表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/82

5 王様からの定番イベントと魔女

 さて、異世界アルスギルナ。

 この世界に別の世界である地球から、僕とレオンは召喚されてしまった。

 ……と言うことに、王様たちには説明しておくことにした。


 ちなみに本当のところは、僕の前世が地球人だっただけ。僕は前の世界で天寿を迎えた後に転生したけど、転生したのはこの世界アルスギナに間違いない。

 王様たちは、僕たちを別の世界から召喚したのだと思い込んでしまってるけど、まあ当人たちのぬか喜びに水を差すのもあれなので、これくらいの小さな勘違いを放置しておくのは、当人たちのためだよね~。

 少なくとも、僕は嘘は"言わなかった"し~。



「僕が前にいた世界は地球と言います」

「レオンと僕は、"桃園の誓い"を交わして、『我ら義兄弟生きるも死ぬも、共に。栄華は分かち合い、死するときは同じ日に』……なんてむさ苦しい誓なんてしてませんが、まあ義理の兄弟みたいな感じで昔からいます」


 そんな具合に王様に僕から説明したんだよ。

 嘘は、ついてないよ~。


≪真実を話してもいませんがね≫

 とは、妖精さんがぼそりとつぶやいた言葉だけど~。



「では、そなたは義弟と言うことになるのか」

 それまでレオンにばかり期待を向けていた国王が、この時初めて僕のことを視界にチラリと収めてくれた。


「しかし、そなたは実に立派な義兄を持ったものだな。ハッハッハッハッハッ」

 国王はレオンの事を高く評価していた。そして僕のことは、再びガン無視状態に。



 ……このクソ国王。

 誰が"義弟"だ、誰が"義弟"だ!

 俺の方が"義兄"だよ。


 ……おっとっと。

 いけないいけない。ついつい素が出てくるところだった。


 ついでに、僕の方がレオンよりも優秀なんだけどな~。



 そんなことを思いながらも、僕は表面上はにこやかな表情でいることに何とか成功した。


 もっとも国王は相も変わらずレオンにベッタリ。

 僕のことは再び視界の中から消え去ってしまい、レオンに親しげに話し続けていた。話しかけられるレオンの方は憮然とした表情をしていて、国王に辟易としているけど。




 ……この国王、まさか同性愛者(ホモォー)



 ねえねえ、妖精さんは、どう思う。

≪さて、どうでしょうかね≫

 僕の疑念に、妖精さんは興味なさそうな返事だけ返してくる。



 まあ、僕もこのネタを真剣に検討する気などないので、「そだね~」と適当な生返事だけ返しておくけど。





 そうしている間にも、国王は現在この国が置かれている状況を説明していってくれた。


 この国の名前はクライネル王国と言い、人間の住む大陸の最北端にある王国だという。

 そして王国の北には魔族たちが住まう"魔大陸"と呼ばれる広大な大陸が存在し、そこを統べる魔族の王の1人、"鬼王"の軍に王国は侵略されている最中だという。

 今までに幾度も戦いになり、そのたびにクライネル王国は敗北を繰り返しているという。

 なお、この世界にはクライネル王国以外にも人の住んでいる国は数多く存在し、その中で最大の国土と軍事力を誇るのがディートスター帝国という。

 だが、この帝国は魔族の領土と直接に接していないため、魔族の脅威を全く感じておらず、窮地に陥っているクライネル王国の現状に対して、援軍として兵士の1人も送ってくれないとのことだった。


「このままでは国の滅亡も間近です。そこで"古の賢者様"が残した勇者召喚の魔方陣を用い、魔族に対抗すべく勇者様を召喚したのです」

 と、これは国王の傍に控えている大臣の1人が説明してくれた。



 その"古の賢者"って人が書き残したのが、本当のところは勇者召喚でなく、殺害対象を抹殺できる存在を召喚するための魔方陣なんだから、すごいよね~。

 まあ、この国の人たちは全員それに気づいてないから、僕は本当のことは言わないけど。


 とはいえ、僕はにこりと笑った。

「分かりました。では、困っている人たちの為に、僕たちで魔王を倒してみせます」


「……」

「……」

「……」


 国王に大臣。それに僕たちを召喚した際に盲目になってしまった王女様(盲目にした犯人は、あくまでもあの魔方陣だよ~)の3人は、なぜか沈黙で答えた。



「わかった。シリ……」

「レオン、レオン。僕の名前は"肥田木昴(ひだきすばる)"だよ」



 ――お前、今ここでこの世界での俺の本名出すんじゃねえぞ!

