48 北へ出発
「魔族が北の国境に大挙して押し寄せ……」
王宮に呼び出された勇者御一行さんたち。
僕は勇者ゴッコはとっくにやめてるので、今回は勇者さんの知り合い(義兄弟だが)という枠で、王宮についてきました。
うんうん、何か国王も大臣も真っ青な顔して懇切に訴えてるけど……
<以下略>
ふうっ、素晴らしいね。
モブどものイベントなど、"略"と言う文字一つ使っただけで、全部片付いてしまう。
これからも何かあったらこの手を使おうっと~
「勇者レオン様、これからの戦いは命がけ……」
<以下略>
あ、今のセリフは第二王女ね。
ついこの前クライネル王国の北に魔王の大軍勢が攻めてきたけど、面倒臭い話を全部省略してまとめると、「勇者レオンよ、解決して来い!」ってことだね。
とはいえ、それは命がけの事態。
だから、モブヒロインの第二王女がレオンに何か言い始めて……その後レオンと王女3姉妹、そしてカタリナちゃんが、王宮にある寝室で……『以下略』ってことだね。
ところでさ、昼間静かで大人しい男ってのは、夜の営みになるとこれ以上ない精力絶倫を見せるらしいね。
普段のレオンってクール装ってるけど、もしかしてああいう男に限って、夜の場ではとんでもない獣に一変しちゃうのかね?
ちなみに僕の監視魔法使えば、今王宮のベットで何が起こっているのかを詳しく知ることが出来るけど。
『んなものは知りたくもねぇ!』
穢れてしまうよ。
この純真無垢な僕が穢れてしまうじゃないか!
シッシッ。
なんとなく犬を追い払うような感じで、僕は「シッシッ」と言っちゃった。
決して、『ハーレム主人公属性持ちの"脇役"』のことを僻んでるわけでも、羨ましいと思ってるけでもないよ。
だって、前世の若いころの俺だって、もてたんだ!
≪そして最後には全員から捨てられました≫
……
飴玉、飴玉~。
いや、今日はせっかくだから王都のお菓子屋さんでサービスしてもらった、生クリームケーキの残りを食べなくちゃ~。
ポーチの中からケーキを取り出してかぶりつくよ。
エグエグ。
ああ、口の中は生クリームで甘いはずなのに、なぜかしょっぱい味がする。
うええっ、鼻水が垂れて口の中にまで入ってるじゃないかー!
どうしてこんなことになってるんだよ~。
ま、そんなことはどうでもいいね。
「ハアアアッ、生クリーム様。僕はあなた様の僕、あまた様の下僕。このまま生クリーム様のお力で、僕のささくれた心を甘く優しくお包みくださいませ~」
そう、僕に生クリーム様のお力がある限り、決してどんな状況でも絶望することはない。
フフン、性根の悪い女どものがなんだって?
そんなもの、今口の中でしっとりと蕩ける生クリーム様に比べれば、ただの案山子も同然よ~。
さーてと、と言うことで、僕たちは魔族が攻めてきた北へ向かって旅立つよ。
旅立つ前には、王都の城門前にたくさんの人が集まってたね。
「勇者様ー」
「どうかお気をつけてー」
「キャー、レオン様よ。超クールなお顔ー」
「レオン様ー」
「レオン様~」
……
……
……
若い子が集まって黄色い声を上げていて、アイドルのサイン会か何かでもしてるのかな?
ワシ、普段12歳って言ってるけど、やっぱり精神年齢を割と喰ってるせいか、最近老眼でよく見えねえや~。耳もよく聞こえねえな~。
≪前世のご主人様は、死ぬ直前まで視力2.0以上だったではないですか≫
そう言えばそうだったね~。
僕って体がデブになってしまったこと以外、血圧も血糖値も正常。視力はPCの前に張り付いてても全く衰えず、耳は遠くで落ちる小銭の音すら聞き逃さない地獄耳だったもんね~。
うん、デブという以外、至って超健康体。
≪あれだけ砂糖ばかり食べてても、太っただけで、血糖値が正常だったのは不思議ですね。それに成人病の類いも、一切なかったですし≫
それは当然でしょう。
何しろ砂糖とは僕の命の源泉、生命の源。
砂糖様によって僕の生命は光り輝き、生きることが出来るのです!
そんな砂糖様であれば、いくら食べても体が悪くなるなんてことは起こりえない。むしろ、より健康体へなっていくのです。
砂糖様万歳~。
あ、そうそう。
ついでに"レオンファンクラブ"とは別枠で、僕の弟子たちも見送りに来てくれてるよ。
「師匠、また珍しい薬剤を探しにいくのですね」
「今度も面白い効果のある素材があるといいですね」
「この前作った化粧水の作り方を早く伝授してください!だからお願いです、旅に行くのはもう数日待ってください!」
相変わらず変なのがいるな~。
一番最初に僕の弟子になった3人組の1人なんだけど、美容にしか興味がないんだよな~。
でも、それって逆に言えば美容だけをひたすら極める専門家ともいえるから、一つの道を徹底して極めるって意味では間違ってないよね~。
ま、僕はこの弟子みたいに異常なまでに美容を追及してないけど~。
「んー、面白そうな薬剤をたくさん見つけたいよね~」
僕は美容を求める弟子以外に、そう言っておいた。
――え、「僕らの会話がおかしい」って?
――「今から魔王軍のいる最前線に向かおうとしてるのに、会話の内容が明後日過ぎる」って?
確かに魔王軍が攻め込んでるところに行くけど、戦うのは勇者様御一行のお仕事で、僕のすることじゃないから。
僕はせいぜいメイン盾であるラインハルト君に頑張ってもらって、後ろの方で薬草採取してるだけだから~。
ラインハルト君の装備だって、そのためにパワーアップしたんだから、まったくもって問題ないね。
そうそう、いつものように荷馬車とポニー軍団も同行させてるから、採取した薬草の運搬態勢もいつも通り抜かりなしだよ。
そんなわけで、僕たちは北の地目指して旅立った。




