36 プレゼント
「ラインハルト君、プレゼントだよ~」
クライネル王国に無事に戻ってきた僕は、ドルゼンに作ってもらった鎧をもってラインハルト君の所へ行った。
「プ、プレゼントって、なんだかすごい鎧じゃないか!」
ドルゼンが作ってくれた白狼王宮石は、一目見ただけでも高級感漂う上に、明らかに普通でない逸品だ。
「どこでこんなものを手に入れたんだ」
「えへへ~、ちょこっと僕の知り合いに頼んで作ってもらったんだ~」
「知り合い?」
「そうそう、僕のお友達~」
僕はそれだけ答える。
普段であれば訝しがられただろうけど、今のラインハルト君の目は、僕が持ってきた鎧に釘付けになっている。
明らかな名品だものね~。
「触ってみてもいいかな?」
「もちろん。っていうか、ラインハルト君が着ていいんだよ」
ラインハルト君がゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえたよ。
すごく興奮してるね~。
「不思議だ。暖かくも冷たくもない。それに石なのか金属なのかもわからない素材でできてる」
うんうん。白狼王宮石って一応分類では"石"なのだけど、頑丈さでは鉄を上回る物質なんだよね。
つまりこれは地球で言うところの、某劇場版アニメに登場した"天空の城"から落ちてきた"ロボット兵"と同じなのだよ。
あのアニメに出てきた特務の大佐なんて、「この体が金属なのか、粘土なのか、それすら我々の科学力ではわからないんだ」って言ってたし。
それと同じで、白狼王宮石は金属か、石なのか、それすらラインハルト君の目では分からないんだ。
あ、ちなみに僕の"精密解析鑑定魔法"を使うと『鉱物』のジャンルに分類されてるね。金属か石って問題には、明確な回答を出してくれないや。
構成物質の詳しいデータも出てくるんだけど、ぶっちゃけ僕は薬の専門的な成分は理解できても、鉱物の構成物質には詳しくないから、目が点になるしかないね。
そうしている間に、ラインハルト君は鎧を受け取ってるよ。
「すごく軽い」
「それは魔法が付加されてるからだよ。軽量化に、耐久性の向上、物理・魔法防御も底上げされてるね~」
「エ、付加だって!魔法が付加された装備なんて、この国では貴族だって用意できないような代物だよ!」
「あ、そういやこの国ってド貧乏だから、付加がついた装備だけで伝説扱いされるんだったね。僕たちが召喚された日に国王がだしたあの剣も、付加がついてるだけで"伝説の剣"とかってのたまってたっけ」
僕が物凄くこの国をこき下ろしているようにラインハルト君は感じたらしい。
実際、僕この国は全く大したことがない辺境のド貧乏国としか思ってないから、その通りだけどね~。
そんなわけでラインハルト君は、複雑そうな表情をしてたけど、
「着てみてもいいかな?」
「だって、そのためのプレゼントなんだよ」
鎧への誘惑が勝った。
ラインハルト君はこの国の近衛兵の標準装備である革製の鎧を脱いで、代わりに白狼王宮石の鎧を装備した。
んー、ラインハルト君って金髪碧眼で顔もそこまで悪くないから、白銀色の鎧を身に纏うとかなり絵になるね~。
ま、レオンなんて、その場にいるだけで周囲の女の子が勝手に吸い付いて来るような奴だから、あれと比べたら全然大したことないけど。いわば磁石を砂場に放り込んだら、勝手に砂鉄が吸い付くみたいなもの。自然の摂理、自然法則って言っていいレベルだね。
ま、僕の前世も、若い頃はそんな感じだったからね~。
フハハハ、僕は前世ではもてない男ではなかったのだよ。
ただし、30過ぎてデブになる前の話だけどな!