 僕は愛らしい顔に似合わない無言の圧を込めつつ、レオンの奴を睨んだ。


「……スバルが言うなら、魔王ぐらいどうにかしよう」

 僕の威圧に負けた、見てくれだけのヘタレ男はそう言って、僕に同意してくれた。



 でも、なぜだろう。

 僕が魔王を倒すと言った時には、完全に静寂が訪れたのに……


「おお、勇者レオン様、ぜひとも悪辣な魔王めを倒してください!」

「魔王を討伐した暁には、王女をぜひとも妻に娶り、この国の王とおなりください」

「私、レオン様のことが……」


 なんか勝手に期待して、おまけに婚約話がどさくさに出てきている。

 盲目になった王女様が、頬を染めてモジモジしていた。



 こいつら、僕のことをなんだと思ってるんだ。

 僕はこめかみのあたりが、ピクピクと痙攣してしまった。

 でも仕方ないよね、僕って愛らしい姿をした可愛らしいことだけが取り柄のお子様なんだもの。そんな僕に魔王なんて雑魚を倒せるなんて思うわけがないよね。

 ウフフ~。


 心の中で笑い声を上げるものの、僕はちょっとたまってきたストレスを感じていた。






 そんな僕のことなど、この場にいる誰も気にしていないんだけどね~。


 そのまま国王たちの話はとんとん拍子で進んでいき、彼らは期待満々に、魔王を討伐するための支援をすると快く請け負ってくれた。

 RPGの王道よろしく、冒険の始めに王様からのプレゼントタイムと言う名の、みみっちい額のおこずかいと、役に立たない初期装備授与の時間だ。


 銀貨500枚のお小遣い。

 それから魔法の効果が付与されている、王様曰く"伝説の剣"を、王様の傍に控えている大臣が恭しく捧げ持ちながら、レオンに差し出した。


 僕はその剣をチラリと傍で見ていた。


 えーと、何々。

 "粗悪な鉄でできた剣"。

 ……最初から思ってたんだけど、この国って王様の傍に控えている近衛兵でも全身金属鎧(フルプレート)じゃないんだよ。所々鉄を使ってるけど、ほとんど革装備の鎧だし。

 おまけに出てきた自称"伝説の剣"は、粗悪な鉄製だという。


 あ、ちなみになんで一目見ただけでそんなことが分かったのかだけど、王女様が僕たちを召喚したときに"解析鑑定魔法"を使っていたけど、僕もそれと同じ魔法を使ったからだよ。

 と言っても、僕が使ったのは正確には"解析鑑定魔法"でなく、その上位互換である"精密解析鑑定魔法"だけど。


 それにしても"粗悪な鉄の剣"だけならまだしも、そこにかかっている付加魔法(エンチャント)の効果が問題だよね。切れ味と耐久力を上げるって言うのはいいけど、その魔法をかけるためには、術の使用者が片腕を代償にする必要があるとか……。

 この国って、もしかして魔法を使うたびに代償が必要になる魔法しか存在しないんじゃないよね?


 最初の召喚といい、自称"伝説の剣"の正体といい、僕の中には不吉な予感ばかり蓄積されていく。


 そんな僕の前で、レオンが困惑していた。


「俺は武器なんていらないが」

「ですがいくら勇者様とて、徒手空拳で戦うわけにはいかないでしょう」


 断ろうとするレオン。だが、大臣は捧げ持つ自称"伝説の剣"をレオンに何としても受け取ってもらおうと説得する。


「もらっておいたらいいんじゃないの」

 そんなやり取りを傍で見ている僕は、レオンに告げた。


 レオンは、その言葉を受けて、しぶしぶと言った感じで剣を受け取る。


(あとでその辺の店で売っぱらうといいかな?それとも、溶かして何か別のものにしちゃおうか~?)

 なんてことを、僕は頭の中で考えつつだけど。



 それと、剣と一緒に渡された 銀貨500枚。

 この世界と日本だと物価の価値に違いがあるので、正確に日本円に換算することはできないけど、大体銀貨1枚が1000円程度の価値を持ってることになるね。

 それが500枚と言うから、総額で実に50万円の価値。


「おお、意外と太っ腹」

 これがRPG序盤の、ちゃっちなおこずかいイベントでないのだと僕は感心した。


「これより勇者様には魔族との戦いで活躍されることを期待いたします」

 と、大臣。

「そして勇者よ、これよりそなたと共に旅立つ仲間を、こちらで用意した」

 国王様はそんなことを告げる。




「ちょっと待った待った待った!」


 僕が慌てて声を上げると、王様と大臣が、面倒臭そうな視線を僕へ向けてきた。


「お金は僕とレオンの2人分だとして、僕にも何か武器をくれないのかな~?」

 仲間はいいけど、その前に僕にも何かちょうだい~。

 僕はおねだりするように国王の顔を見る。


 畜生。

 この国王30後半だろうけど、前世の同じ頃の俺より、痩せてやがる。


ご主人様(マイロード)の前世だと、同年代よりも太っている(かた)(ほう)が大変珍しかったですが……≫


 コラバカ妖精さん。真実を話しちゃダメ!

 前世の僕が30歳中盤過ぎたあたりで、体重80キロを超えてぶくぶく太りだしたなんてことを正直に申告しちゃダメでしょう!


