60 白金貨色の瞳
ディートハルト砦には何日か滞在することになったけど、その間に僕の所にカタリナちゃんがやってくる機会があったよ。
僕と言えども、さすがに連日連夜負傷兵相手に手術を続けるのは無理。
そもそも僕の体って12歳だから、徹夜しようとしても、その前に眠くなっちゃって仕方ないんだよね。
心はちっとも12歳じゃないけど、体は12歳だから仕方ない。
それに負傷兵者相手に、こっそり新薬の実験・・・・・おっといけないいけない、治療ばかり続けていると、さすがに休憩もしたくなる。
「カタリナお姉ちゃん、魔族の将軍を3人も倒したんだって?これ僕からのお祝いだから取っておいてね」
「まあっ、これは?」
僕が取り出したのは、プラチナの指輪。
「あ、言っておくけど婚約指輪とかじゃないから」
「うふふ、分かっているわよ。でもこれって物凄く高そうね」
「そうだねー、たぶん市場に流したら白金貨50枚(5億円)は下らないんじゃないかな~」
「し、白金貨50枚ですって!」
金貨を通り越して、その上にある白金貨はとてつもない価値を持つ。何しろたった1枚で金貨100枚分の価値。日本円にしたら、1000万円ほどの価値がある。
そんなもの、50枚分の価値だもんね。
そんなわけでカタリナちゃんの目は金貨色を通り越して、白金貨色のとてつもない欲望に彩られた、白くキラキラ輝く瞳になる。
「ああっ、王都からここへ飛ばされた時は、運命を呪ったけれど、世の中には捨てる神あれば拾う神あり。スバル君、私あなたのことがとっても大好きよ」
「えへへ~、カタリナちゃんのためだから当然だよ~」
僕とカタリナちゃんはガシリと手を取り合って、固い握手を交わした。
それにしても、カタリナちゃんはとっても欲望に塗れてるね~。
僕の前世での3番目の妻より、もっとどぎついな眼をしてる~。
「でもさ、カタリナちゃんが魔族の将軍を3人も討ち取ったんだから、国に戻ればきっと大出世間違いなしだね」
「そう言えば、確かにそうね」
「フフフ、出世した暁には、僕たちはもっと仲良くしていこうね」
「ウフフフフ、そうね。そうしましょうスバル君」
僕とカタリナちゃんは、2人してニタニタニヤニヤと、欲望まみれの視線を交わし合った。
とっても価値のある指輪だけど、これもカタリナちゃんの気を引くための先行投資だから、決して損になる贈り物じゃない。
それに、どうせポーチの片隅に落ちてたゴミだから、僕の懐はちっとも痛まないし!
≪はあ、ご主人様のポーチの中は、本当にどうなってるんでしょう≫
僕はもちろんだけど、スピカでさえ僕のポーチの中に何を捨ててあるのか把握しきれないんだよね~。
そんなやり取りがありつつ、僕はカタリナちゃんとしばし楽しい会話の時間を持ったよ。
あ、ちなみに先の戦争で砦の幹部クラスの人たちは全員戦死しちゃって、今ではカタリナちゃんが砦のトップとして君臨してるよ。
戦闘前には1万人を超えていた兵士たちは、今では3千人もいないという有様。しかも生き残った兵士にしても、僕が治療していることから分かるように、ほとんどが負傷していて、まともな戦力にならないほどひどい状態だ。
敵味方共に、僕がダモダス砦の周囲にいた魔族を焼き払った時以上の数が、死んじゃった訳だ。
ただ、カタリナちゃんは死んだ人たちのことは特に気にせず、
「面倒な雑務は部下たちに丸投げしてるから、私は砦の最上階で偉そうに踏んぞっているだけなのよ」
「うわー、とってもいいな~。まるでお城の支配者……女王様みたいだね~」
「ホホホホホ、何か面倒なことがあったら、いつでも私を頼ってちょうだい。今の私なら、この砦のどんな人間でも顎でこき使うことが出来るのよ」
「ワーイ、やっぱりカタリナちゃんは、どこにいてもとってもすごい権力者だね~」
こんな感じで、僕とカタリナちゃんはとても息ぴったりの会話をしていった。
それからさらに数日後、砦に王都からの伝令がやってきたよ。
既に国王は今回の戦いの結果を知っていて、伝令はレオンを始めとした勇者御一行様に、一旦王都へ戻って欲しいと伝えてきた。




