2 異世界に召喚されました。僕は無実です。
「異世界より召喚された勇者様方、ようこそこの世界においでくださいました」
とりあえずここがどこか確認しよう。
そう結論づけた僕と青髪男だったが、そんな僕たちの前に白い装束を纏った女性たちが次々に現れた。
全部で10人以上。
なんだか神殿に仕える巫女と言った感じの衣装かな?
衣装自体は白一色で目立った主張がなく、非常に質素で地味だ。
だが、そんな中で白い衣装に金糸の刺繍が施された、質素な衣装にしては、やや豪華に思える衣装に身を包んだ女性が、一同を代表するように語り掛けてきた。
「異世界、勇者?」
女性の言葉に青髪男が胡乱げな態度で答える。
「すごいねー、今日から僕たち異世界ラノベ勇者様だよ」
僕は能天気に、女性の言葉にそう答えた。
――ベシッ
直後、僕の脳天に、青髪男がチョップをしてきた。
「ひ、ひどい。ボクの叡知に溢れる脳細胞が死滅したらどうするんだ。バカになっちゃったら大変なんだからね!」
「やかましい。お前の頭に詰まってるのは、叡知なんて立派な物じゃなくて、砂糖でできた甘々の能天気頭脳だろう」
「ひ、ひどい。僕のこと全否定してない……うっ、ううっ」
あまりの青髪男の暴言に、僕の目の端からつい涙がこぼれてしまいそう。
「ううううっ、そういえば飴玉があるんだったー」
このまま嘘泣きしようと思ったけど、それよりもコートのポケットに飴玉を入れているのを思い出した。
「よかったー。砂糖でできた能天気ヘッドって言われなかったら、飴玉のことをすっかり忘れてたよ~。モゴモゴ」
ついさっきまでの落ち込みなんて何のその、僕は全てをきれいさっぱり過去の出来事として忘れ去った。
あ、ちなみに僕は黒いロングコート着てるんだ。裾が足元にまで届く、ものすごく長いロングコートで、『ザ・黒衣の二病患者臭』が常時展開されている二病衣装。
コートの下に来ているシャツもズボンも黒一色だから、二病レベルは"治癒不可能"。もはや現実と妄想の区別がつかない、治癒の見込みは完全になしってぐらいのレベルだね~。
でも、ロングコートにはポケットがたくさんついていて、その中にいろんなものをたくさん仕舞えるからとても便利だよ。
あと、足の太ももに巻き付けてるポーチもあって、ここにもたくさんのものが収納できて超便利。
エヘッ。
「あ、そうだ。せっかくだから、飴玉あげるね~」
ついでで僕は、自分の分だけでなく、青髪男にも飴玉をあげることにした。
「いらん」
「ええっ、僕がせっかく上げるって言ってるのに……"食え!"」
長身で常に僕を見下ろしてくる青髪男に、僕は少しだけ視線を鋭くして命令……コホン、お願いした。
それをどう受け取ったのか知らないが、青髪男は僅かにヴッとうめき声を上げた。だが、表情は眉一つ動かさなかったのはさすがだ。
僕のグレートでエクセレントな、殺気を込めた視線に怖気づかないとはただ者じゃないねー。
(え、グレートとかエクセレントとか、お前の表現古すぎるだろうって?昭和生まれをバカにするなー!)
とはいえ、僕の命令で黙って飴玉を受け取ってなめる青髪男。
――ガリッ、ゴリゴリ、ゴクン。
「ひ、ひどい!甘さも楽しむことなく飲み込むなんて、まともな奴がすることじゃないよ」
「ふんっ」
せっかくの飴玉をかみ砕いてあっさりと飲み込みやがった青髪男。許すまじ。
僕はこの理不尽極まりない極悪行為を訴えてやろうと、この場に現れた女性たちへと視線を向けた。
こういう時は頭の中で玉ねぎのみじん切りを思い浮かべながら、年上の女の子の瞳を眺めるといいんだよね。
それだけで、"チョロイ女の子"が僕の味方になってくれるはず~。
というか、周りにいる女の人たちって、全員僕たちの暢気なやり取りに完全に呆れ果てていて、黙り込んじゃってない?
最初に語り掛けてきた女の人も、「異世界がなんとかかんとか」って言ったっきり、完全にフリーズして固まっちゃってるし。
ブーブー、ひどいなー。そんなに呆れることないでしよう。
僕は少し抗議するように、呆れ果てている女性たち――その中の代表らしき女性――に、頬を膨らませながら抗議の視線を向けた。
「?」
あれっ、なんでだろう。顔に玉のような汗を浮かべて、目が物凄い驚愕に見開かれているけど。
や、やだなー。
僕の並々ならぬカリスマ性にやられちゃったのかなー。
アハハハ~。
≪ご主人様、あの女性は"解析鑑定魔法"を使用しています≫
あ、頭の中の脳内妖精さん。そうなんだ、"解析鑑定魔法"ね。
へー、なるほど~。
……
……
……
え゛っ!
≪ご主人様と、レオン・アキヅキのステータスが閲覧されています。そのためマイロードとレオンの正体が……≫
それ、ヤバイじゃん!
ここにいるのって、全員"普通の人間"だよね。
≪はい、この周囲にいる生物は、小動物を除けば全て人間です≫
あ、それはヤバいね。
うーん、と。
こういう時は仕方がない。
僕は頭の中ですぐに考えをまとめると、驚愕した目で僕と青髪男を見ている女性にニッコリと微笑みかけた。
「キャ、ギャアアアー!」
直後、僕の愛らしい微笑みに心を貫かれてしまった女性が、この世のものとも思えない悲鳴を上げた。
別に僕の目からレーザーが飛び出して、彼女の心を物理的に貫いたわけじゃないからね。ただ、笑って見つめ返しただけだからね~。
「……お前、今何かしただろう」
「ただ笑ってあげただけなのに、おかしいなー」
「……どうだか」
失敬な奴め。青髪男改めレオンの奴が、僕の耳元でそんなことを囁いてきやがった。
周囲の人間に聞こえないように、わざわざそんなことまでしやがって。
≪ご主人様、短期間の"記憶改編"と視力はくだ……≫
僕は何もしてないもん!
おのれ。レオンだけでなく、僕の脳内に住み着いている妖精さんまでもが、僕が何かしでかしたと疑っているようだけど、僕は何もしてないもんね!
――僕は、僕が何もしていないと信じてる!
僕がそう思っているのに、なのに妖精さんとレオンは2人とも、僕が間違いなく、あの女性にただ事でないことをしでかしたと確信していた。
もう。僕、本当に、ただ笑って見つめてあげただけなのに~!プンプン。
とりあえず、あざとさ満点で僕は頬を膨らませ、不機嫌な"ふり"をした。