37 短剣
「ムフフフフ、このたびスバル殿よりいただきました短剣を国王陛下に献上したところ、大変素晴らしいと感動なさりまして、お褒めに預かることができました。おかげで我が商会が王宮に納入する物品の量が以前よりさらに増えましてな」
「エヘヘヘヘ~、つまりますます大金が転がり込むようになったってことだね~」
「フフフ、これでますます私たちの懐がずっしりと重くなっていくんだね」
ここは王都にある高級料屋の最上階にある特等室。
部屋にいるのは僕と道具屋のお婆さん。そしてこの国随一の商人バウマイスターさんだ。
僕たち3人は美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、目は金貨色に光り輝かせて、楽しく食事をしている。
「国王陛下は3本の短剣を痛く気に入られまして、あれを3人の王女様に下賜なさいました」
「うんうん、それはよかった。僕の計画通りだよ~」
ちなみにこの話で出てきている短剣は、僕がドワーフの里の鍛冶師ドルゼンの所からもらってきた短剣のことだ。
金銀宝石で装飾された、貴族や王族が飾りとして持つことを前提に作られた豪華極まりない短剣。しかも単なる飾りとして見栄えがいいだけでなく、魔法の効果が付与され、切れ味まで強化されている代物だ。
これで女たちのドロドロ展開の行きつく果て、レオンの末路がどんなものになるかが分かるってものだよね~。
「なお、貴族のブラウ家にも、残った1本を後日納入する予定となっています」
「うんうん、よろしくね、バウマイスターさん」
ブラウ家は、アイゼルちゃんの実家のことだよ。
これもドルゼンの所から持ってきた短剣だから、この王国で出回っているなまくら剣などとは一線を画した切れ味を誇ってる。
王女3人姉妹に貴族令嬢のアイゼルちゃん。
この4人を垂らしこんでいる不埒な男レオンの行く末は、もはや風前の灯って奴だね。
……まあ、今のところなぜかあいつは4人のドロドロ女の修羅場にいながら、その被害を全く受けていないという、稀有な才能の持ち主だけど。
しかし彼女たちの手に鋭い刃がいきわたった以上(まあ、アイゼルちゃんの手元に届くのだけはもう少し時間がかかるだろうけど)、もはやその未来がどうなってしまうかが、僕の目にははっきりと映っているけどね~。
あ、ちなみにあの短剣を王宮とブラウ家に納入してもらう見返りに、僕は良質な鉄をバウマイスターおじさんの商会に若干量提供したよ。
これはポーチの中に放置してたゴミだったから、僕の懐は別に痛くもかゆくもないね。
「このように良質な鉄は初めて見ましたぞ」
「この国の製鉄技術って味噌っかすレベルだから仕方ないよね~」
「スバル殿。薬だけではなく、このようなものまで用意できるとは。このバウマイスターあなたと知り合えた幸運に感謝しますぞ」
バウマイスターおじさんも大喜びで何よりだよね。
まあ、鉄に関しては道具屋のおばあさんにはなんの利益もなかったので、興味なさそうに僕たちの様子を見てたけどね。
「ところでバウマイスターよ」
「なんですかな?」
食事も終わって、甘いデザートも堪能。その後おばあさんがバウマイスターおじさんに話しかけたよ。
「お前さん元々この国では随一の商人だったが、最近ちと商売の手を広げ過ぎでないか?」
「僕の薬に、王宮。今度は鉄にも手を出したってことは、武器とか防具も売っていくのかな~?」
「フフフ、スバル殿は鋭いですな」
ニヤリと笑うバウマイスターさん。
「じゃが、あまり手を広げ過ぎては商売敵から恨まれよう。わざわざ孫を嫁がせたのじゃから、あまり無理はするでないぞ」
「ムハハ。おばあさま、そのことなら抜かりないのでご安心を」
ニヤリと笑うバウマイスターおじさんは、超余裕って感じの笑みだね。
それにしても人っていうのは成功したが妬ましい、恨めしいなんて感情を抱く生き物で、特にそれが商売で大儲けできるような場合だと、同業者を敵にしちゃうことが多いよね~。
この例えじゃわかりにくいか?
つまり成功している奴への妬みっていうのはね……「レオンのリア充野郎吹き飛びやがれ!」。ってことだね。
なんであいつはもてるだけでなく、女のドロドロの恨みに未だに捕まらないんだ?
なぜだ!
なぜなんだ!
世の中不公平すぎるだろう!
そう、世の中にはこういう嫉妬や妬みがたくさんあるんだ!
「バウマイスターおじさん、気を付けてね。おじさんに何かあったら、僕の取り分が減っちゃうから」
僕も道具屋のおばさんと同じで、バウマイスターおじさんを心配した。




