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今日も異世界チートしてますが、それが何か?  作者: エディ
第4章 北の地での戦い
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54 強化火球(ハイ・ファイヤボール)

「おしっこ~」

 夜のダモダス砦の室内、僕は椅子から立ち上がって暢気に言った。



 現在ダモダス砦で足止めを食らっている僕たち。

 日々負傷兵相手に医者のまねごとをして暢気にしている僕だけど……いやまあ、普通手術を暢気と言っちゃいけないよね。

 えーと、それなりに緊張感っぽいものを持っているようで、さっぱり持っていない僕は、とりあえずこの砦で暢気に生活してるよ。


 うん、やっぱり手術していようが、砦の周囲に魔族の軍勢がいようが、暢気であることに変わりないから仕方ない。

 エッヘン。



 ま、それはそれとして、もうかれこれ1週間ぐらいこの砦にいるね。



 で、今は砦の部屋にレオンとラインハルト君、そしてアイゼルちゃんの4人でいるわけ。



 この1週間、僕は何度も手術をしていたけど、その腕前がこのメンバーからさっぱり認められないのはいつものこと。

 ただ最近アイゼルちゃんは体調が優れないようで、医務室に薬をもらいにくることが多かったりする。

 そういう時に限って、僕は軽度の負傷兵相手にポーションを売りつけてるから、白い目で見られちゃってるや~。アハハ~。



 ま、そんなことはどうでもいいね。

 で、僕が椅子から立つと、それに続いてレオンもスッと立ち上がった。


「フッフッフッ、ツレションって奴だね~」

「早く行くぞ」

 それだけ言って、僕より先に部屋から出て行くレオン。


 なんだ、なんだ。

 急がないとまずい状態なのかい?

 すまし顔しておきながら、結構ピンチなんだな~。


 僕は心の中でクツクツ笑う。


「ラインハルト君は大丈夫?」

「大丈夫だから、早くトイレに行っておいで」

「わかった~」


 てなわけで、僕とレオンの2人は、ツレションへ行きました。






 して、ツレションの現場だけど、それはダモダス砦の外にある、魔族の軍勢3000が駐屯している野営地の上空になります。

 はい、外どころか、お空ですよ。


 転移魔法(ジャンプ)を使って、ダモダス砦からここまで一瞬で飛んできました。



「いやー、たくさんいるね~」

 下を見れば魔族の野営地にある松明の明かりが、そこかしこに見える。

 現代日本の摩天楼と化した都市の輝きから見れば大したことないけど、真っ暗な地上の中で、そこだけ光が集まっている光景は、それはそれで幻想的だ。


「シリウス、あれをやるのか?」

「そうだよ」

 地上をしげしげと眺めている僕に、レオンが尋ねてくる。


 ちなみにレオンは魔族だけど、なんと驚いたことにレオンの種族である"金剛魔族"は、魔法を使うことが出来ないという、トンデモな弱点を持っている。

 なので転位魔法(ジャブ)でレオンをここまで連れてきたのは僕だし、現在レオンの体を空中に浮かばせている"浮遊魔法(フロート)"も僕がかけているものだ。

 ちなみに"浮遊魔法(フロート)"は"重力属性魔法"に分類されていて、一定空間内の重力を操ることで、空中に浮かぶことが出来るって代物だよ。


 この魔法を使える人間は、この世界では僕以外誰もいないようだけど、僕はその中の唯一の例外だから問題ないね。




「哀れなものだな」

「まあ、悲しいことだよね」


 レオンと僕はそう言い、少しだけ沈黙が漂う。




 魔物とはいえ、3000の軍勢が今から消えてしまうのだ。

 そのことを思えば少し物悲しい気持ちになる。

 魔物ではなく、もしあれが3000人の人間と置き換えみよう。そしてそこにいる人間たちが、今から完全に消え去ることになる。そう考えてみるなら、何かしらの寂寥感や虚しさと言ったものを感じるだろう。


 罪悪感?

