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27 シリウスとドラゴンたち

 僕が装備しているロングコートと、レオンが装備しているコートだけど、これって"解析鑑定魔法"にかけても、大した情報が出てこないんだよね。

 一応、装備の性能が"物理・魔法耐性(大)"って出てくるけど、材質の情報とかに関しては一切出てこないんだ。


 なんで出てこないのかと言うと、実のところ"解析鑑定魔法"をこの世界に広めたのって僕なんだよね。

 昔は"英知の賢者"様なんて呼ばれてたみたいだし。


 ――え、「お前12歳のガキだろう」って?


 あ、うん、そうだね。僕、プリティー少年のスバル君、ピチピチの12歳だよ。

 なお「"ピチピチ"なんて言葉、死後だろう」って抗議はうけつないよ。あと、「これだから昭和生まれは」とか抜かすな!



 で、僕の体は見た目の通り12歳。

 でも僕が"解析鑑定魔法"を広めたのもまた事実。


 ただ自分で作った魔法だけど、世間一般に知られちゃうといろいろと面倒な情報とかもあるんだよね~。

 だから意図的に一部の情報は解析不能にしたり、隠匿したり、そもそも解析結果にわざと誤情報が出てくるようにしている。なんて仕掛けがあるんだよね。


 ただ解析鑑定魔法の上位互換である、"精密解析鑑定魔法"にはそんな縛りないよ。

 で、精密解析鑑定魔法で僕の装備しているロングコートを調べた場合、こんな情報が出てきちゃうんだよね。


『竜帝と魔竜王のロングコート(物理・魔法耐性(特大))』


 ここにでてくる竜帝さんは"竜神"とも言われていて、竜族で一番強いというか、竜たちの元締め的な存在と言うか、ボスと言うか。竜族にとっての皇帝陛下だね。

 つまり一番偉いの。

 他の竜なんて、この竜帝さんの前では満足に頭を上げることも出来ないほどの大権力者で、バカみたいにデカくて、強くて、オッカナイの。

 で、"魔竜王"に関しては竜帝さんの弟なんだけど、竜帝さんが竜族のトップであることが認められなくて、反旗を翻してたんだ。

 もちろん、魔竜王さん1人……1体?だけじゃない。


 そりゃあもう人間世界のおどろおどろしい権力闘争のごとく、数千とか数万を超えた竜たちが、2派に分かれていての大戦争だよ。


 もともと兄弟2人の仲が悪いというより、兄弟の周辺にいる権力好きな竜たちが派手に権力争いをして、そのせいで兄弟は超険悪な間柄になってしまったわけ。、互いに血で血を争う権力闘争のど真ん中に立たざるをえくなくったの。

 気の毒な話だね。


 そんなある日、僕が「薬の材料に欲しいから、すこ~しだけ、肝臓を分けてください」って、竜帝さんの住んでいる場所まで尋ねて行ったの。

 "ドラゴニア山脈"ってところだね。


 でも、ひどいよね。


 僕のお願いを聞いてくれないどころか、いきなり襲ってきたんだよ!

 肝臓くれって言っても、別に全摘出するわけでなく、本当にちょっとでよかったのに。


 で、その結果全長500メートル越えてる、「なにこれどこかのSFに出てくる飛行戦艦か何かですか?」ってサイズの生き物(竜帝さん)が、僕に向かってきて突撃だよ。


 あの時は僕も超焦ったよ。

 ついでにあの頃からレオンとはあちこち旅してまわってたけど、レオンの奴もちびりそうな顔してたな~。


 で、僕は竜帝さんに襲われたものだから、仕方なく"正当防衛"と言うことで……なんであんなことになったのかな?

