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32 白狼王宮石

 ――ガンッ!


「ギャフッ、ヘグ、ヘブシッ」



 見事な三拍子が続くね~。

 ただいま僕は、神獣の森の地下にある最初の秘密基地で、『悪魔(デーモン)に捧げる生贄の書・初級』を書いてたとこだよ。


 ただね、参考資料を見たりしながら執筆作業を続けていたんだけど、お腹が空いてきたんだよね~。



「何か食べるものはないかな~」

 本に視線を向けたまま室内をフラフラ歩いてたら、足に何かが激突。

 それもね、足の指の骨が折れるんじゃないかってくらい固くて、重い物だったよ。直後僕は前のめりに倒れちゃった。手に持っていた本は飛んでいき、鼻から床に見事激突。

 土の地面だったらまだよかったんだけど、ここの床って"超合金"もかくやという強度を持った床なんだよねー。


 そんな床に激突して、鼻血がでたよ。


「ヒイイー、痛い。痛いよー」


ご主人様(マイロード)、鼻が折れてます!≫

「ヒエエッ、僕の可愛らしい顔にとんでもない傷がー」


 僕は急いで腰に巻いているベルトに手を伸ばした。

 僕の厨二病あふれるセンスをしたベルトは、西部劇に出てくるガンマンのしているガンベルトのようになっている。ベルトには銃弾を一発ずつ収納しておけるような造りになってるよ。

 もっとも、このベルトに仕込んでいるのは銃弾ではなく回復用のポーション。


 ただし、原料には"世界樹の葉っぱ"を使ってるけどね~。


 品質は"伝説級(レジェンド)"を超えた、最高位の"神級(ゴッツ)"に属する"即時完全回復(フル)ポーション"。

 それをベルトから取り出して飲めば、僕の鼻はたちどころに元通りに治った。



ご主人様(マイロード)、いくら何でも"即時完全回復(フル)ポーション"はもったいなくないですか。回復魔法を使った方が……≫

「でもでも、僕って薬師だよ。薬師なのに回復魔法に頼ったら、なんだか負けた気がするじゃん!」


 そうだよ。スピカの言う通り、鼻の骨折ぐらい僕の回復魔法なら瞬時に元通りに戻せるよ。

 でも僕って薬師だし~、薬師だし~、クスリ……



「ごめん、やっぱりすごくもったいなかった」

 正気に戻った僕は、大したことない怪我に、なんちゅうレアポーションを使ってしまったかのかと思った。


「ま、いっか。どうせ世界樹の葉はまだポーチに残ってるし、足りなくなったら"また"世界樹の葉をむしりに行こっと」

 しかし、忘れてもらっては困るね。

 僕の脳みそは3歩歩く前に、きれいさっぱり忘れちゃう脳みそだ。鳥頭にだって負けちゃうぜ!



 なんかスピカさんが盛大に僕の頭の中でため息ついてるけど、僕のことを侮ってもらっちゃ困るね~。




「ところで、何につまずいたのかな~」

 そもそも僕が即時完全回復(フル)ポーションを使う原因になった、床に転がっていた物は何だろうね。

 なんか白い石……というか、岩の塊が転がってるね~。


 誰だよ、こんなもの床の上に転がしてる迷惑極まりないバカは!


≪ここにはご主人様(マイロード)以外で来られる方がいますか?≫

 えーとですね。この地下の秘密基地は実は次元結界(ディメンション・シールド)で覆われていて、次元属性魔法が使えない者は出入りすることが出来ないんだよね。

 で、現在僕が知っている範囲で、この世界で次元属性魔法を使えるのは、僕以外誰もいないよ。人間はもちろん、それこそ魔族やドラゴンだって、次元属性魔法が使えないんだよね~。


「犯人はスピカ?」

≪ご自分の整理整頓能力を棚上げして、何言ってるんですか?そんなポーチを使っているから、部屋の整理整頓もろくにできなくなるんです!≫


 こ、こいつ、まるで小姑みたいにネチネチと言ってきやがった。


 これだから、おばさんは……


≪何か言いました?≫


「いいえ~、何も言ってません」


 何も言ってないよ、考えてるだけだよ~。




 あ、スピカが物凄い目で睨んできやがった。

 いけねえいけねえ。こいつって僕の頭の中の住人だから、僕の考えてること全部筒抜けなんだよね~。


「まあまあ、今度甘い物でもおごってあげるから、勘弁してね~」

≪私には口も味覚もないですよ≫

「うん。だから、僕がきちんと甘い物を食べて堪能するよ~」


 うむうむ、そうすればスピカだけでなく、僕だって大満足できるね。

 甘い物は僕の活力(いのち)の源。


 そうだ、せっかくだからポーチの中に入ってた飴をなめとこう~。


 うーん、甘い甘い~。



 そのあと、スピカが何も言わなくなったや。

 フフフ、スピカ。とうとう君までが僕の事をいらない子扱いするようになったんだね。





 ま、そんなことはどうでもよろしい。

 それよりも僕が転んだ原因の白い塊だけど、なんだろう?



