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63 楽しい滅亡寸前王国

 なんだかいろいろあったけど、僕たちは無事に王都に戻ってきたよ。

 ただし僕たちは無事でも、王都の方は全く無事じゃないみたいだけど。



「な、なんですのこれは!?」

 荷馬車に乗っていたアイゼルちゃんが、悲鳴に近い声を上げる。

「どうして……」

 ラインハルト君も呆然としてる。


 なんだかね、王都の中では悲鳴と雄たけびがそこら中で上がっていて、街から逃げ出そうとしている人たちで溢れかえってるよ。

 おまけに自暴自棄を起こしてるのか、見える範囲にある商店のほとんどが略奪されていて、とんでもない状況に。


「まるで戦場のど真ん中……って程ではないけど、大混乱だね~」

「こんな状況で、何暢気なこと言ってるんですか!」

 アイゼルちゃんに怒られちゃった。



 街中が凄まじく混乱している状況だったので、僕たちは急いで呼び出しを受けていた王宮へ向かった。


 ただし王宮に入るための門の前では、平時に立っている門番だけでなく、物々しい武装をした兵士たちが、隊列を組んで周囲を威圧していた。

 街が混乱した状態にあり、パニックになった暴徒が王宮へと侵入しないようにと、厳戒態勢を敷いてるんだね。皆ものすごくピリピリした空気を纏ってるけど、一方で多くの兵士が不安な表情を隠せないでいるね。

 それだけ、今の王都は混乱している。



 僕たち……というか、勇者レオン様効果は絶大で、城門に張り付いていた兵士たちは、レオンの顔パスで王宮の中へ入れてくれたよ。

 そしてそのまま僕たちは、すぐに国王の元へ通された。


「よく来てくれた、勇者レオンよ」

 相変わらず態度がデカい国王。

 ただしその顔はゲッソリしていて、目の下にはどす黒い隈が出来ている。疲れ切った様子を、隠すことが出来ないほど憔悴してるね。

 まあ、自分の治めている国の都が大混乱に陥ってる状況で、元気溌剌な顔をしていたら、そいつはかなり精神的におかしい国王なんだろうけど。


「国王陛下、お呼びにより参上いたしました」

 アイゼルちゃんとラインハルト君は、自国の国王様の前と言うこともあって、膝を折って畏まる。


「うむっ」と、国王は重々しく頷くけど、その声にはハリがない。



 それに、

「王様、大臣さんはどうしたんですか?それに、いつもならもっと偉い人たちが揃ってますよね?」

 僕は不思議そうに尋ねてあげたよ。

 本当は理由を知っているから、表面上は素知らぬ顔をして尋ねるよ。

 でも、心の中では物凄く嫌がらせの意味を込めて、尋ねてあげちゃった~!


 だって、こいつって今まで僕の存在完全無視し続けてきたんだから、この際嫌がる質問をしてあげないといけないよね~。



「大臣、それに高官の多くが、この国から逃げ出してしまったのだ……」

 国王がぼそりとつぶやく。


「そんな!高官の方々が逃げ出したとは、一体どうして!?」

 アイゼルちゃんが驚き、ラインハルト君も目を見開く。


「……先日のディートハルト砦の戦いでわが軍はかろうじて勝利したものの、事実上軍は壊滅状態に陥ってしまった。おまけに"不帰の森"に続いて、ノストフィーネ山脈でも悪魔族(デーモン)の大群が一時姿を見せたのだ。もはや我が国はお終いだ」

 ありゃっ、ノストフィーネ山脈の魔族どもを、悪魔族(デーモン)の連中に精神操作させるように命令したのは僕だけど、見つからないようにこっそりやれって命令したはずなんだけどなー。

 やっぱり、万単位で動けば人目についても仕方ないよね~。

 まっ、僕にとっては大した問題じゃないからいっか~。


 そんな僕の前で、国王はさらに話を続けていく。

「このことは高官にしか伝えなかったのだが、その中から我が国の将来を見限った者が、家財や使用人を連れて逃げ出したのだ。そこから高官どもが次々に逃げ出し、それに気付いた王都の民までが、逃げ出し始めおった……」

 おおっ、国を捨てて人々が逃げ出すなんて、まるで滅亡直前の国って感じだね。そのせいで国王が物凄く陰険な顔をしている。

 疲れ切っているくせして、目ん玉が飛び出しちゃいそうなほど、狂気的な雰囲気を漂わせてるね~。


「そんな……馬鹿なことが」

 アイゼルちゃんとラインハルト君は絶句。


 ちなみに僕は12歳児で、難しいことが分からないから、「そうなんだー」って感じで、適当な顔をしてるよ。

 まあ、心の中では、「やーい、ざまあみやがれ~」って、超ニコニコで笑ってるけど。



 ――「お前、本当に性格悪いよな」って言われるかもしれないけど。

 これが僕のデフォルトです。エヘンッ!

