40 現代の"英知の賢者様"王宮へ行く
「「「大先生」」」
「「「お師匠様」」」
「「「賢者様」」」
"旧アイゼルバーグ邸"の隣に作った薬の研究所だけど、そこでは僕の弟子たちがたくさんひしめいていてた。
商人のバウマイスターおじさんを通じて、僕の作った薬がクライネル王国はもとより近隣諸国にまで売り出されていて、その薬効が素晴らしいと話題になっていた。で、それを作ったのが僕だと分かって、その後もたくさんの弟子たちが僕の元に集まってきたんだよ。
ほら、僕ってプリティーアイドル系儚い美少年だけど、頭脳は天才薬師だから仕方ないよね。
だから天才ゆえにそこに惹かれてくる弟子たちがいるのだって、当然のことだよね。
≪……≫
スピカさんの言いたいことなど知らぬ!
「よ、世も末ですわ。こんな訳の分からないガキを妄信している狂信者どもが、こんなにも溢れているなんて……」
勇者御一行さんパ―ティーの拠点が、僕の薬の研究所の隣にあるから、アイゼルちゃんが集まっている弟子たちを見て、顔を真っ青にしてたね。
なんでそんな顔をするのかな?
僕って、天才なのよ?
そして弟子の中には、別の国の王宮で主席薬剤師を務めていたっていう、凄腕の経歴を持った薬師だっているんだよ。
あと、なんか若返りの薬を作ったなんて豪語している人だっているよ。ま、こっちのほうは完全に口から出まかせで、単なる小麦粉の粉を固めて焼いただけの、ボーロみたいお菓子だったね。
甘くはないけど、小腹が空いてるときに食べると、ちょっといいかもしれないね~。
……でも、これを薬と呼んでいいのかな~?
まあ、おいしかったからいいけど。
あとは毒草の研究に没頭しまくって、今ではどんな猛毒を身体に打ち込まれても、全く効果がなくてピンピンしてる、なんて子もいたな~。
でも普通これくらいのことはしないと、天才薬剤師への道にはたどり着けないから、この程度のことをやるなんて当たり前だよね~。
僕だって毒キノコとか毒草を食べて、1週間森で意識不明って経験を何度もしてるし~。
でも毒草は大丈夫なくせして、太陽の光を見ると「いやああっ、体が干からびれる」なんて叫んでたけど。
もしかしてあの子、吸血鬼か何かの末裔かしら?
まあ、僕の弟子が人間じゃなくても問題ないけど。
ちなみにアイゼルちゃんは眩暈を起こしてよろめいていたけど、そんなことは僕の知ったこっちちゃない。
僕は弟子たちと共に研究所に入り、弟子たちの育成に励みつつ、一方では新薬の開発なども手掛けていく。
「ここでガッとやって。ホアチャチャチャチャと連打して、それからレバーを上にグッと押し込む感じで魔力を振りかけて……」
ちなみに今は、その辺に生えてる雑草レベルの薬草から、腹痛を驚異的なレベルで押さえることができる薬の作り方を、弟子たちの前で実際にやりながら説明してるよ。
――えっ「お前の説明が高度過ぎて訳が分からん」だって?
あったりまえだよ。僕のレベルに立ちたいなら、これぐらいのこと理解できないと話にならないよ。
あ、ちなみにお前の説明は『格ゲー』のやり方でも教えてるんじゃないかって尋ねられたら……フフフ、前世では一時期格ゲー界の"東方無敗"と呼ばれたことすらあるんだから、舐めてもらっちゃ困るね。
≪薬を作る才能と、教える才能はイコールではないので仕方ないです≫
うんうん、スピカさんだってこう言ってるんだから、当然だよね。
それとこれだけ弟子が増えたおかげで、僕が直接薬を作らなくても優秀な弟子たちが、それなりに効果の高い薬をたくさん量産してくれるようになったよ。
僕が作ると品質が最低でも"伝説級"になるけど、弟子たちだってなかなか優秀だよ。
「薬剤の作成時に適切な魔力を与えることで、素材に変化を生み出すのですな」
僕の弟子の中でも一番優秀なのは、王宮の元主席薬剤師だった弟子。仙人みたいな白い髭を、お腹のあたりにまで伸ばしちゃってるほど高齢だね。
で、僕の薬の作り方を子細に観察して、技を盗んでいったね。
今では、品質が"国宝級"の薬を作れるくらいになってるよ。
ちなみに"国宝級"っていうのは、"伝説級"の一つ下。
まあ、"国宝級"にしても"伝説級"にしても、"精密解析鑑定"を使わないと出てこない品質なんだよね。
ちなみに、品質の分類に関しては次のようになってるよ。
粗悪、低品質、中品質(普通)、高品質、最高級、国宝級、伝説級、神級。
そして世間一般に普及している"解析鑑定魔法"では、品質が"最高級"までしか出てこないんだ。
国宝級まで作れるんだら、本当に優れた弟子だよね~。
ただ老い先長くなさそうだから、薬の道を究める前に寿命が来ちゃいそうなのが残念だね~。
そんなある日、僕の研究所に王宮からの使いがやってきたよ。
ただの兵士でなく、結構立派な服装をした官僚で、おまけに兵士の隊列まで従えていたよ。
「ここに高名な薬師であり、現代の"英知の賢者"と呼ばれているお方がいると聞いた。国王陛下が直々にお会いしたいとのことである」
つまり、あの国王が僕に会いたいんだってさ。
フフフ、これでとうとう僕の存在をあの国王も無視することが出来なくなるだろう。
べ、別に無視され続けてるのが悲しいわけじゃないからね。
僕だって、やればできる子なんだって、あの国王に認めさせてやるだけなんだから。
≪それって、やってもできない子の台詞じゃないですか≫
ひーん、スピカがいじめる~。
≪最もご主人様の場合は、やればできる子ですが、普段の行いが全てをダメにしてるだけですが……≫
そ、そうなの?
