61 レオンの正体は……?
前書き
今回から新章になります。
王様からの呼び出しを受けた僕たちは、ディートハルト砦を後にして、再び王都へ戻ることにしたよ。
砦にいる間に僕はできるだけ多くの負傷兵に治療を施し、ついでに試験薬を使った人体実験も少々やっておいたよ。
いや、決して動物実験みたいな扱いはしてないから。ただ、すこーしだけ、試験薬を投与して試してみただけだよ。
中には僕の予想を裏切って傷の回復効果が増加した薬があって、なかなか面白かったね。
一方で傷口が痒くなるなんて困った副作用の薬も出てきてしまったので、そっちに関しては、まだまだ改良の余地があるね。
とはいえ命を取り留めたことに感謝する兵士もいれば、負傷した腕や足を切断された兵士たちは、腕や足があった場所を呆然と見つめて、ショックを受けてたね。
医術は仁術。
なんて言葉があって、心に傷を負った人間のケアもできてこそなんだろうけど、あいにくと僕は本物の医者でないし、聖人君子でもない。
個人的には実験した試験薬の効果を、時間をかけて観察したい思いがあったけど、大人しく王都へ戻ることにしたよ。
で、帰る途中でダモダス砦に残っていたアイゼルちゃんも回収。
妊婦が長距離の旅をするのはよくないことだけど、魔族を破ったとはいえ、未だダモダス砦は戦争の前線だ。
こんな場所に妊婦がいていいわけがない。
幸いなことに、僕は今回も黒雷男爵号を筆頭としたポニー軍団と、さらに荷馬車まで持ってきている。
アイゼルちゃんは荷馬車に乗って、王都まで無事に戻ることが出来たね。
……まあその道中、荷馬車の中でレオンとアイゼルちゃんはべったりの状態だったよ。
アイゼルんちゃんが妊娠したので、レオンとアイゼルちゃんがいつもみたく発情期の犬みたいに、せっせと子作りに励むことはなかったね。
ただ、レオンの奴はアイゼルちゃんのお腹をよく撫でていたねー。
『……公衆猥褻罪で逮捕です!』
そう言って、この新婚夫婦を牢屋に入れたくなってしまうぐらいだね!
そんな王都へと戻る道中。とあるひと時、
「レオンさん、なんだか最近悩んでいることがありませんか?」
「そんなことはないぞ」
アイゼルちゃんとレオンが話し合いをしていた。
その時ちょうど僕とラインハルト君の2人は、2人でつれしょんに出ていたんだけど、僕は感知魔法を使えば、離れていても2人の会話を盗聴……おっといけない。ついつい小耳にはさんでしまうことができる。
伊達にストーカー妖精スピカの宿主をしてませんよ~。
≪……≫
(エヘッ)
スピカが無言で威圧のあるオーラを出してるけど、とりあえず笑っておけば全て解決さ~。
そんなことより、盗聴の内容だ。
(……っていうかスピカさん、なんだかスピカさんも2人の会話をものすごく気にしてません?まるで、お昼のドロドロドラマに熱中する主婦みたいに)
≪ご主人様、静かにしてください。今いいところなんですから≫
(ア、アカン。スピカが昼ドラ見てる主婦のレベルに成り下がっとる……)
僕が呆れてる中、聞き耳立てられてることを知らない2人の会話が続く。
「嘘ですね。だって、最近のレオンさんってとっても口数が少ないもの」
「そんなことはないだろう」
「いいえっ。始めは子供が出来たからだと思っていたけれど、そうじゃない。なんとなくだけど、私には分かるんです」
「……」
「何か、隠していることがあるんですか?」
「……」
(よし、いいぞ、レオン。ここでお前の正体バラしちまえ!)
そしたら、アイゼルちゃんとお前の子供は僕のスペシャルな技術でもって、ちゃんと助かるように処置してあげるからさ。
「何でもない。ただ俺も父親になると思うと、感慨深くてな」
「……本当に、そうなのですか?」
「ああ、そうだ」
(……ヘタレめ!)
僕はチッと悪態ついて、地面に唾を吐きたくなった。
「スバルどうしたんだ?」
あ、いけないいけない。
悪態ついたら、傍にいるラインハルト君に変な目で見られちゃったよ。
「あのね、ラインハルト君。根性と意気地のないダメ男になっちゃダメだよ」
「何言ってるか分からないぞ?」
「ンフフ~、レオンみたいになっちゃダメってことだよ~」
「?」
ラインハルト君は全く理解できてない顔しているね。
まあ、レオンって戦闘時には最前線で活躍しているわけだし、普段はクール。そんな外面しか見ていないラインハルト君からしたら、レオンの中身のダメっぷりに気付かないのだろう。
「……」
ところで、その後急にラインハルト君が黙り込んじゃったよ。
なんだか考えてるような顔してるけど、
「なあ、スバル。君は人間だよな?」
「ほへっ?そんなの当たり前の事じゃない。突然どうしたのラインハルト君?」
「いや、何でもないんだけど……」
そこで再び黙り込んでしまうラインハルト君。
ただ、その後決意したように、言葉を小さくして続けた。
「義理の兄弟の君に聞くのもおかしいけど、レオン様がおかしかったりすることはないよな?」
ほへっ、この子は一体何が言いたいのでしょうね?
≪レオンの正体の事を気にしているのでしょう≫
僕の頭の中でフォローを入れてくれるスピカだ。
もっとも言われなくても、僕だってそれぐらいは洞察してるから安心なさい。
洞察できてるって、胸を張って自信満々に答えられるよ。
≪ご主人様の自信満々は、逆に不安になるのですが……≫
なんだか失礼なことをスピカに言われてるけど、そんなことはいちいち気にしなくていいよね~。
いつも小姑のセリフで思い悩んでたら、ノイローゼになっちゃうし~。
直後、小姑扱いしたスピカが僕の頭の中で叫んだけど、そんなことは僕の左の耳から耳の右へ、脳を経ることもなく素通りして無視。
それより、ラインハルト君の相手をしてあげないと。
だから僕は、真剣な顔でラインハルト君の顔をマジマジと見ながら言った。
「レオンの奴はクールぶってるけど、実はとんでもない淫獣で、アイゼルちゃんを妊娠してさせて起きながら、実は他にも王女様3兄弟を手ごめにしている、実にけしからん男なんだよ」
「……その噂は、知ってる。それにスバルも話してただろう、その……4人でベッドに……」
「そういえば、前に話したっけ~?」
そんなことを、この僕がいちいち記憶に留めてるわけないよね~。
「それより、僕が聞きたいのは、レオン様が人間なのか……」
ラインハルト君は実に深刻な感じだ。
けど、僕はそんなことはどうでもよくなった。
だってね、
「ヒエーン、おしっこが手にかかっちゃったー」
あろうことに、つれしょん中だった僕の手に、かかっちゃったんだよ!
「ラ、ラインハルトくーん」
僕が情けない声を出すと、途端にラインハルト君は呆れてため息をつく。
そして、心の中でこう思ってるんだろうね。
(駄目だ。スバルに聞こうとした僕が馬鹿だった)
なんてことをね。
そんな具合で深刻な雰囲気はどこかへと飛んでいき、
「僕はスバルの将来がものすごく心配だよ……」
そう言われて、可哀想な目で見られちゃった。
なんで僕が心配される羽目になっちゃうんだろうね~?




