38 番外編・カタリナ様
前書き
今回は新キャラの視点です。
「おーっ、ほっほっほっほっほっほっ」
私の名前はカタリナ・リニス。
クライネル王国の王都警備隊で中隊を率いる、若くて才知に溢れて、おまけに美貌まで兼ね備えた乙女よ。
人は私のことを、
「ゲエエェェッッ、守備隊のカタリナ・リニス!や、やろめ、金なら出す。出すから頼む、うちの商品を略奪するのだけはやめてくれ!」
あら、王都でちょっと懐が豊かな商人の所に来たのだけど、そこの商人が何か喚いているわね。
「ホホホ、やかましい男ね。あんた先月のみかじめ料を私に納めなかったでしょう。てことで、あんたは罪人。そうね、罪状はとりあえず本来国に治めるべき税を軽くみつもって脱税をはかった罪ね」
「バ、バカな。私は今年の税金はきちんと納めたぞ」
「チッチッチッ、誰が今年って言ったのよ。3年前に私に賄賂を贈って税金を値切ったのを忘れたんじゃないでしょうね?ってことで、あんたは極悪商人に決定。さあ部下たち、この不埒な商人の財産を直ちに差し押さえるのよ!」
「「「ハハッ、カタリナ様!」」」
私の部下である3人の小隊長が声を上げ、それぞれが兵士を率いて商人の家へと押し入っていく。
「や、やめろー。そ、それにだたかが脱税だけで財産の全てを差し押さえられるわけが……」
「あら、それじゃあついでに"公務執行妨害"に、"国家反逆罪"なんてのもサービスしましょう」
「こ、国家反逆罪……」
"国家反逆罪"っていえば、一族全てが死罪になる、とーっても重たい罪なのよね。
この際死罪になった一族の財産は全て差し押さえられて、国に取り上げられることになっているの。もっとも、その際現場を指揮した私が、少しだけお金を頂戴するけどね。
でも大丈夫。
ちょっとちょろまかしたぐらいじゃ、国にはばれないから。
それに、私ってできる女だから、ちゃんと上司に"上納金"を上げてるのよね。
ウフフ、上司も私の仲間だから、何かあっても問題は全て揉み消される仕組み。
「い、いくら何でも国家反逆罪なんてありえない!そりゃ、私もあまり人に言えないことに手を染めたりもしたが、それでもそこまでは……・」
「フフフ、何を言ってるの?私はこの王都で警備隊を率いる中隊長様なのよ。お前ごとき木っ端商人の罪状を好きに"偽造""ねつ造"することなんてお茶の子さいさい。
そうよね、トリス?」
「はい、カタリナ様のおっしゃる通りです」
「うむうむ、よろしい」
トリスっていうのは、私の中隊の頭脳役の事よ。
黒髪黒目の、一見するとクールで知的な印象を抱かせる男。
「フフフ、いい子ね、トリス」
「カタリナ様、できればご褒美の方を」
「全く、あんたって見た目はまともそうなのに、本当に"気持ち悪い奴"ね」
私が気持ち悪いって言ったら、なんかトリスの目が怪しく輝いたわよ。
「ありがとうございます」
なにがいいのか知らないけど、私も世の中には知りたくない世界ってのがあるから、これ以上は気にしないでおきましょう。
「ヤ、やめろー。死にたくない、反逆罪なんていやだー」
「ていっ」
なんか商人が喚いているけど、うるさいので私は奴の顔面に拳をお見舞いしてやった。
あらやーね。
ちょっと小突いただけなのに、貧弱な商人は5メートルほど吹っ飛んで、そのまま地面に転がったわよ。なぜか顔面が思い切りへこんでいるわね。
ノストフィーネ山脈に生息している岩石魔人って魔物は、かなり腕力があるって話だけど、まるでその岩石魔人に殴られたかのような顔になってるわ。
……いえ、それよりもっとへこんでるかしら?
全く、男のくせに弱すぎよ。
そのまま商人はぐったりと身動きを取らなくなってしまった。
まあ大丈夫、私も鬼じゃないからちゃんと手加減はしておいたから。単に気絶しているだけよ。
……たぶん。
「う、羨ましい」
そんなことより、ハンスの奴が気絶した商人を見ながらなんか言ってるわよ。
ハンスっていうのは30過ぎたこげ茶色の髪と目をしている私の部下。ちょい悪親父って感じの風貌で、黙ってさえいれば見た目はそこそこダンディーなんだけどね。
「ハヒヒヒィィッッ」
ついでにもう一人。小隊長のデービットが呻いているわね。ただ、顔を真っ青にしてるんじゃなくて、その逆で興奮したように真っ赤に染めている。
こいつデブの大男で、特注品の鎧を着てるの。特注って言っても別に鎧が頑丈ってわけじゃなくて、単に体が横にデカいせいで、普通の鎧じゃ体が入らないのよ。
見苦しい男なのに、その見苦しさがさらにプラスされて、赤くした顔になぜか鼻息まで荒くしている。
「むさ苦しい顔で、興奮するんじゃない!」
――ドゴンッ
ちょっとむかついちゃったから、裏拳でデービットの腹を殴りつけたわ。
ん、何か変な音がしたわね。
殴ったデービットの鎧がへこんだけれど、紙でできてるのかしら?全く、特注品のくせして、強度がまるで足りてないじゃない。
「ハヒン、幸せ」
ただ、殴られたデービットはそう言った後、白目になってその場に倒れたわ。
「デービット、お前はこの隊一の果報者だな」
そしてハンスが倒れたデービットを介抱しながら、羨ましそうな声で言う。
「ッタク。どうして私の部下どもは、どいつもこいつもこんなのばっかりなの!ほらさぼってないで、とっとと略奪を終わらせなさい」
――ゲシリッ
ついでだからハンスの顔面にも蹴りを入れてやった。
「うおおおっ、俺隊長にどこまでもついていきやす!」
「さっさと働け!」
全く、私って薄幸なのかしら?
こんなバカな男どもがいる中隊を率いて行かなきゃいけないんだから。
「ちょっとそこ。金貨の入った箱の一つは私の取り分だから、国に納めちゃダメよ!」
全く、油断も隙もあったものじゃない。
部下の1人が真面目に、金貨の詰まった箱を国に納めようとしてるじゃない。あれは私の取り分にするのよ。
この私のものだから、国に回してやるわけがないじゃない!
ああ、それにしても最高よね。
警備隊の兵士がやる事って、"正義"なの。
こうやって職権乱用して、罪をねつ造偽造しても、それは全て"正しい"ことなの。
だから、誰からも訴えられることはない。
いいえ、"正義"とはそんなものじゃない。
"正義"とは、この私が行う全ての行動を言うのよ。
「ホホホホホ」
私は金貨の詰まった箱の中身を見て、哄笑を轟かせた。
あ、ついでだけど、今回この商人に罪をかぶせたのは、バウマイスターっていう王都随一の商人から頼まれたって依頼だった、てのもあるわ。
バウマイスターはよくわかっている男だから、毎月私の為にせっせと献金をしてくれてね。たまに自分に都合の悪い商人を潰してほしいなんて、私に頼んでくることがあるの。
その時にはもちろん『黄金色をしたお菓子』を私に持ってきてくれるわ。
ちゃんと礼儀をわきまえてる男よね。
バウマイスターの"黄金色のお菓子"に、さらには目的の商人の財産の没収。もちろん、没収した一部は国ではなく私の懐へ。
もう、これだから警備隊の兵士ってやめられないわ。
今日も私の懐は真夏の太陽のように暖かね~。




