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29 金貨色のお友達

 ノストフィーネ山脈ではいろいろあったけど、僕たちは無事に王都に帰ってきたよ。


 王都に戻るまでの道中、ラインハルト君が「月給の3分の1が消えた。ハハハ」とか言って虚ろな笑いを浮かべていたけど、それ以外特に問題なかったね。


 それにしても中級ポーション1本分の値段だよ。たったあれっぽっちで月給の3分の1とか、どれだけ近衛兵って薄給なの?

 いや、ラインハルト君は見習いだから、正規の近衛兵より給料が低く抑えられているのかも。

 でも、どっちにしてもクライネル王国って経済があまり発達してる国じゃないから、宮仕えでも給料がよくないんだろうね~。


 ちなみに国王はケチなので、何か功績をたてれば多少の報奨は出してくれるけど、今回僕たちがノストフィーネ山脈に行ったのは、パーティーのスキルアップのため。

 つまり国王からの依頼でなければ、公務だったとも言えない。


 もっともラインハルト君の仕事は僕たちのパーティーと一緒に行動して魔王を倒すことだから、今回のことも公務に入れていいよね。でも、けち臭い国王はポーションの代金さえ建て替えようとしなかった。

 これで危険手当もでないってんだから、ラインハルト君って滅茶苦茶安月給でいいようにこき使われてるね~。


 うわー、"ブラック企業"ならぬ、"ブラック公務員"だ~。





 さて、そんなこんなで王都に帰還。


「先生!」

「お師匠様!」

「賢者様!」


 館に戻るとね、なんだか僕の弟子になりたいって人たちが何人かいたよ。

「フフフ、皆僕が持っているすんばらしい能力が分かるのだね~」


「それはもちろん。最近王都で見かけた素晴らしいポーションや薬の数々ですが、あれらを作られたのが先生だとお聞きしました。なにとぞ私めを先生の弟子として、薬の作り方をお教え願いませんか」

「私は隣国から参ったのですが、国で売られていた素晴らしい薬の出所がクライネル王国だと聞いてこの国に参りました。するとなんとあの薬を作られたのが、お師匠様と聞き及びました。遠方より弟子にしていただきたく、はせ参じた次第です」

「素晴らしき英知を持たれた賢者様。ぜひとも私に"超美肌パック"の作り方をご教示くださいませ。美しさと若さを保つためならば、どのようなことでもいたします。雑用でも小間使いでも、好きにお使いください」


 なんか変なのが1人混じってる気がしないでもないけど、僕の薬の作成能力の高さに惹かれて、弟子入りしたいんだね。

 もう、仕方ないよね~。ほら、僕ってカリスマ性が全身からにじみ出てるから、分かる人には分かっちゃうものなんだよね~。


「いいよ、君たちを僕の弟子にしてあげる」


「「「ハハッ、ありがたき幸せー」」」

 僕の弟子となった3人は、両手を上げて喜んでくれたよ。



「よ、世も末ですわ。あんなわけの分からないガキに弟子入りしたいだなんて、狂人の集まりに違いありませんわ」


 なんか僕が師弟の関係を結んでいる後ろで、アイゼルちゃんがそんなこと言ってるよ。

 むー、失敬な奴だなー。アイゼルちゃんは僕の薬作成能力の高さを……あ、この人はいつも僕が薬作ってる場面を見てないんだった。何しろ僕の存在ガン無視してるからね~。

 それに僕の薬の世話になったこともほとんどなかったしな~。

 せいぜい戦闘のかすり傷で、塗り薬を使ったぐらい?

