4 僕たち異世界に召喚されたんだよね。へー、すごい(棒読み)
僕たちは召喚された場所から、王女様を筆頭とする女性たちに案内されて、王様の住む王宮へ案内された。
ところでその道中、王女様は失明したために歩くことさえままならない様子で、その足取りはおぼつかない。
傍に仕える女性の1人が王女様の手を取り甲斐甲斐しく支えるが、それにしても失明したばかりだというのに、王族にあるまじきタフネスを発揮するものだと、僕はついつい感心してしまった。
普通、王族って奴はもっとメンタルが弱くて、逆境にすこぶる弱そうなものだけどね~。まあ、普通の人だって逆境に強い人ばかりじゃないけど。
≪王女の視力を奪った犯人のくせに、それを思うのですか?≫
妖精さんが何か言ってるけど、僕よくわかんない~。
だいたい仕方ないよね。
僕とレオンをいきなり召喚したあの魔方陣。仮称『殺害対象抹殺魔方陣』とでも名付けておくけど、あれを使うと魔方陣の使用者が代価を払わないといけないんだもの。
それで目が見えなくなっただけだよ~。
本当は魔方陣が要求した代価は王女様の寿命が40年ほど削れてしまって、20代には天寿を迎えることになることだけど。
でも、そのことは僕と妖精さん以外誰も気づいてないから、魔方陣の代価は視力だったことにしておけば問題ないね~。
≪……≫
妖精さんがものすごく不満そうな顔をしている。
だが残念だったな。
貴様は俺の一部であり、お前は現実ではしゃべることすらできないのだ。
フハハハハ、死人と妄想の産物には、しゃべる権利など端から与えられることがないのだ~。
なんて感じで、僕は脳内に住んでいる妖精さんに、遥か頭上から見下すような気分で叫んだ。
もちろん、叫んだと言っても心の中だけでだけど。
「よくぞ異世界よりおいでいただいた勇者様。この世界はアルスギルナと言い……」
王女様たちの案内で、王様の前にまで通された僕とレオンの2人。
勇者様"方"でなく、勇者様と国王は抜かしやがった。
ただの愛らしい子供にしか見えない僕の存在など、最初から完全無視状態で、見た目だけは頼りになりそうなイケメン男レオンに対して、国王は滔々と我が国が魔族の侵攻に晒されて危険に瀕していると説明していく。
もちろん、超王道的ベタ展開だから、細かい話は全部カット。いちいち説明する必要すらないね。
あ、そうそう。この国王だけどまた30代だよ。国王なんていえば普通白髪のはえたお爺ちゃんを想像するかもしれないけど、まだ中年で髪も全然白くなってないね。
ただ、僕気づいちゃった。
僕だけでなく、レオンも僕の方に目を向けてきた。
今、この国王、この世界のことを"アルスギルナ"って言ったよね。
――をぃ、国王ら。
俺らを異世界から召喚したとかってのたまってたけど、間違ってるぞ。俺もレオンも生粋のこの世界の生まれだぞ!
≪ふうっ、ご主人様ようやく、ご自分がこの世界の生まれだと認めましたね≫
……ハッ、しまった国王の間抜けぶりに突っ込んだら、僕が本当は地球から召喚された異世界人でなく、バリバリのこの世界生まれだってことがばれちゃった。
いや、口には出してないから、国王にばれたわけではないけど~。
えーと、実はですね、僕は地球で72歳で天寿を迎えて大往生した後、前世の記憶を持ったまま"異世界転生"を果たしたんです。
転生した時点でもちろん0歳児の赤ん坊ですよ。
ちなみに、転生した世界の名前は"アルスギルナ"。
国王がさっき言った"アルスギルナ"とは、全く同じ世界なんですね。
なーんだ。あの仮称『殺害対象抹殺魔方陣』め。
殺害対象である魔王を殺すための奴を、異世界から召喚できてないなんて、とんだヘボ魔方陣でやんの~。
同じ世界内で召喚してんじゃんか。プププ~。
あ、ちなみに僕は"異世界転生者"だけど、レオンは異世界も転生も関係なく、もともとこの世界の生まれてますよ。前世の記憶を持っている人間でも全くないから~。
とりあえず、僕とレオンは友達だけどね~。
そんな僕とレオンの前で、国王はこの国の危機を話して回り、最後に魔王を倒してくれと僕たちに……正確には僕の存在を完全無視して、レオンにだけ懇願するような視線を向けてきた。
「なあ、シリ……」
「レオン。いや、勇者様。ぜひとも頑張って魔王を倒してね」
「お前、正気で言ってるのか?」
「えっ?"正気"じゃなくて、"本気"だけど」
僕はにこりと笑う。
おい、手前。
今この世界での俺の本名を言おうとしただろう。
ばれたらこの場にいる全員、確実に俺の敵になるぞ。
別にこんなちんけな王国の王宮一つ捻り潰すなんてわけないが、こんな辺鄙な王国潰しても、その後どうすればいいんだよ。
……っと、いけないいけない。
ついついプリティースマイルで愛らしい少年キャラである僕のイメージが、完全に崩壊してしまうところだった。
いけないね、"素"を出したら。
「レオン、困っている国王様の為に、頑張って勇者として戦ってね」
「ム、ムウッ。なんだか納得いかないが。お前が言うのなら分かった」
僕のスマイルの力で、レオンは渋い顔をしつつも頷いてくれた。
「おお、勇者様。それでは魔王の討伐をぜひともよろしくお願いいたします。この国といたしましても、できる限りの援助をさせていただきますぞ」
了承したレオンの両手を取って、国王は感激の声を上げた。
いやー、いい光景だね。
感動物だね。
これから勇者レオン君は悪の権化である魔王を討伐に行くわけだ。
がばれよー。
僕は陰ながら応援しているから~。
そんな感じで、その時の僕はレオンの事を完全な他人事として、どこまでも暢気に眺めていた。
しかしその時の気軽な僕が、まさかあんな目に遭うことになるとは……。その時の僕は、考えもしなかった。
……と、適当にフラグをつけると何かあるかもね~。