 僕もさすがに竜帝さんのデカさにビビって、気が動転してたんだよね。


 結果、竜帝さんがお亡くなりになってしまいました。


 はい、僕が魔法で倒しちゃいました。

 半分パニックになってたから仕方ないよね。


 大体全長500メートルなんて言ったら、333メートルの高さがある東京タワーよりも大きいよ。634メートルのスカイツリーよりは小さいけど。

 まあ、どのみち12歳の子供から見たら、そんなバカでかい物が目の前に迫ってきたら、そりゃもう半狂乱のパニックものだよ。



 言うならば、ある日目の前に突然大型トラックが突っ込んできたようなものだね。

 あなたがこれから死ぬこと確実の距離と速度でトラックが突っ込んできました。『ここで冷静に今までの人生を振り返って、PCのハードディスクだけは何としても破壊しなければ』。なんて暢気に考えごとしていられる余裕なんてないよ~。



 で、竜帝さんがお亡くなりになった後、権力闘争していた魔竜王さんがやってきて、イチャモンつけられたから、気の毒なことに魔竜王さんまでお亡くなりに。

 あっちも全長300メートル越えてたから、竜帝さんよりは小さかったけど、結局僕みたいな2メートルにも届かない小さな人間から見たら、何も変わらないよね。

 アハハ~。


 で、お亡くなりになった竜帝さんと魔竜王さんの兄弟から、その皮を少しいただいて僕とレオンの着てるのロングコートやコート、ズボンなどの素材になっちゃった。

 なっちゃったというより、やったのは僕だから"やりました"、の方が日本語として正しいね~。


 白い皮をしていた竜帝さんの皮を、上下から黒い皮をした魔竜王さんの皮でサンドイッチして挟んで(プレスして)、ひとつの生地に仕上げたよ。

 生前は仲が悪かった兄弟も、今では互いに密着した状態だから、兄弟仲良く成仏できているよね~。


 あ、ちなみに「竜なんだから皮じゃなくて鱗を使った防具にしろよ」って突っ込まれるかもしれないけど、さすがに"竜神"とも言われてる巨大ドラゴンでしょう。鱗1枚ですら人間の体と比べ物にならない大きさをしてて、その上固すぎて満足に加工できるような代物じゃなかったんだよね。

 でも、鱗の下にある皮は柔軟性があるのに、それでいて物理的にも魔法的にも物凄い防御力があったんだ。だから、そっちを防具(ふく)に使っちゃった~。



 とまあ、そんな経緯があったものの、僕とレオンの防具の素材って、普通に世の中に出しちゃうと、ちゃっとどころでないヤヴァさ満載の代物なんだよね。

 はっきり言って、"伝説級(レジェンド)"の素材でできてるんだもの。

 こんな代物、世の中にまともに出すわけにはいかないよ~。




 そして僕の過去にそんなことがあったものだから、僕の名前って竜族(ドラゴン)にはすごく有名なんだよね~。

 ちょっと「シリウスです」って名乗って、"次元魔法"を使ってあげると、皆僕のカリスマ性にやられて、突然ヘコヘコしちゃうんだよ。


 まるで時代劇で"印籠"が出した瞬間、"御老公"に土下座しまくる悪党どものように、ドラゴンが、「ヘヘー」って土下座してくるの~。



 で、今回出会ったノストフィーネ山脈に住んでいた(ドラゴン)さんも、僕には頭が上がらない状態。

 でも僕、別にこのドラゴンを倒そうとか思ってるわけじゃないしね~。


 いや、ドラゴン鍋は少し考えたよ。

 おいしいかどうかは知らないけどね~。

 ただ、なんか腹が立ったから……



 とはいえ、わざわざこんな僻地にいるドラゴンさん相手に何かしようって程、僕は器の小さな人間じゃないんだよね。とりあえず山脈にいる間、ドラゴンさんに周囲の魔物を追い払ってもらうことにしたよ。

 岩石系の魔物の相手なんて、いちいちするだけ面倒臭いもんね。

 ドラゴンさんはなんでもこの山脈一帯をテリトリーにしているそうで、姿を見せるだけで飛竜の群を含めた、他の魔物たちが逃げ出しちゃうとのこと。


「いやー、おかげで採取がはかどる。はかどりまくる~」

 魔物がいないと効率が段違いだよ!