 むしろ薬の消費先って、パーティー内最弱のラインハルト君ぐらいだね。


 レオンに至っては、そもそもかすり傷すら負わないし。

 まあ、あいつの防御能力の前では、鋼鉄の剣を叩きつけたぐらいでは傷一つつかんから仕方ないケド。


 そしてついこの前ラインハルト君の顔面を直した中級ポーションにしても、アイゼルちゃんはレオンの奴とお盛んだったせいで、僕がポーションを使ってあげたことすら気づいてないんだよね。


「あら、ラインハルト。あなたの回復能力は凄いですわね。ギルドで見たステータスでは、ド凡人と思ってましたが、隠れた才能があったじゃないですか」


 ポーションのおかげで回復が早かったのに、完全にラインハルト君の自然回復力だと勘違いしてたよ。

 あのアマ、とうとう僕の友達のラインハルト君の扱いまで、極悪化してきやがったな。



「それより"超美肌パック"を買いに行きましょう。あのパックを使って、レオンさんに私の綺麗な顔を見せてあげないと」


 そんなこと言って、アイゼルちゃんは買い物に行ったよ。

 愚かな女め。あのパックを作っている人間がすぐ近くにいるというのに、それを知らずに買いに行くとは。あのパックって街で買うと金貨出さないと買えない値段なんだよね~。

 ウフフ~。




 ま、あんな女のことはいい。

 僕は新しく得た弟子たちと共に、薬の制作に取り掛かることにした。

 とりあえず、そのための作業場として現在拠点にしている"旧アイゼルバーグ邸"の横にある、デカい屋敷を一つ購入。

 で、その中を既に薬の研究用施設として改築済みだったりするんだよね~。


 ――え、「館を買った金と、内装の工事費はどうしたんだ」って?


 ウフフ~、今僕の懐は、この国に召喚されて以来、一番豊かになってるんだよ。

 この前道具屋のおばあちゃんの孫娘が、この国一番の商人と結婚したでしょ。

 まあ、実際には商人同士の"政略結婚"なんだけどね~。


 で、その結婚で僕の薬を独占して買い取っていた道具屋のおばあちゃんが、商人さんの所へ薬を流すようにしたわけ。そして商人さんは王国中に張り巡らせた流通網を使って薬を売りさばいてるんだ。

 それはもう王都の中だけじゃなくて、クライネル王国の各地にある町や村は当たり前。さらには国外にまで輸出しているんだよね。

 王国の町々や近隣諸国では僕の作った薬はバカ売れで、それはもうウハウハで笑いが止まらないほど。おかげで僕の懐に黄金色の金貨が、たんまりと入ってくるんだ。


 クライネル王国は経済のショボい国で、金貨にしても金の含有率がひどいけど、近隣の国々はクライネル王国りも経済が豊かなんだよね。

 おかげで今まで以上に薬を高い値段で売りつけることができて、僕の取り分も格段にアップよ。


 アハ、アハハハハ~。

 もっとお薬を作って、お金を一杯集めるんだ~。

 僕の瞳は金貨のように、黄金色に輝いていた。






 そんなわけで、僕は弟子たちの前で簡単に薬を作ってみせた後、いそいそと道具屋のおばあさんの元へ向かった。

 え、弟子たちの扱いが雑すぎる?

 知らんな、勝手に技を盗み見て成長するがいい。





「ふっふっふっ、今日はいい場所に案内してあげよう」

 道具屋に到着するなり、おばあさんはいきなり店を閉めてしまう。そして王都の中にある高級な料理店へ僕を連れて行ってくれた。

 わーい、おいしいご飯が食べられるね~。


 でもって、案内されたのはその料理屋の最上階。

 なんでも特別なお客しか使えない超高級部屋だそうで、お金があるからといって入らせてもらえる部屋じゃないそうだ。

 一見(いちげん)さんお断りってやつかな?


 こういうお店の事って僕もよく知らないんだけど、まあそんなことは美味しいご飯の前には関係ないよね~。

 ああー、甘い物、甘い物はないですかな。僕は砂糖がないと死んでしまうのです。



 で、そのお部屋には、脂の乗ったおじさんがいたよ。うーん、おいしそう……では全然ない。

 え、ま、まさか、僕だっていくら何でもおじさんを食べようなんて思わないよ。

 な、なんとなくノリでそんなことを思っただけだからね~。



「紹介しよう、こちらが王都一。いや、この国で一番の商人さんだよ」

「と言うことは、おじさんが僕の作った薬をあちこちで売ってくれてるんですね」

 なんと、僕の懐の強力無比な味方じゃないですか~。


「初めまして、お噂はかねがね伺っておりますスバル殿。私、商人のバウマイスターと申します」

「初めまして、バウマイスターのおじさん」


 商人のバウマイスターおじさんに、僕は愛想よくニコニコと笑顔を振りまいた。


「しかし、まさかこれほど小さな子供だったとは。ですがスバル殿の薬のおかげで、我が商会はここのところうなぎ上りの業績でしてな。ワッハッハッ、いやー、子供なのに、なんと素晴らしいお方だ」

