69 告白
|即時魔力完全回復ポーション(フルナマポーション)の材料集めと作成を終えた僕は、クラネル王国にある僕の薬の工房へ帰ってきた。
工房の地下にある秘密基地だけど、ここから階段を上がって所長室へ行く。
で、外を見るとまだ太陽の明かりはなく、真っ暗な状態。
「フアアーッ、まだ夜中なんだね。てことでお休み」
薬を作っている時にも少し仮眠をとったけど、それでも12歳児の僕の体には睡眠が全然足りてない。
もうベットで寝るのも面倒になって、僕は所長室にある机に突っ伏してそのまま眠った。
眠れるなどこでもいいです~。
で、僕は眠ったわけだけど、ストーカー常習犯……いや存在自体が常時ストーカーのスピカは、この間も僕の周囲で起きている出来事を収集していく。
(僕が寝てるってのに、本当にスピカは熱心だね~)
≪私の趣味ですから≫
(とうとうストーカー行為を趣味だと認めたな!)
≪ストーカーでなく、情報収集です!≫
僕から見たら、どっちも同じにしか見えないけどな~。
僕の体は眠っているけど、夢を見るような感じでスピカと頭の中で戯れ続けてるよ。
で、スピカとは一心同体であるからには、僕もスピカが探っている情報をそのまま知ることが出来る。
(おや、レオンとアイゼルちゃんが話し合ってるみたいだね)
≪ようやく、レオンもアイゼルに正体を明かすみたいですね≫
(だといいけど、あいつって変なところで決断力ないからな~)
≪ご主人様、今いいところなので静かにしてください≫
……この昼ドラ好きのストーカー主婦め!
僕はスピカのことを、そう評価することにした。
そんな僕とスピカが聞き耳を立てているのを全く知らない、レオンとアイゼルちゃんの会話が続いていく。
「信じられない事ですが、ここにエッセンバッファー老師がいらっしゃいました。噂では神医と呼ばれるほど、優れた医術を修められている方なのですが、その方がよりにもよって、ご本人直々にスバルの弟子だと名乗られて……」
なぜか顔面が蒼白になってるアイゼルちゃん。
エッセンバッファーの名前って有名なんだね~。
そういや"現代の英知の賢者"とか呼ばれて僕たちが王宮にいった際、あの国王どもは僕の存在ガン無視で、エッセンバッファーの事だけ褒めたたえまくって、勝手に英知の賢者と呼び出してたね……
とはいえ、そんな人が僕の弟子なのだよアイゼルちゃん。
どうだ、ついに君も僕の偉大さに気付いただろう。
「きっと歳のせいで耄碌されてしまったのでしょう。なんて気の毒な……」
……まあ、期待した僕がいけないんだよね。
どうしてアイゼルちゃんも国王ども、僕のことを認めようとしない!
≪普段の行動のせいです≫
(常日頃から僕がそんなにひどいことをしてるわけないじゃん!)
≪おしっこも満足にできず、手に引っ掛けた人の言う言葉ですか?≫
……スピカの風当たりの強さもいつものことだね~。
……グスリッ。
でも、そういったことは全ていいのさ。
いつものことだからいいのさ~。
ラララ~。
ああ、ここが現実だったら飴玉を口に入れるところなのに、生憎とここは夢の中みたいなもの。だから飴玉を食べることが出来ない。
いや、念じろ、念じるのだ!そうすれば夢の中でも飴玉が出てくるはず。
ハー、ウー、グムムムムッ~。
僕は強く強く飴玉欲しい、砂糖が欲しいと唸り続けるよ。
スピカは僕の事なんて、完全無視だけど。
そんなことしている間に、アイゼルちゃんとレオンの会話が別の方向へ向かう。
「レオンさん、実は私、とても怖い夢を見たことがあります。レオンさんが全身黒くなって、魔族としか思えない姿に……」
うん、ずばり深刻な会話だ。
妊娠してるのに、2人ともベットの上で全裸状態。
逞しいレオンの胸板の上に、アイゼルちゃんが頭をしなだれかからせているけど……もはやその辺の光景について、僕は全て黙秘する!
うらやましくも何ともない!