 ついでに10メートル級のドラゴンさんがいても、僕の愛馬たる黒雷男爵号(ブラックサンダーバロン)とポニーたちは逃げ出さなかったよ。

 さすが僕の愛馬(ポニー)たち。この程度の出来事では、全くビビらないんだね。


 ま、ドラゴンが来る前、魔物と戦っている最中から、僕が足元に次元結界(ディメンションシールド)を密着するように展開させていたので、逃げ出したくても足を動かせない状態にしてただけだけどね。

 だってほら、こいつらに逃げられたら、たくさん採取した素材が運べないもの。


 ――え、「どうせならここにいるドラゴンに荷運びを手伝ってもらえばいいんじゃないか」って?

 駄目だよ。こいつは手足が人間のようにできてないし、背中に荷物を括り付けるなんてこともできない。荷物を載せるための鞍でもつければ何とかなるだろうけど、そんな鞍持ってないし。


 ……あ、今思い返してみると僕のポーチがあったのに、そのことすっかり忘れてたや~。

 アハハ、ボクのおドジさん~。


≪ご安心を、いつものことです≫

(おだまらっしゃい、スピカさん!)


 ちょっと余計な横やりが入ったね。


 まあとにかく、僕たちは無事にノストフィーネ山脈での採取が出来たよ。





 ――え、「この山脈にはパーティーのスキルアップの為に来たんだろう」って?

 そんなことを確かアイゼルちゃんが言ってたね~。


 でも、僕はこんな山脈にいる魔物なんて、魔法使えば楽勝で"殲滅"できるし、レオンだって片手で捻れるぐらいの実力があるから、スキルアップもくそもないんだよね~。



 それとアイゼルちゃんとラインハルト君が素材の採取中に気を取り戻したけど、なんかドラゴンが近くにいるのを見た瞬間、泡を吹いてまた気を失っちゃった。

 この程度でビビッて気絶するようじゃ、本当に魔王討伐の勇者様パーティーが務まるのかね?

 一応僕とレオンって、そう言う役でこの国に召喚されたのに、その仲間がこれじゃあね~。




 その後僕たちは、ノストフィーネ山脈を後にした。

 気絶したラインハルト君はポニーの背中で運ばれ、アイゼルちゃんの方はレオンにお姫様抱っこされて。



 エヘヘ~、イケメン男だと絵になりますな~。

 ところで白いマスクってどこかで売ってないかな~。

 レスラーみたいに顔面全部隠れちゃうような白いマスクだよ~。

 今日から僕、"嫉妬のマスク団"って名前の教団でも作って、世の中のアベックどもを……フ、フフフ、どうして僕の前世ではあんなにひどい目に……


 ブツブツブツ。

 い、いけない。目の前の事でなく、前世での僕の女性関係のことがどうしても脳裏に浮かんできちゃう。


ご主人様(マイロード)の前世は童貞じゃなかったから、よかったじゃないですか≫

(やかましいわ!俺はな、俺だってな、もっとまともな女性像を描いてたんだよ。なのに、あいつら全員俺から離れていきやがって!)




 えー、ゴホン。

 とりあえず山脈をだいぶ降りた辺りで、ドラゴンさんとは別れたよ。

 さすがにドラゴンさんが、人里にまで降りるわけにはいかないものね。


「お呼びくだされば、シリウス様の元にいつでも馳せ参じます」

 ドラゴンさんは別れる間際にそんなことを言い残して、山脈に戻っていったよ。


「じゃあね、ドラゴンさーん」

 僕は去っていくドラゴンさんの後ろ姿を、手を振りながら見送った。うんうん、僕って12歳のお子様だから、可愛らしく見送ってあげないとね~。




「桑原桑原、もう2度とあのお方とは関わりませんように」

『をぃ、聞こえてるぞ』

「ヒィッ」!

 僕の視界から完全に見えなくなった後、ドラゴンが小声でつぶやいた。でもそれは僕の感知魔法の範囲内で、もろに聞こえていたんだよね。

 だから風魔法を使って離れた場所にいるドラゴンさんに僕の声を届けてあげると、途端にドラゴンさんが全身をブルリと震わせた。


 ――たく、舐めてんじゃねえぞ。


後書き



 "嫉妬のマスク団"です。


 昔『突撃!パッパラ隊』なんてコミックもありましたね~。

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