「えへへ~、そんなこともあるんだけれど。僕もおじさんが薬を手広く売ってくれるおかげで、お金がザックザック入ってきますよ。これからもよろしくお願いしますね」

「ハッハッハッ、お互い様ですな」

 そう言って僕とおじさんは仲良く笑い合った。


 うんうん、このおじさんの瞳はきっと黄金色をした金貨でできてるね。かくいう僕も、金貨の魅力に憑りつかれた欲深い瞳でおじさんを見てるけど。


「おいおい、お前さん方。私のことも忘れないでおくれ」

 とは、道具屋のおばあさんだね。


「もちろん、僕は形の上ではおばあさんに今まで通り全部の薬を売るから安心してね」

「ワシも、ばあさんの取り分には手を付けぬから安心せい」


 僕たち3人は取り分をきちんと決めていて、大儲けしているんだ。


「「「アッハッハッハッハッ」」」

 いやはや、おばあさんの瞳まで金貨色だね~。




「うんうん、これからも僕たちは"お金の関係が続く限り永遠の友達"だね」

「ワッハッハッ、全くですな」

「そうそう、全ては金が結んでくれた縁じゃの」

 うわー、大人のどす黒さ満載だよ~。

 もう、この人たち全員金の亡者だね。金貨の亡霊に憑りつかれちゃってる。


 もちろん、僕もちゃーんと金貨に憑りつかれてる亡者だしね~。


 エヘヘ~、今回は建物丸々一つ買ったことだし、残ったお金は何に使おうかな~。




「そういえば、以前村人が全員石化された村があったのですが」

 そこで商人のおじさんが語る。

「ああ。あの村の石化を治したのも僕の薬なんだよね~」

「なんと、スバル殿は石化回復薬まで作れるのですか。あの薬は希少な材料が必要なため、滅多に作れるものでないとの話でしたが」

「エヘヘ~、僕って天才薬剤師だから、そのくらい軽いよ~」

「いやはや、さすがは異世界から来られた方だけあって、我々にはない知識をお持ちのようだ」


「うふふ~」

 うん、僕は地球って星から召喚されてきた異世界人です。9割方嘘だけどね。

 前世は地球人だったけど、僕は前世の記憶を持ったままこの世界で生まれ変わった。"異世界転生"って奴だね。。そしてその後普通にこの世界で成長していったんだけど、ある日突然"同じ世界内で召喚された"僕とレオンの事を、この国の人たちが勝手に異世界から召喚したって思い込んでるだけなんだよね~。


 当然、地球には石化回復薬なんてないよ。

 そもそもの前提として、人間が石になる病自体が存在しないんだから、当然だよね。



「して、例の村なのですが、今ではかなりの量の薬草を我が商会へと卸してくれましてな。いやはや、予想外に素晴らしい薬草の産地だったよです」

「それはよかったね~。そうだ、どうせなら僕の名前を出して取引するといいよ。僕がいなかったら、あの村の人たちは今でも石のままだったから。ただは無理でも、多少は取引で安くしてくれるんじゃないかな~」

「なるほど、なるほど。では次回の取引よりそのようにしましょう」


 ムフフフ~。

 アハハハ~。


 僕と商人の2人はだらしない笑みを交わし合う。


「ほれほれそんな話ばかりしとらんと、せっかくの高級料理屋なのだ。そろそろ食事の時間にしようではないか」

「わーい、ご飯だ~」

 おばあさんに言われて、僕たち一同は食事の席に着くのだった。


後書き



 次回から掲載時刻を18時に変更しますのでご注意を~。

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