35 売られちゃった!
「ドルゼン、僕を売ったな!」
さて、現在僕はドワーフの里に来ています。
ただドルゼンの鍛冶場に来てみれば、そこにはたくさんのオッカナイ姿をした魔族の兵士たちがいたよ。
――ヤ、ヤヴァイ。ヤヴァすぎる。
「仕方なかったんじゃ。シリウス様の居場所を言わなければ、せっかく手に入れたこの"白狼王宮石"を没収すると兵士どもが脅してきて」
「ヒ、ヒドイ。僕たち昔は一緒に旅した仲間だったのに、たかが素材に目がくらんで僕を売るなんて!」
「それはそれじゃ。ただし依頼の鎧はちゃんと作っておいたからの。一応約束は破っておらんぞ……半分は、な」
「それも、そっか~」
まあ、僕のことを兵士たちにしゃべったのは困ったことだけど、鎧はちゃんと作っておいてくれたんだね~。
「ついでにそこの綺麗な短剣も何本かもらってくね」
とりあえず兵士が僕の後ろからもゾロゾロと姿を現して、僕を完全包囲の態勢に置いてきた。
ちなみに武器は向けられていないものの、結界魔法を周囲に何重にも施していて、その内部で魔法を行使できない環境を構築してきてる。
嫌だねー、魔法の使えない魔法使いって、ただの雑魚じゃん。
僕が魔法使えなくなったら、ただのプリティーで幼気な可愛いだけの子供だよ。そんな子供を魔族の兵士が取り囲むなんて、一体全体どういう状況なんだよ~!
そして兵士たちの中でも、ひときわ地位の高いことが一目でわかる隊長格の兵士が僕の前に跪いてきた。
「陛下、どうかお戻り……」
「さらば!」
何か喋り出したが、そんなの全無視。
僕は次元属性の転位魔法を使って、問答無用でその場から逃げた。
僕の魔法は詠唱なし、前動作なし、そして感知魔法の届く範囲ならば場所を問うことなく発動可能だ。
なので、この1週間でドルゼンが作ってくれた白狼王宮石の鎧と、豪華な装飾が施された短剣を数本ほど一緒に転移させた。
「へ、陛下ーーー!!!」
なんか僕が転移する直前、隊長が大絶叫を上げてたね。
転位で消える僕を逃すまいと手を伸ばしてきたけど、甘すぎるね。
次元結界を前面に展開しておいたから、隊長の手は僕の体を捉える前に結界に阻まれたよ。
ちなみに僕が魔法が使えない環境に置かれていたのに魔法が使えた理由だけど、実は僕って、昔とある国の王宮に軟禁されてたことがあるんだ。
あの国の国王ってば、僕が作った薬の秘密を外部に漏らしたくないって魂胆と、ついでに若返りの薬も作れっていう要求をしてきたんだよね。
で、僕が軟禁された部屋は薬剤の研究環境としてはすごくよかったんだけど、僕が魔法で逃げ出せないようにって、魔法が使えない空間にわざわざ閉じ込めやがったんだよね。
でも、僕の作る薬って魔法が使えないと作成できないものも多いから、魔法が使えないままだとものすごく不便で、作成にも支障が出るわけ。
といっても軟禁されてる状態だったから、時間だけは有り余るほど持てあましていたわけ。だから薬の研究をしながら、何とか魔法が使えないかっていろいろと試してみたわけ。
そして気づいたんだよね。自分の体内に次元結界を展開して、それから徐々に僕の体全体を別次元に移していくの。そうすると魔法が使えない空間とは、別の位相に僕の体が存在するようになるんだよね。
こうなったら魔法の使用できない空間に僕はいるわけじゃないから、魔法が使えるようになる。
あとは、普通に魔法を使えばいいだけだ~。
と言っても、このテクニックを生み出すまでには本当に時間がかかったな~。まあ、本当に時間だけは有り余りまくりだったから、100年でも200年でも平気で時間が取れたんだよね~。
――「お前、本当は何歳なんだ?」て言われるかもしれないけど……
……
……
……
も、もちろん僕はピチピチ12歳だから~。
≪ご主人様、目が泳いでますよ。それもかなり≫
(えっ、えへへ~)
とはいえ、軟禁生活の思わぬ怪我の巧妙って奴だね。おかげで僕はドワーフの里から逃げ出すことに、あっさり成功したよ。
ちなみに、隊長さんが「ヘイカ」とか言ってたけど、"ヘイカ"って何だろうね?
塀か?
兵科?
ヘー、イカ?
そっか、おいしそうなイカがあそこにはあったんだね~。
あれっ?でもドワーフの里があるガルガチュア山系って、海からは遠く離れた場所だった気が……。
ち、近くにある川で取れたイカが……
≪魚は川にもいますが、イカは海にしかいませんよ≫
ま、いいや。
細かいことは気にすんな。
スピカみたいな性格になっちゃうぞ~。
≪ちょっ、どうしてそこで私の名前が出てくるんですか!≫
(アハハ~)
≪アハハじゃないでしょう。このアホ主人≫
(シ、シドイ。君って僕の娘みたいなものなのに、親に向かってアホだなんて……)
えーと、そんなドタバタした出来事があったものの、おおむね問題はなかったね。
たぶんないよね。
なかったのだよ、何もなかった。
僕の鳥頭には何も記憶されていない。