 えーと、そう言う重たい物は遠慮しときます。


 そしてこれから僕が行うことは、一方的な大量虐殺だ。




 僕は指先に3つの"火玉(ファイヤボール)"を作り出した。

 この前巨大一目鬼(サイクロプス)相手に放った火玉(ファイヤボール)と大きさに違いはない。ただあの時と違って、今作りだした火球(ファイアボール)は赤ではなく、白い輝きを発している。

 光自体はとても小さく、もし地上にいる魔族が空を見上げたとしても、その光に気付くことができないだろう。よくて、か細く輝く星の一つにしか見えない程度。


「さようなら」

 僕は呟いて、火玉(ファイヤボール)を魔族の野営地に落とした。



 火玉(ファイヤボール)が地上へと落ちた瞬間、一瞬にして火玉は太陽の輝きへと変化した。

 そう表現するしかない。



 放たれた時は1センチもなかった火玉(ファイヤボール)は、地上で炸裂すると同時に巨大化、真っ白な光の塊が夜の闇を一瞬にして吹き飛ばし、地上を真っ白に染め上げる。

 もはや周囲を照らすなどという生易しさでなく、世界を白い閃光で埋め尽くした。

 あまりの眩しさに、瞼を閉じても、光が目の中に入り込んでくるほどの強烈さ。


 そして、灼熱の熱波が発生する。

 炸裂する火玉(ファイヤボール)の内部に存在したものは一瞬にして蒸発。

 留まることを知らない熱波は周囲へ広がり、それが近くにある木々を爆風で吹き飛ばし、さらに膨大なる熱量によって燃え上がり、炭化する。

 炎によって大地も蒸発して消え去り、蒸発をまぬがれた地面にしても、赤化した溶岩へ作り替えられていく。


 とどろく轟音は衝撃波となり、火球(ファイアボール)から1キロ以上離れた場所に並び立つ木々すらも、根元から吹き飛ばした。




 普段の能天気満載な僕だったら、

『旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね』

 なんてセリフを吐いてる威力だ。


 ただし、そこに3000の魔族がいたというのは、精神的に結構来るものがあるよね。



 とはいえ、僕は決めたので、もはや躊躇うつもりなんてないけど。




 やがて投下された白い炎の塊が力を失っていくと、地上には巨大な穴が3つ残された。

 それぞれが大地に直径300メートル級の巨大な大穴を作り出している。

 たった3発の火球(ファイヤボール)でこの様だ。



 だが僕は手加減なく、そこに火球(ファイヤボール)を連続して打ち込んでいった。


 先ほどまでの驚異的な威力を持った火球(ファイヤボール)を、強化火球(ハイ・ファイヤボール)と名付けるならば、こちらは普通の火球(ファイヤボール)

 ただし、僕の放つ火球(ファイヤボール)なのだ。



 地面に直撃すると同時に、直径10メートルになる炎の塊が生まれる。

 それを50発ほど僕は打ち込んだ。



ご主人様(マイロード)、周囲に生存している生命体は我々だけになりました。生き残りった魔族は1人もいません≫

(そっか、全滅しちゃったか)

