46 早いもので1年
前書き
今回から新章になります。
「スバルたちがこの世界に召喚されて、もう1年になるな。てことはスバルも13歳か」
「うん、そうだね~」
「それにしては、全然背が伸びないな」
現在僕はラインハルト君とお話し中。
この国に召喚されてもう1年になるんだけど、いまだに僕たちは日々のんびりした生活を送ってるよ。
といっても、前回の"蜂蜜の森"での一件から、いきなり半年とか時間が進んだわけじゃないから。
ほら、僕の弟子がいきなりアメーバみたいに急増殖して増えたりしたけど、あれって結構な時間があったんだよ。単にその間の時間経過を"略"という文字すら使わずに、すっ飛ばしていただけだから。
なので、"蜂蜜の森"の出来事からは、まだ2週間くらいしか過ぎてないね。
で、この国でダラダラ生活している内に、早いもので1年が経っちゃったわけだ。
「僕は永遠の12歳なのだよ。ラインハルト君」
なんとなく親指と人差し指を顎において、格好をつけてみせる僕。
「身長が延びない言い訳としてはひどいな……」
「チッチッチッ、君は王都警備隊のカタリナ・リニスちゃんを知ってるかい?」
「あ、ああ……あの人か。悪い意味でかなり有名だからな……」
カタリナちゃんのことを持ちだしたら、物凄く気まずそうになるラインハルト君。まあ、あの人って王都一の極悪人って感じで、商人相手にやりたい放題の略奪をはたらいてるものね。
この国の腐敗の象徴みたいなものだよ。
本来山に隠れ住んでいるはずの山賊が、なぜか王都のど真ん中に住み着いて、日夜金品の略奪にいそしんでるって感じだもの。
でも、僕はそんなカタリナちゃんのことがとっても大好きだよ。
だって、この前は僕と一緒においしいお菓子のお店に突撃して、ただでたくさん食べさせてくれたんだ~。
カタリナちゃんはお店の店長さんに「もちろんお代は必要ないわよね?だって、王都で商売やっていたきければ、私に逆らうなんて愚かなことはしないでしょう」って、説得してたし。
そしたらお店の店長さんは、(壊れた)笑顔を浮かべながら、首を縦にブンブン振ってたね。
「わ~い、ただで食べ放題」
「ホホホホホ、殊勝な心掛けよ店長。あっぱれだわ」
あの時のお菓子は、甘くておいしかったな~。
で、その時の話はこれまでとして。
再び僕とラインハルト君の話だ。
「カタリナちゃんは自分のが"三十路"超えて目尻に小じわが出来始めてるのに、それでも健気に"永遠の二十歳"って主張してるでしょ。だから僕も、"永遠の12歳児"なんだ」
「……言ってる意味が分からないんだが?」
「ええーっ、僕の身長が伸びないのも、"自称永遠の12歳児"ってことでいいじゃん!」
僕の言ってる意味を、どうもラインハルト君は理解してないね?
全く困った子だよ。
君だってもう15歳になるだろうに、どうして自称二十歳のおばさんと、自称12歳の子供を理解することが出来ないのかね~。
プンプン。
「まあ僕は背が伸びないけど、ラインハルト君は結構背が伸びたよね~」
「ああ、最近は体の節々がギシギシいってて痛いな」
「おおー、成長期だね~。でもいいかい、君はそれなりに顔がいいから、背が伸びて女の子たちにもてるようになっても、決してレオンみたいな爛れた大人になっちゃいけないぞ」
「……確かに、レオン様は節操がない気が」
「だよね~。あいつ、ほんとになんで殺されずに女4人とベットを一緒にできるんだろ?」
そこでラインハルト君が思い切り目を見開いたよ。
「なっ、なっ、勇者様がそんなことを……」
「あれ、ラインハルト君は知らなかったの?」
「知るも何も、ええっ!……で、でも、英雄色を好むともいうし……」
なんだかラインハルト君の中で、レオンに対するイメージとか信頼ってものが、すごい音を立てて崩れ去ってる気がするな~。
レオンは普段クールぶって口数少ない男だけど、中身は所詮ただのスケベエ男よ。
本能のままに動く淫獣なのだー!
僕は、ポンとラインハルト君の肩に手を置いた。
……どうでもいいけど、僕の身長だと成長期のラインハルト君の肩に手を置くのに、つま先伸ばして背伸びしなきゃ届かなかったよ。
「いいかい。人間なんてものは、一皮二皮剥けば、所詮こんなものだよ」
「スバル、君本当に子供なのか?まるで汚れて擦れきった大人みたいな貫禄があるぞ」
「えへっ、僕は12歳のただのプリティー少年だよ」
とりあえず、あざとく笑っておいたよ~。
さて、こんな僕だけど、最近考えてることがある。
"蜂蜜の森"ではディアブロを呼び出して、その後大量の悪魔軍団が地上に舞い降りてきてしまった。
今ではそこにいた痕跡などまるでなく、影も形なくなっているが、それでもあれは大事件だった。
「フフフ、ヤバイな~。あれだけの軍勢が地上に降りてきたんだから、僕の居場所がばれるのも時間の問題だな~。兄さんに頭をガッと絞められちゃうな~。あああ、僕の命が終わるときが近い!」
そう、僕は命の危険を感じていた。
実は僕には兄さんがいるのだけど、僕は兄さんに見つかったら、確実に大ピンチなのだ。
≪命の危険と言っても、ご主人様が勝手に職務放棄して、休暇とか抜かして逃げ回ってるのが悪いんでしょう≫
うん、そうだよ。
だから僕がここにいるのが見つかったら、休暇は問答無用で終わりだよね~。
そして兄さんに頭をガッとされて、僕は再び元の仕事に戻らなきゃといけなくなる。
ああ、休暇が終われば、労働という名の死が始まってしまうのだ~。
今の僕の心理状態は、平たく言うと、日曜日の夜にしてるご長寿アニメを見ながら、明日からの仕事にげんなりしているようなもの。
ちなみに僕の仕事だけど、それはもう皆分かってるだろうから、今更言うまでもないよね~。