じゃあもっと偉そうにふんぞり返った態度とか取っていた方が、存在感があっていいのかな~?
≪それはそれでお勧めできませんね≫
そんなことを話しつつ、僕は弟子を何人か同行して王宮へ向かったよ。
うむ、やっぱり"できる人間"であることをアピールするためには自分1人じゃなくて、弟子たちもたくさん引き連れて行かないとね。
僕の後ろに何人も弟子を並ばせちゃえば、それだけで僕の存在感も増し増しってものよ~。
ウフフのフ~。
……の、はずだったんだ。
「おお、まさかエッセンバッファー老師が、現代の"叡知の賢者"だったとは」
「ですがこれは納得だ。あなたのお名前は我が国にまで轟いておりますぞ」
国王と大臣の奴がね、揃いも揃って僕の"弟子"を持ち上げまくってる。
ちなみにエッセンバッファー老師っていうのは、僕の弟子たちの中で一番優れている、例の仙人みたいなお爺ちゃんの事。
この人もともと優秀だったけど、僕の所に来てさらに腕を上げたよ。
だから実力は認める。
「僕には到底及ばぬが、そなたはもはや凡夫の如き才能が及ばぬ域に達した天才薬師である」
なんて褒めてあげたいね。
「いや、私は賢者などではなく、わが師であるスバル様が……」
弟子のエッセンバッファーおじいちゃんもちゃんと理解しているから、国王たちの勘違いを正そうとする。
「ハハハ、老師は謙遜なさるか。だが、自らが名乗らずとも、世間が老師のことを賢者と呼ぶのは仕方のないことでもあろう」
……エッセンバッファーは年を取ってるものだから、あまり声が大きくないし、早口でしゃべれない。僕のことを必死で伝えようとしているのに、国王どもはそれを全く聞こうとしない。
で、他にも僕の弟子たちはいるのだけど、全員王宮に来たのなんて初めて。
まして国王に直接目通りが出来たのだって、これが人生で初めてって連中しかいない。
彼らは王宮の絢爛豪華さに心奪われ、一般庶民である彼らからすれば雲上人といっていい国王や大臣がいるこの場所では、完全に委縮してしまい自分から声を上げることさえできずにいた。
……いや、中には周囲をきょろきょろと見て回って、全くこの場所で話していることに興味を持っていない奴もいるな。
それにお前。なんで立ったまま居眠りしてるんだよ!っていうかお前っていつも夜しか活動しないで、太陽が昇ると同時に眠るよな。どういう生活習慣してるんだ!?
現代日本の生活習慣病患者か?
「あの、私たちの師匠はエッセンバッファー老師でなく、スバル様ですが」
あ、中にはちゃんと物怖じしない弟子もいたね。
基本的に僕の弟子どもって、薬バカの奇人変人ダメ人間の集まりだから、地位だの身分だのが理解できない子もいるんだよね。
でも、今回はそれが役に立ったね。ワッホ~イ。
ただね、僕が師匠だと聞いた瞬間、国王と大臣が機能停止したロボットのように一瞬固まったよ。
「エッセンバッファー老師には、これからも我が国の発展のためにも、ぜひとも頑張っていただきたいですな。ハハハハ」
そして、奴らは完全にいまのセリフを無視。いや、無視したのは僕の存在そのものか?
そんな感じで人の話を聞かない。アンド僕の存在を最初から最後まで無視。
結局エッセンバッファー老師を持ち上げ続け、国王との謁見は終了した。
「も、申し訳ございませぬ、お師匠様」
「ぜ、全然気にしてないし。む、むしろあんな人たちに僕の天才ぶりが分かるわけないよね~」
エッセンバッファー老師は項垂れて僕に謝ってきたけど。
そ、そうだよ。僕は全然気にしてないから大丈夫。ちっとも、へっちゃらだよ~。
――グスンッ
「ししょ~、鼻水出てるよ~」
……舌ったらずな弟子の1人が何か言ってるな~~~。