だ、大体感知魔法なんだから、音だけ拾って、視覚効果のある部分は全カットしちまえばいいよね~。
≪嫌です。いい場面なんだから、視覚効果を切るわけないでしょう!≫
僕の妄想が主導権を握って、視覚効果のある感知魔法をそのまま継続して使い続けた。
うん、スピカってその気になれば僕の体を乗っ取って、動かすことができるもんね。……もしかして僕って、スピカさんに勝ち目がないの?
そんなことを思いながらも、レオンたちの会話は続く。
レオンは、魔族になっていたというアイゼルちゃんの告白を聞いても、沈黙していた。
表面的に、この男はクールで口数が少ない。
ただ黙りながらも、アイゼルちゃんの髪を優しく撫でる。
「あれは、本当は夢じゃなかったのだと思います」
「……なんで、そう思うんだ?」
アイゼルちゃんの言葉にレオンが尋ねた。
そのまましらを切るなよ~。ヘタレレオン~。
≪黙ってなさい≫
(ヘグシッ)
夢の中なのに、スピカさんに顔面にアッパー入れれられてしまった!
妄想に負けてしまうとは、ぼ、僕の立ち位置って一体……
「だって、こんな変な話なのに、レオンさんは変な話だって思ってないでしょう。笑わないし、変な顔だってしない」
「俺はアイゼルのことを信用してるから、笑ったり、変な奴だなんて思わないさ」
「……」
そこでアイゼルちゃんが、金色の瞳でレオンの顔をまじまじと見つめた。
対するレオンの青い瞳も、アイゼルちゃんの目を見る。
「本当のことを話してください」
(ムギャッ!)
深刻な場面。
僕が茶々を入れるより早く、スピカのグーパンが夢の中の僕の腹を抉った。
「……もし、本当のことを聞いて、その後お前はどうするつもりだ?」
「……分かりません。でも、今の私はレオンさんの子供の母親です。だから私はこの子のために、父親であるレオンさんといつまでも一緒にいたい。いつまでも、どこまでも、私はあなたの傍に、この子と居たいんです」
そう言って、アイゼルちゃんはお腹を擦った。
まだ目立ったほど膨れたお腹じゃない。お腹に耳を当てても、まだ赤ちゃんの心臓の音だって聞こえないほど、お腹の子供は小さい。
「子供のためにも……か」
そしてレオンも、子供が宿っているアイゼルちゃんのお腹に手を当てた。
(キャンッ)
……もう、何も聞かないで。
今のスピカが、物凄く怖いってことしか僕からは言えない。
「アイゼル、お前のお腹の中にいる子供の半分は魔族だ」
「……」
「そう。俺は魔族のレオン・アキヅキ。人間とは違う、別の生き物だ」
「……そうですか」
レオンの告白に、アイゼルちゃんは静かに答えた。
「普段は人の姿をしているが……」
それ以上レオンが言うより早く、アイゼルちゃんがレオンの唇を、自分の唇で塞いだ。
突然のキスにレオンは驚いていたけど、すぐに目を閉じて、キスをしてきたアイゼルちゃんの後頭部を両手で抱きしめる。
そのまま熱い熱い接吻を、2人はしばらく続けた。
「私とこの子はあなたのものです。だからお願い、人間の私を捨てたりしないで」
そう語り、アイゼルちゃんの瞳から涙が零れ落ちた。
その姿を見て、レオンは目を大きく開けて驚いていた。
ただ言葉は何も口にせず、そのまま涙を流すアイゼルちゃんを強く抱きしめた。
(……ま、いいんじゃないの。やっと自分の正体告白できたんだから)
抱きしめるだけで何も答えないレオンの態度が、なんだか納得いかないな~。そう思う僕なんだけど。……あ、ヤバイ、スピカが虎のような眼光で僕を睨んでる。
≪いいんですよ。ご主人様みたいに、ペラペラと口ばかり動いてるより、こういう大人の魅力がある方が、いいじゃないですか!≫
(あ、うん、そうですね)
今のスピカに逆らえない僕は、何やら頬を上気させて興奮しているスピカに、大人しく頷いておいた。
いやまあ、夢の中でもスピカに体はないはずなんだけど、今のこの子って確実に興奮状態だよね~。
後書き
告白と言っても、愛の告白ではないですよ。




