52 お医者さん
魔族との戦いの最前線にある砦はディートハルト砦といい、ここでは現在万を超える魔王軍とクライネル王国軍が対峙している最中にあった。
一応"勇者様御一行と+α"になっている僕たちとしては、そこまで行く必要があるんだけど……。僕たちはその手前にあるダモダス砦で、足止めされている最中だった。
理由は単純で、魔族の別働隊3000がダモダス砦近辺に野営地を築いているためだ。
このダモダス砦はディートハルト砦の後方に位置し、仮にこの砦が落ちようものなら、ディートハルト砦は魔族の軍勢の中に孤立してしまうことになる。
万を得る人間が籠っていることもあって、常に後方から食料を始めとした補給物資が必要なディートハルト砦。孤立してしまえば、その後の運命など誰にでも理解できるだろう。
そして肝心なことだけど、このダモダス砦にはなんと兵士がたったの500人しか配置されていないという。
「うわー、本当にこの国ってド辺境・ド貧乏・ついでに人材なし国家だね~」
などと、僕は暢気な感想を口にした。
いくら何でも主戦場の後方にある砦に500人しかいないって、もう何をどう突っ込めばいいのかわからないレベルだよ。
てなわけで僕たち一行は、砦の司令官から「なにとぞ勇者レオン様御一行のお力で、この砦を狙う魔族どもを撃退してください」
なんて言われてるね。
何言ってるんだろうね?この砦の指揮官は。
僕たちたった4人で3000の魔族相手にしろって、何考えてるの?
頭の中がお花畑過ぎるよ。
大軍相手にたった4人で突撃なんて無理、無謀、無茶。砦にいる500人の兵士を加えても兵力に差がありすぎるので、とても戦いになるわけがない。
ゲームの中みたく、4人組のパーティーで魔王軍相手に戦えるわけがないんだよ。
確実に死ぬ!
(まあ、普通に考えたらだけどね~)
「それと先日、後方の安全確認の為に首都方面に出していた斥候なのですが、彼らが砦に続く道中で、それまでになかった巨大な穴が出来ていると報告してきました。おそらくは巨大な力を持った魔族の仕業でないかと……」
状況を説明してくれる司令官さん。
ふーん、大変だね~。
巨大な穴が突然道にできてたんだって~。
直径が10メートルくらいだって~。
「ねえ、レオン。なんで僕を見るのかな~?」
「何でもない」
≪それは穴を作ったのが、ご主人様の撃った火玉だからです≫
?
そう言えばサイクロプス相手にそんなことしたっけ?。
ま、僕は何も悪くないよ~。
「きっと魔族の軍勢の中に、そんな大穴を作れるヤヴァイ奴がいるんだね。怖いね~」
とりあえず僕はすっ呆けておいた。
幸いと言うべきか、僕の実力はレオン以外誰も知らないので、アイゼルちゃんもラインハルト君も、僕の事なんてちっとも疑う様子がなかったし。
で、戦況って奴だね。
4人で先を進もうとしても、魔族の大軍がいるから先に進めない。
そのせいで、僕たちはダモダス砦に足止めされてるわけ。
ただ、砦からは魔族の動向を探るために、常に斥候が出している。そして逆に、魔族側も斥候を出している。
時には斥候同士で戦闘が発生することがあり、砦には傷ついた兵士が運び込まれることもあった。
どちらも軍勢を前に出して正面から戦う段階にないけど、それでも負傷者は日々出てる。
とりあえず僕は砦の医務室に運び込まれてきた兵士相手に、ポーションの販売を始めたよ。
「毎度ありがとうございます。次回もよろしくね~」
「もう2度と厄介になりたくないな」
「ただのポーションにしては効き目がいいよな。ただ値段が……」
「うあああっ、俺の給料がー!」
これが僕のポーションのお世話になった兵士さんたちの感想。
皆、傷口が痛むのかな?
なんだか顔を真っ青にしたり、悲鳴を上げたりしてるよ。
大変だね~。
「ス、スバル、君はこんなところでも金をとるのか……」
ラインハルト君には呆れられちゃったけど~。
あ、そうそう。
それと僕はこれでも薬師だけでなく、簡単な手術くらいこなせるよ。
前世では医師免許は持ってなかったけど、動物実験はいろいろしてるから大丈夫。
実験用のネズミのお腹を開いて内臓を確認した後、傷口を縫合手術で縫い合わせたこともあるから。
傷口の縫合手術くらいお任せね~。
医者らしく見せるために、白衣をポーチの中に突っ込んでるよ。
なので僕はいつもの黒いロングコートでなく、わざわざ"エセ医者"っぽく見えるように白衣に着替え、兵士の受けた傷の縫合手術なんかもしたよ。
いやー、こんな時の為に手術用の針と糸もポーチの中に完備してるからね~。備えあれば患いなしってやつだよ。
なんたってこの国に召喚された直後ですら、純金ネックレスを換金して、お金に困ることがなかったほど用意周到な僕だもの。
と言っても、手術用の糸に関しては、現代日本の医療用の糸ほど高性能じゃないから、傷口が塞がったら後日抜糸が必要になるけどね~。
「まだ子供なのに……こんな見事な腕前の手術は見たことがない。あなたの医術をどうか私にも伝授してください」
なんだか医務室でポーション売って、簡易的な手術をしていたら、いつの間にか砦の軍医さんが、僕のことをそう言って拝み始めちゃった。
「フフフ、君にも僕のカリスマが分かるんだね~」
「ハハーッ、偉大なる医術をお持ちの賢者様」
なんだか平伏までされちゃった。
うんうん、僕ってそこにいるだけでカリスマオーラが溢れだしているから、至極当然のことだね。




