいはアイゼルちゃんが、誰かにレオンの正体をバラそうとた場合、既に手は打っているという念の入れようよ。


 フフフ、どう、この僕の完璧な手際。

 僕って頭いいよね~。


 まあ、実際には僕の知らない間に、ディアブロが勝手にやってくれたんだけどね~。



≪いえ、この作戦を実行するようディアブロに命令したのは、私ですが?≫

 そこでスピカの横やりが入ったよ。

(……へっ、スピカ、いつの間にそんなことしたの?っていうか、体もないのにどうやって?)

≪体はありませんが、私はご主人様(マイロード)の魔力を使うことで、風魔法も使えますよ。それで音声魔法を使って、ディアブロに話をつけておきました≫

(……)


 よ、よし。

 スピカさんは僕の頭の中に住んでいる妖精さん。すなわち僕とは一心同体。だからスピカのしたたかな計画は、すなわち僕の功績と言い換えてもいいよね。


 う、うん。

 決して僕が、そういう事態のことを何も考えてなかったなんてことはないんだからね。


 ド、ドヤッ。

 僕ってすごいやろ。



≪……≫

 スピカさんが呆れてるけど、でも気にしちゃ負けだよね~。


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