 嫌いな奴が苦しんでいる姿っていうのは、とてもおいしい蜜の味がするね~。


 というわけで、今まで国王に無視され続けてきた僕は、せっかくの記念にとっても甘くておいしい飴玉を食べちゃおう。

 コートのポケットから今までと違って、ちっとも不味くも苦くもない飴玉を取り出す。


「ああ、とっても甘くておいしくて幸せ~」


 アイゼルちゃんとラインハルト君が、物凄い目で睨んできたね~。

 でも、国王はそんな僕に注意するだけの気力がないようで、がっくりと項垂れちゃってる。



 しばらく僕が飴玉を口の中でコロコロと転がす音しか部屋の中ではしかなかった。その間空気は最悪で、誰も何も言わなかったよ。


「ところで、俺たちをここに呼んだ理由は?」

 やがて沈黙を破って、レオンが国王に尋ねた。


「……レオン殿には魔王を倒してもらいたい。そう思い呼び出したが、もはや我が国はこの様だ。今更魔王を倒せたとしても、果たして国が残るかどうか……」

 そこで、口を閉じてしまう国王。

 敵に攻め滅ぼされる前に、国が空中分解し始めてるものね~。


 あちゃー、これは完全に駄目な感じだね~。

 あと少し背中を押してあげれば、国王も精神的に壊れそうなレベルだ。



 なので、僕はニコニコと笑いながら、一歩前へ進み出た。

「国王様、安心してください。ちゃんと約束は守りますよ」

「……」

 僕の言葉なので、なんか国王がガン無視で聞いてない気がする。


 でも、お構いなしに僕は続ける。

「僕たちを召喚したときに、国王様は魔王を倒してほしいと言った」

「……」

「僕たちはその約束をちゃんと守るので、国王様もそのことを忘れないでくださいね」

 僕は笑顔で、項垂れたままの国王に言ってあげた。


「……」

 なんだけど、国王の奴完全に沈黙して無視だよ。

 どういうことだろうね~。



「安心しろ、魔王は倒す。だが混乱している国は、自分たちで何とかするんだな」

「……う、うむ。レオン殿の言う通りだな」


 こ、こいつ!

 僕の言葉だとガン無視だったくせして、レオンの言葉には小さく頷きやがった。


「そうですわ。私たちにはまだレオン様がいるのです。それに戦える兵士が全て倒れたわけではありません。なんとしても、この国を守ってみせましょう」

「その通りです。こんなところでクライネル王国が滅びるわけがありません!」

 アイゼルちゃんとラインハルト君も、レオンに続く。


「そうだ、俺たちにはまだ勇者様がいるんだ」

「魔王にだって、まだ負けたわけじゃない」

「そうだそうだ。俺たちの国をこんなところで終わらせてたまるか!」

 その後、この場に整列している近衛兵たちにまで勢いが伝播していき、勇ましい言葉をあげだしちゃったね。


「お、お前たち……」

 そんな近衛兵たちの姿を見て、国王が涙を浮かべて感動していた。



 いい光景だね~。

 潰れかけの国だけど、いまだに残された勇者と忠臣たちが国王様を元気づけるなんて、まるで物語の一説の様だ。


 ただし僕じゃなくて、なんでレオンにお前ら全員勇気づけられてるんだよ!


 なんなの、これ!

 レオンの主役補正が半端なさすぎるんだけど!

 そして僕には、脇役補正でもついてるのか!


 ものすごく、むかっ腹が経っちゃうよ。

 プンプンプン!


 僕は物凄くオコになったので、傍にいるレオンの足をこっそり、しかし思いっきり踏みつけてやった。


(キャン、痛いー)

≪金剛魔族の足を踏みつけても、ダメージを受けるのはご主人様(マイロード)の方ですよ≫

(ヒーン、こいつ本当に硬すぎるんだよ~)


 おまけに僕が踏んづけたのに、何事もないしれっとした顔をレオンはしてるんだよね~。

 ……もしかして、僕が踏んづけたことにすら気付いてない。なんてことはないよな?


「レオン様、どこまでもお慕いしております」


 ……あ、最後にこの場にいた王女3兄弟が、ねっとりとした目でレオンの雄姿を眺めてたよ。

 まあ、長女は失明しているけど、その目にはレオンの姿が見えているかのように、熱のこもった眼差しをしていた。



 ……

 ……

 ……


 とりあえず、飴玉をもう1個口の中へ投入。

 モゴモゴモゴ。

 えーと、何かあったかな~。


 なぜか僕の右目から涙が零れ落ちてるけど、何があったのかなんてこれっぼっちも覚えてないよ~~~。


後書き



 主役補正って便利ですね。

 もっともこの話では主人公に主役補正がついてないですがw

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