41 金貨色の目をした人たちの集い
弟子たちが大量に集まり、彼らが様々な薬を作るようになってくれた。
僕は彼らが作ってくれた大量の薬を、道具屋のおばあさんに売却。そしておばあさんは仲介業者のごとく、その薬をバウマイスターおじさんに転売。
その後薬は王国の各地で販売され、さらには他国にまで輸出されていくものまである。
つまりこれがどういうことかと言うと、僕が働かなくても弟子たちが金貨の原料を大量にせっせとこしらえてくれるわけですよ。
ムフフッ、現代日本流で言えば、今の僕ってまるで製薬会社を経営している"社長"みたいなポジションだね。
アハハ、働かなくても金貨がたんまり貯まっていくぞ~。
あ、もちろん弟子たちをタダ働きさせているわけじゃないから、出来高に応じてお給金もつけてあげてるよ。
フフ、出来高制の給料で働くのって、馬車馬のように働きまくって成果を出さない限り、薄給で大変なんだよね~。
≪ご主人様、普段ご自分のことをプリティーとか抜かしている顔と完全に違ってますよ≫
おっと、いけないいけない。
鏡はないから、感知魔法を使って自分の顔をチェック。
これはいけないね。まるで金貨に取りつかれた金の亡者のような顔じゃないか。こんな顔を誰かに見られちゃったら、僕のイメージが壊れちゃうよ。
僕はにこっとスマイルを浮かべて、プリティー少年肥田木昴君12歳の顔に戻した。
もっとも、今では僕は金貨を稼ぎまくる一角の大商人に仲間入り。
王都の有力商人たちが集まった席に参加させてもらって、そこで楽しい会話もしてるよ~。
その席には当然この国一番の商人であるバウマイスターおじさんの姿もあるね。あと道具屋のおばあさんって、経営してる店は小さいくせして、最近物凄く金回りがよくなったせいか、当然のようにこの席に参加してるや~。
それと王都の商人じゃないけど、今回は特別参加枠で、以前村人全員が石化した村の村長さんもこの席にいるね。
なんでもここ最近は村で取れた薬草をバウマイスター商会を通じて、王都に大量に卸しているんだって。で、薬草があまりにもたくさん売れるものだから、今では村に薬草御殿なんて呼ばれる、"成金邸宅"が立ち並んでいるんだって。
当然村人1人1人の経済力も向上していて、村長だけでなく村人全員が金の羽振りがかなりよくなっているそうだ。
それでね、この場で交わされてる楽しい会話の内容だけど、
「金の相場を操るから、他の商会はしばらく俺の島に乗り込むんじゃねえぞ」
「てめえが死の商人を気取るのはいいが、だからって鉄の値段はこれ以上負けんぞ。鉄がなけりゃ、武器も防具も作れないだろうが」
「今度我々で協力して、小麦の値段を釣り上げ……そうそう、それぐらい値上げしないと我々の商売もやっていけませんからな」
などなど。
普段街中で販売する物の価格操作とか、互いの縄張り争いの話とか……もう、大商人と言う名の金貨大好き人間の集まりだけあって、喧々諤々の賑やかな会話が繰り広げられてるよ。
「ちなみに僕の所で作ってる"超美肌パック"だけど、供給過多で値崩れしたらイヤダから、これからしばらくは市場にあまり出さないからね」
もちろんながら僕だって金貨に取りつかれている亡者の1人。
大商人たちの価格操作の談合の席で、ちゃんと発言をしてるよ。
「フフフ、皆さん楽しい会話をなさるのもいいけど、もちろん私のことを忘れていないでしょうね」
そして大商人たちが集う席の中、一番の上座に"君臨"しているのは、バウマイスターおじさん。……ではなく、王都の警備隊で中隊長をしているカタリナ・リニスお姉ちゃんだ。
「ハハアー、カタリナ様。王都であなた様に逆らっては商売がやっていけません。これは我らからのほんのささやかな心付でございます」