「すごい、まるで羽のようだ」
そんな間に、ラインハルト君は鎧の装着が完了。
「いや、さすがに羽ってのはないでしょう」
「それでも、見た目の割りに体にぴったりフィットしていて、関節も驚くほど動かしやすしい」
「フフフ、何しろオーダーメイドの逸品だからね」
さすがはドワーフの鍛冶師ドルゼン。すばらしい腕前じゃないか。
「でも、一体どれだけの金を積んだらこんな鎧が。いや、そもそも金で買えるものなのか」
「ノンノン、そんな小さなことは気にしなくていいよ~」
実際、僕の秘密基地に捨ててあった元ゴミが材料だもんね~。
いや、ゴミとはいえ、素材自体はかなりレアなんだけど。でも、いくらレアでも、使わなけりゃただのタンスの肥やし、ゴミとイコールの扱いになってしまうのは仕方がない。
「スバル、ありがとう」
「ううん、いいのいいの。だから戦闘では僕のメイン盾として、これまで以上に敵の攻撃を受け止めてね」
僕がにこっと笑ったら、なぜかラインハルト君が口の端を微妙に引きつらせたね。
「ぼ、僕は盾なのか!」
「そうだよ~」
全く否定せず、僕は笑顔で頷いた。
それにね、ラインハルト君が僕の盾になってくれないと、僕が戦わないといけないじゃん。
次元魔法で空間事破壊すれば周囲に被害が出ないんだけど、僕がそれ以外で使える攻撃魔法って、全部範囲攻撃なんだよね~。
ちょこーーーーーーーーーとばかし、火力過多すぎるんだよね。
そんなもの普通の人間の前で使ったら、僕の正体をマジで疑われちゃうよね~。
ほら、僕って"肥田木昴"としてはこの世界で有名じゃないけど、本名の"シリウス・アークトゥルス"の方は、僕でもビックリするぐらい有名みたいなんだよね~。
――ファイト、メイン盾。
僕は顔を引き攣らせているラインハルト君の雄姿を眺めつつ、心の中でこれからの活躍を応援した。
ところで、僕がラインハルト君に白狼王宮石の鎧をプレゼントしたわけだけど、あとでその姿を見たアイゼルちゃんは、
「ラインハルト、その鎧はどうしたのですか?」
と尋ねてきた。
「フフフ~ン。僕がラインハルト君にプレゼントしたんだよ」
「そうなんですよ」
僕だけでなく、ラインハルト君も嬉しそうな顔をして同意してくれる。
「……ああなるほど、魔王討伐のために戦うあなたの為、国王陛下が用意してくださったということですか。さすがは国王陛下ですわ」
ハイッ?
どうしてそう言うことになっちゃうの?
だいたい、このド貧乏王国の国王ごときに、白狼王宮石を手に入れることが出来るのか?
そしてそれを鎧に作り替えられるほどの職人が、この国にいるとでも思っているのか?
この女、マジでふざけてやがる。
「ラインハルト君、アイゼルちゃんって本当にいい性格してるよね」
「……」
あれ?ラインハルト君はなぜか無言だね。
そう言えばアイゼルちゃんは貴族なんだよね。それに対してラインハルト君は近衛兵とはいえ、いまだに見習いの身分。一応実家は貴族らしいけど、下っ端の中のでもさらに下っ端の貴族だそうで、アイゼルちゃんの家とは位が違いすぎるそうだ。
……つまり、身分が偉すぎるから、ラインハルト君からは何も言い返せないんだね~。
ハアーッ、ほらさ、世の中ってやっぱり長い物にまかれて生きてくものだから、自分よりも権力や力がある相手には、逆らわないのが普通の人間ってものだよね~。
たった14歳にしてそのことを悟っているラインハルト君はすごいね。
見習いとはいえ、さすが王宮に勤める近衛兵だけあるね~。
「スバル、不満そうな顔してるけど、あとで甘い物をおごってあげるよ」
「ワッホーイ」
えーと、僕ラインハルト君に何か変なこと思ってたりしたかな~?
甘い物~甘い物~。
僕の生きる力の源を早く奢っておくれ~。
≪ご主人様のお頭ですからね≫
どうしてかわからないけど、スピカがため息ついてるや~。