≪……そこまで言ってませんが≫


 僕の脳内で、妖精さんとちょっと険悪な空気が漂った。





 だが、それはあくまでも僕の脳内だけでのこと。


「僕にも武器ちょうだい」の催促を受けて、大臣が兵士の1人に命令を下した。

 その兵士は大急ぎで広場を出て行った。それからほどなくして、メイドさんを連れて戻ってきた。


「あー、勇者の義弟よ。これで我慢しなさい」

 そう言う大臣。

 メイドが手にした小さなナイフを僕に差し出してくれた。



「んーと、果物ナイフに便利そう」

 っていうか、絶対に王宮の台所からたった今持ってきた果物ナイフだよね。


 ま、いいや。


 とりあえず僕はごそごそとロングコートの内ポケットを適当にまさぐって、そこから"ピチェルの実"を取り出す。

 このピチェルの実は、地球に存在しないこの世界独自の果物。地球の桃によく似た色と形をしているけど、見た目に反して硬さはリンゴによく似ている。

 甘くはないものの、シャリシャリとした触感が口当たりにいい。


 そのピチェルの実の皮を、たった今もらった果物ナイフ(これを武器と呼ぶ気などない!)でむいでいく。

 ほどなくして、皮を剥きおわった。


「よければ食べますか?」

 と、僕は周囲にいる人たちの呆れた顔を眺めまわしつつ、せっかく剥いだピチェルの実を誰か食べないかと尋ねる。


「シリ……スバル。お前、相変わらず場の空気ってものが読めないんだな」

「ほへっ!?ま、いいや。誰もいらないなら、僕だけで食べちゃうもんねー」

 レオン、君は一体何を言っているのかね~?


 パクパク、モグモグ、シャリシャリ。

 うん、おいしいよ。

 おいしいよ。

 ちっとも甘くないばかりか、味も大したことがないけど、おいしいよ~。


 とりあえず呪文のように思い込めば、なんとなくおいしいと錯覚できるかもしれない。おいしいと念じ続けて、僕はピチェルの実を食べる。





「……ゴホン、それでは、改めて勇者殿の旅の仲間を紹介させていただこう」

 間食している僕に呆れ果て、再び僕の存在を完全無視と決め込んだ国王たち。

「勇者の仲間よ、この場へ参じるが良い」

 何やら偉そうに国王が言った。


 そうして水色の髪に金色の瞳、黒ローブを纏った女性が現れた。腰にまで届く長い髪は後ろで束ねて三つ編みにしている。


「魔女のアイゼル・ブラウと申します。初めまして勇者様」


 そう言って、ローブの端をつまんで挨拶をする魔女。どうでもいいけど、この人もレオンに視線を真っ直ぐ向けていて、僕の事完全無視と決め込んでるんだけど?

 なんでだろうね。

 モグモグ、シャリシャリ~。




 この魔女のアイゼルちゃんだけど、僕と身長が同じくらいだね。

 ついでにおまけで、僕はラノベのハーレム系主人公のごとく、"精密鑑定魔法"でアイゼルちゃんの胸の将来の成長度合いを調べてみた。

 現在のアイゼルちゃんの胸はA--(エーダブルマイナス)。ここまでは普通の"解析鑑定魔法"でも分かる事だけど、その上位互換である"精密解析鑑定魔法"はさらに突っ込んだ情報まで読み取ることが出来る。お胸の将来的な成長素質は……うわっ、こんなの滅多に見ないけど、0どころか、マイナス0.1。

 つまり時間が経つにしたがって、成長どころかさらに萎んでいく乳なんて、発育悪いとかってレベルじゃないね。

 ププププ~。



 僕は思わず笑いそうになったが、それを何とか誤魔化す。

 まあ、アイゼルちゃんは僕のことなど歯牙にもかけてないので、僕が笑いを必死にこらえている顔なんて気づいてないだろうけど~。



「アイゼル殿は一見子供のように見えるが、これでも我が国一の魔法使いであり、年齢も21歳なのだ」

 と、大臣の説明。

「そうなのか。とはいえ、どこかの誰かと比べれば、驚くほどのこともないな」


 ロリっ子ペチャパイ乙女が登場。

 なのに、レオンはなぜか意味ありげな目で、僕の方を見てきた。



 えー、なんでそこで僕を見るのかな。僕全然意味が分からない~~~。


ご主人様(マイロード)、それは現在のあなたの年齢が……≫

 止めろ(シャラップ)

 僕は事実を聞きたいんじゃない。それ以上は何も言ってはいけないんだ妖精さん!


 僕のこの世界での実年齢は、すこーし、見た目と違っているんだけど、そんな小さなことはどうでもいいよね。

 そうそう、そんな小さなことを気にしていると禿げちゃうよ~。

 だから、僕の年が何歳かなんて、どうでもいいじゃない~。



「勇者様、魔王を倒す旅で、私の強力な魔法をご覧に入れましょう」

 僕が妖精さんと頭の中で話している間に、ロリペチャ乙女のアイゼルちゃんは、自信満々にレオンに宣言していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