 自分でやっておいてなんだけど、あまり後味のいいものじゃないね。少しくらいは生き残りがいても、よかったと思うんだけど。

 もっとも死んだ魔族たちは、自分が死んだことを理解する暇もなかっただろうけど。





 魔族が全滅したなら、もうやることはない。

 あとは転移魔法(ジャンプ)でダモダス砦に戻ればいいけど、その前に僕には言っておくべきことがひとつあった。


「ねえ、レオン」

「なんだ?」

 せっかく2人っきりの状態なので、ここでこいつには言っておかなければならないことがある


「アイゼルちゃんのことが随分気に入ってるようだけど、子供はどうするつもり?」

「子供?何を言ってるんだ」


 僕の言ってる意味が分かってないみたいだね、こいつは。

 全く、仕方のない男だ。


「決まってるだろ。アイゼルちゃんだけど、子供がお腹の中に出来ちゃってるよ」

「ハッ、なに!?」

 僕の言葉に、レオンが驚く。


「まあ、あれだけ毎日お盛んにしてて、子供が出来ない方が不思議だよね。

 ……いや、僕も正直君とアイゼルちゃんの間でまさか子供ができるなんて思ってなかったけど、"精密解析鑑定"でも確認したから、間違いないね。

 とはいえ種族が違うから、妊娠する確率なんて天文学的な確率だったから、本当に驚きだよ」

「ちょっと待て、シリウス。本当にアイゼルに子供が出来てるのか!それも、俺との子供が……」

「そうだよ。君とアイゼルちゃんの子供」


 子供と聞いて、レオンが珍しく取り乱してるね~。



「それは、すごいな」

「うん、すごいね。おめでとう」

「あっ、ああっ。ありがとう」


 まだ実感がわかないのだろう。レオンはかなり戸惑い気味だ。




 でもね~、僕にはこの後に続けないといけない言葉があるんだよね。

 せっかくのお祝いムードだけど、それを壊さないといけないのが残念だ。



「でも、レオンも分かってるだろうけど、ただの人間が、ハーフとはいえ"金剛魔族"の子供を産むことはできない」

「……っ!」


 そう、レオンは"金剛魔族"であり、アイゼルちゃんは"人間"。

 金剛魔族は魔法が使えないという物凄い弱点のある種族だけど、その力は非常に強力だ。

 物理的な力が飛び抜けていると同時に、物理・魔法防御力も常識を超えた領域にある。

 こと近距離での戦いとなれば、(ドラゴン)さえあっさり倒すことが出来る、強力な力を秘めている。

 魔族の中でも、かなり上位の戦闘力を持つ種族と言っていいだろう。


 だが、そんな強力な種族の血を持った子供を、ただの人間が生むことはできない。



「今はいいけど、お腹の子供が育っていくと、アイゼルちゃんはその力に耐えられなくなって死ぬよ。もちろんアイゼルちゃんが死ねば、お腹の子供だって生まれることもできず死ぬことになる」

「……何か、方法はないのか?」


 レオンが懇願する目で僕を見てきた。

 昔から言葉の少ない奴だけど、その目はまるで土砂降りの雨に濡れた、子犬のような哀れさがある。



「もちろん、助ける方法はあるよ」

「なら……」

「ただし!」

 レオンが期待しそうになるけど、僕は言葉を強くしてそれを制する。



「100%成功する保証はない。それにアイゼルちゃんの同意もいる。

 いいかいレオン。アイゼルちゃんに君の正体をちゃんと話すんだよ。話す時期は君の方で決めていい。けど、その後アイゼルちゃんは"僕たちの国"で生きていくことになる」

「……分かった」


 レオンが小さく、しかしはっきりと答えた。



「まあ、できれば話すタイミングは早くね。遅くなるほど、母子共に危険になる」

「ああっ」


 頷くレオン。

 とはいえ問題が問題だ。

 今すぐにアイゼルちゃんに打ち明けられるものでもないだろう。レオンって決断が早いように見えて、意外とウジウジ悩む時間の長い奴だからな~。



 僕はそう思いながらも、

「それじゃ、帰ろっか」

 レオンを連れてダモダス砦へと、転移魔法(ジャンプ)で飛んだ。






 砦に戻ると、「夜なのに真昼より明るい光に世界が覆われて、この世のものと思えない爆音が轟いた」と大騒ぎになっていた。

 砦の兵士たちは天を仰いで呆然としていたり、大地にひれ伏して神の名を叫んで祈り倒していた。


 しかしそんな大騒ぎを僕は気にせず、

「ただいま~、大きい方だったから時間がかかっちゃったよ~」

 砦にある部屋に戻って、ラインハルト君たちに暢気に答えておいた。



 まあ、2人とも暢気な僕の声など聞いてる余裕がなく、完全にパニック状態だったよ。

「世界が終わるかのような音が轟いた」

「夜なのに、真昼よりも明るくなっていた」

 そう言いながら、兵士たちと同じで天に祈って恐怖してたね。



 ……わおっ!

 物凄く怖がってるようだけど、一体何があったんだろうね?



 とりあえず僕は能天気にそう思った。

 まあ、"元凶(はんにん)"は僕ですが!


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