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43 魂吸収(ソウルドレイン)

 不死者(アンデット)である上に、実体を持たない亡霊(ゴースト)相手に有効なのは"聖"属性魔法だね。

 あるいは、からめ手で"邪"属性魔法を使って、精神を乗っ取って操るって方法もあるね。


 だけどさ、そんなちまちました魔法を、この僕がわざわざ使うはずないでしょう。



 と言うことで、今回僕が取り出しますは……普段ベルトに吊るしている短杖(ヴォンド)

 この短杖(ヴォンド)、僕がこの国に召喚されてから今まで腰に吊るしていただけで、ただの一度も戦闘で使ったことがないんだよね~。


 一応ギルドで"簡易解析魔法"にかかった際、武器としての扱いになっていたね。その時の情報は、『ブラックヴォンド(打撃武器、魔法強化能力なし)』となっていた。

 もちろん"解析鑑定魔法"をこの世界に広めた僕の武器である、ここで表示された情報は完全に隠蔽されたでたらめでしかない。

 "精密解析魔法"を用いた場合には、『短杖(ヴォンド)アキュラ (霊魂吸収・および貯蓄能力あり)』となる。

 一応カテゴリーとしては武器のジャンルに入れているけど、本来は武器じゃない。この短杖(ヴォンド)には黒い宝石のような石がついているよ。で、実はこの黒い宝石、宝石じゃなくて"霊魂吸収液ゾルディアック"っていう黒い液体で、これを次元属性魔法で隔離した空間内に固めて、閉じ込めてるものなんだ。


 "霊魂吸収液ゾルディアック"は周囲を漂う霊魂を吸収して溜めておくことが出来る液体で、僕が作る一部の薬は霊魂を用いて作るものもあるんだ。

 魔力回復系の薬を作成する際には、欠かすことが出来ない必須アイテム。

 まあ、霊魂がアイテムの分類に当てはまるのかは知らないけど~。




 ま、そんな長々とした説明はいいよね。


 僕は"短杖(ヴォンド)アキュラ"を掲げて、

「"霊属性魔法・魂吸収(ソウルドレイン)"」

 を発動させた。


 その途端、不帰の森を漂っていた亡霊(ゴースト)の魂たちが、まるで掃除機に吸い込まれていく、チリや埃のように集まってきて、次々に短杖(ヴォンド)アキュラについている"霊魂吸収液ゾルディアック"の中へ吸い込まれていった。


 まあ掃除機と言っても、たぶんこの森の半分ぐらいは効果が及んでいるから、森の中を彷徨っていた亡霊(ゴースト)の魂が万単位で吸収されたんじゃないかな~。


 ちなみに霊属性魔法っていうのは、"魂"に対しての影響力を持つ聖属性魔法と邪属性魔法の上位互換魔法だよ。

 この霊属性魔法を使えば、死者の魂をいじって腐乱死体(ゾンビ)骸骨(スケルトン)みたいに不死者(アンデット)系の魔物を生み出すことが出来れば、逆にそいつらの魂を浄化して倒すこともできる。

 もっと特別な使い方をすれば、条件はあるものの死者を甦らせることだってできちゃうんだ。


 ちなみに、不死者(アンデット)系に対しての影響力絶大な魔法だけあって、"魂吸収(ソウルドレイン)"の1発で、森の大半の亡霊(ゴースト)は"霊魂吸収液ゾルディアックの中に入っていった。

 一度は入っちゃえばもう亡霊(ゴースト)として活動することができなくなって、完全に無害なただの霊魂になるよ。



「楽勝」

 余裕の勝利宣言だよ。

 お前らの敗因はただ一つ、僕と蜂蜜の前に立ちふさがったことだけだ!


 フフフ、今の僕って決まってるぞ~。



「おい、アイゼルが息をしてないんだが……」

「……ちょ、ちょっと待ってね。"魂吸収(ソウルドレイン)"使った拍子に、アイゼルちゃんの魂まで吸い取っちゃったかも。ア、アハハ~、ラインハルト君の魂までこの中に入ってるや~」


 短杖(ヴォンド)アキュラの中を適当に探ってみれば、ラインハルト君の魂を発見。いやー、驚きだよね。

 生きてる人間の魂まで吸い込んじゃうとか、一体どこのはた迷惑さんだよ。

 こんな危険な魔法をうっかり街中で使えば、50万人の都市が一瞬で壊滅なんて惨事になりかねないぞー。


「シリウス、お前の魔法は冗談抜きで危険だから、ほいほい使うんじゃない」

「は、はい。今回は反省しております」


 僕は項垂れつつも、短杖(ヴォンド)アキュラの中からラインハルト君とアイゼルちゃんの魂を無事に見つけ出すことが出来た。


 あとは、短杖(ヴォンド)アキュラについている黒い宝石……"霊魂吸収液ゾルディアック"の周囲に展開している"次元結界(ディメンションシールド)"を解除。

 "念動"と呼ばれる物体移動の魔法を用いて、"霊魂吸収液ゾルディアック"を動かす。

 それでまずはアイゼルちゃんの全身を包む

 真っ黒な液体に全身が包まれて……うーん、こういう状況ってなんて表現したらいいんだろう。

 別に何かエロい画像と言うわけでもないし、むしろ邪悪な魔王の生贄にでも捧げられているような光景……うーん、それもなんか違う気がするなー。


 ま、どうでもいっか。


 "霊魂吸収液ゾルディアック"に包まれたアイゼルちゃんの体に、僕はアイゼルちゃんの魂を入れ直しておいた。


「ゲホッ、ゴホッ」

 それと同時に咳き込むアイゼルちゃん。

 蘇生は成功だ。


「次はラインハルト君~」

 僕はラインハルト君にも、アイゼルちゃんと同じ処置をした。



 いやー、2人ともちょっとの間だけど体から魂が離れていたなんて、とっても貴重な経験が出来たよね。


≪貴重な体験と言いますが、魂が肉体から離れていた間、2人の肉体は間違いなく"死んでいる状態"でしたよ≫

(せ、せめて"仮死状態"ってことにしておこうよ)

≪いえ、間違いなく"死んでいる状態"でした≫


 ま、まあ、こんなことだってあるよね~。



「ということで問題は何もなし。僕は蜂蜜を目指すので後はよろしく~」



 アイゼルちゃんとラインハルト君のことはレオンにすべて任せて、僕は亡霊(ゴースト)どもの大半が消滅した"蜂蜜の森"の中を突き進んでいった。



≪だから、"不帰の森"ですよ!≫


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