バウマイスターおじさんが、丸く膨れ上がった袋を手に持って、それをカタリナちゃんに渡す。
カタリナちゃんは遠慮なく受け取って、袋の中身をのぞいた。
うわ~あ。あれって全部金貨なんだろうな~。
カタリナお姉ちゃんの瞳の色が、金貨色にキラキラと光り輝いてるよ。
綺麗な目だね~。
もう、金貨に魂を完全に奪われちゃってる輝きだ~。
「さすがはバウマイスター、よく分かってますね」
「フフフ、カタリナ様のためとあれば、さらなるご用立てとていたしましょう」
「うんうん。ついでに邪魔な商売敵がいたら私に言いなさい。あなたの儲けが減ったら、私の取り分にまで影響するのだから」
「それはもちろんでございます」
揉み手をするバウマイスターおじさん。
なんだか時代劇の中に出てくる、悪代官と越後屋みたいな会話だね~。
「あ、そうだ。僕もカタリナちゃんにこれ上げるね」
ついでなので、僕はカタリナちゃんにポーチから取り出した"超美肌パック"3か月分を贈呈した。
「これは今世間で美肌にいいと噂の"幻のパック"では!?」
「市場だと1つ金貨1枚以上してるみたいだよ~」
カタリナちゃんの金貨色の瞳がバウマイスターおじさんの方を向く。バウマイスターおじさんは頷くことで答えた。
「とっても貴重な物を、こんなにくれるなんてありがとう、スバル君」
「うん、カタリナお姉ちゃん。目尻に小じわも増えてるもんね」
――ピタッ
その瞬間、それまで喧々諤々と賑やかに話し合っていた商人たちが、一斉に声を出すのを辞めた。
そして訪れる静寂。
「い、嫌ね。何を言ってるの?私はまだ二十歳だから、小じわなんてあるわけないじゃない。フフフフ」
笑う、カタリナちゃん。でも周囲にいる商人さんたちは全員顔を真っ青にして、カタリナちゃんを黙って見ているよ。
うんうん、僕だって分かってるって。
カタリナちゃんは"自称二十歳"を主張しているだけの、実際には30過ぎてるおばさんだってことぐらい。
人間誰だって、現実逃避のひとつやふたつして生きてるってことぐらい、僕はちゃーんと知っていますって。
≪確かにご主人様は、存在自体が現実逃避そのものみたいな人間ですからね≫
だよね~。
ま、そう言うスピカだって、僕の一部なんだから現実逃避そのものだよね~。
≪……≫
あ、スピカの心に何かがグサッて刺さった音がしたぞ。
愚か者めが、いつもいつも僕をこけ降ろしに来ているが、僕だって反撃できるんだぞ~。
やーいやーい、この妄想人間やーい。
あれ、でもスピカって人間に分類していいのかな~?
ま、それはそれとして。
「僕は"永遠の12歳"。そしてカタリナちゃんは"未来永劫の二十歳"。そのためには、常に努力を怠っちゃいけないんだよ」
「フ、フフ。そうよね、私はいつまでたっても"二十歳"だから、そのために努力するのは当然の事よね」
僕たちは非常にフィーリングが合う存在なのだ。
僕が力づけるように言うと、カタリナちゃんはコクリと頷いた。
「そ、そうです。カタリナさまはお若いですぞ」
「そうそう、うら若い乙女ですからな」
「うちの息子の嫁に来てもらいたいぐらいのうら若い乙女ですな」
集まっている商人たちがお追従を言っていくと、カタリナちゃんは笑顔になって。ホホホと笑い声を上げた。
「スバル、あなた一体何者なの!?」
「だから僕は"永遠の12歳"だよ。そしてカタリナちゃんは"永遠の二十歳"。それだけのことでしょう」
僕とカタリナちゃんは2人そろって笑い声を漏らした。
なんだろう。カタリナちゃんを見ていると、本当に他人のように思えなくなっちゃうな~。
ついでにカタリナちゃんの方も、僕のことを同じような目で見ているね~。
"魂の友"って奴だね。