 見てもわからないので"精密解析鑑定魔法"を使ってみた。

 名前は、"白狼王宮石(はくろうおうきゅうせき)"。かつて白狼王と呼ばれた魔王クラスの実力を持つ魔族が建てた宮殿に使われていた建材で、それが由来となって名前が付けられた石だ。

 ちなみに石とはいうけど、その強度は恐ろしく高く、対物理・魔法性能に長けている。特に対魔法性能が高くで、物理耐性中、魔法耐性大という代物だ。



 なんでこんな石が、ここに転がってるんだろう?




 えーとですね。

 確か昔のことだけど、僕が竜族のトップである竜帝とその弟の魔竜王を、不慮の事故でついうっかり倒しちゃった後、その周囲に住んでいた魔族たちに次々に絡まれたんだよね。


 ほら、僕って見た目がとってもか弱そうな子供だから、そのせいで絡まれちゃったんだよ。

 学校のクラスでひ弱なガキを見つけたら、それに強請り集りをしてくる不良(クラスメイト)みたいな感じかな?


 まあこの場合相手は不良でなくて、魔族。それも魔王クラスとか、実物の魔王様なんてのもいて、その中にはレオンのお父さんもいたんだよね~。

 皆、「我々魔族を支配していた竜帝様を倒したお前を倒せば、俺こそが次の魔皇帝に……」とかなんとかほざいてたね。


 ま、あいつら口と見た目と態度がデカかっただけで、僕が魔法でちょっと可愛がってあげたら、途端に真っ青になって僕に服従してきたけど~。



 ちなみにその時、魔王クラスの白狼王にも襲われちゃった。

 全長30メートルの白銀の巨大狼で、ドラゴンだってぱくり食べちゃう物騒な奴なんだよね。

 先日会ったノストフィーネ山脈のドラゴンは全長10メートル越えてたけど、あれぐらいのドラゴンだったらパクリと食べられちゃうね~。


 本当、怖いよね、白狼王って。

 あいつ、僕のこともパクリと食べようとしたんだから、本当に始末に負えないよ。


 だから僕は正当防衛と言うことで、重力魔法であいつを地面にひれ伏せさせたね。いつものように次元属性魔法を付加した重力魔法だから、相手がいくら高い魔法耐性を持っていても、抵抗(レジスト)できないんだよね。

 言ってみれば防御力完全無視の重力攻撃って感じかな?


 まあ、あの時は攻撃じゃなくて、ほんの10Gくらいの重力を身体全体にかけてあげただけだけど。


 で、あまりの重力に耐えきれず、白狼王は僕の前で立ち上がることが出来なくなって跪いた訳。


 ただ、その後もなんとかして動こうと激しく抵抗したものだから、僕も重力をさらに強くかけないとまずいと思ったんだ。


 そしたら、ついやりすぎちゃった。


 ボキリッて音がね、白狼王の首からね。……うん、仕方ないよね。

 あのときって、30Gだか50Gぐらいかけゃったもんねー。




 全ては事故だったんだよ。竜帝さんとその弟さんの時と同じで、ちっょとした事故だったの。


 まあ、白狼王さん"も"不慮の事故でお亡くなりになってしまったけど、その後白狼王さんが住んでいた王宮(あいつ魔王クラスの魔物だっただけあって、完全に"自称"魔王の気でいたんだろうな~)を僕は訪ねて行って、そこで王宮に使われていた建材を少しだけ猫糞……失敬……拝借?

 してきたんだよね~。



 で、その後この拠点に帰ってきて、いらないからポイ捨てしたわけだ。





 ……そういえばラインハルト君って、パーティー内では僕のメイン盾としてよく頑張ってくれてるよね。

 この前なんて、"岩石魔人(ロックゴーレム)"に顔面ボコボコにされて気を失ったぐらいだし。


「せっかくだからゴミを処分するついで……えーっと、これでラインハルト君専用の鎧でも作って持っていってあげよ~」


ご主人様(マイロード)、言い直すのが遅すぎますよ≫


 エ、エヘヘッ~。


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