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1 気が付いたら知らない場所

前書き



 スバルの性格に関しては、2章、3章を読んだ辺りで、大体ご理解いただけるかと。

 てなわけで、僕は72歳で天寿を全うしたけれど、気が付いたら12歳の頃の姿になって、全く見ず知らずの空間にいました。

 ビバッ、若かりし頃の僕の体。もう2度とあんな肥満体になりはしない。


 そう、胸の中で熱く誓う僕。


≪……ご主人様(マイロード)、"異世界転生"したというところから、現在までにあった出来事が全て(はぶ)か……≫


「ええっ、何のことだか僕分からないー」



 僕の頭の中で、妄想の産物である脳内妖精さんが何か言ってきたけど、そんなことを僕は断じて認めない。

 僕は72歳で死んだ後に、気が付いたら12歳の姿で生き返ってただけですよ。転生した後の話を、"それなりに中略(とば)した"りなんてしてないもん。


≪……≫

「妄想の妖精さん、なんだか物凄くオーラを放ってるよ?」


 例えば、「中略した内容が"それなり"どころじゃないだろう!」って感じの無言のオーラを放っているけど、僕はちっとも気にしない。



「さっきから食べながら何わけ分からないことを言ってるんだ?」

「モグモグモグ、独り言だから気にしないでー」


 僕が妄想の妖精さんと話をしてた声がついつい口から出てたみたい。見下ろしてくる青髪男が胡乱げな視線をしてるけど、僕はそれに適当に返事を返しておいた。

 まずは蒸かし饅頭を全部食べないとね。


 と言ってもあと一口でお終い。

 うん、マズい。

「おいしい、おいしい」

 しかし、例えマズいと味覚が訴えても、口に出すのはおいしいと言う言葉。そう言うことにしておけば、どんなマズい物を食べてもおいしい……気分になんとなくなれる。

 ……と、いいな~。


 ところで、饅頭を最後の一口で食べて気が付いたけど、この場所の床には何やら魔方陣に見える文様が描かれていた。

 別に光を放っているわけではない。ただよほど古い物らしく、うっすらと汚れたシミのように魔方陣の陣形が描かれていた。


「うーん。なんだろうね、これ」

 僕が気にしていると、青髪男の方も床の魔方陣に気が付いたようで、そこに視線を向けてきた。


「これが何かわかるのか?」

「さあ、知ってるような気がするけど。うーんと……分からないや」

 しばらく頭をひねってみたけど、この魔方陣が何のためにあるのか、どういう効果があるのか僕は全然予想がつかなかった。

 正確には喉に刺さった小魚の骨のように、気になるものがあるのだけど。


「うーん」

 それでしばし唸るけど、やっぱり何かは分からない。



 ……えっ、読者諸君は、72歳で現代日本から異世界に転生した僕が、いきなり古ぼけた魔方陣の正体なんて分かるわけがないだろうって?

 フフフ、愚か者め。

 僕はこれでも前世では薬学に長けた研究者であっただけでなく、同時になんちゃって魔方陣の数々を紙に記し続け、"前世の生涯"では720冊にもなる冊数を残したんだよ。

 ちなみにどれも1000ページ以上の超大作の数々で、家にあった書斎の壁がそのエセ魔方陣の本を収納したことで完全に埋まってしまったほど。

 別名、『捨てるに捨てられなかった大黒歴史の壁』と呼ばれる、まともな人なら、とても他人の目に恥ずかしくて晒すこともできないような代物。

 もっとも僕は正々堂々と、懐いていた甥っ子にドヤ顔で自慢して見せびらかしてたけどね。


 ……あの甥も、子供の頃は素直だったのに、20歳過ぎたら、完全に僕をキチガイ扱いした目で見るようになってたけど……



「うっ、いけない。ボクの心の中の古傷が痛む」

 つい、思い出したくもない前世の記憶まで呼び戻してしまって、僕は顔を顰めてしまった。


「で、結局この魔方陣が何かは分からないんだよな?」

「うん、ちーっともわかんない」


 苦悩していた僕に青髪男が問いかけてきたので、僕はとりあえずそう答えておいた。

 しかないよね。あと少しで思い出せそうな気にはなるけど、そう言うことって大体考えれば考えるほど余計に思い出せなくなっちゃうから、これ以上考えても無駄だしね。


「とりあえず、ここがどこか確認しようか」

 僕がそう結論付けると、青髪男も黙って頷いてくれた。


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