20 伝説級の薬作成
前書き
作者の薬学に関する知識はずぶのド素人なので、本文中で書かれている薬剤関係の話は、"全く当てにならない"のでご注意を。
そんなこんなで3日後。
「やっ、やっと街に戻れた」
街の門番の兵士たちから、ようやく王都に入る許可をもらえた。
バブルの匂いが落ちるまでって、本当に長いんだよね。
ただこの3日間野宿だった僕たちの格好は、街に出る前に比べてかなりくたびれていた。仕方ないよね、屋根のない星空で3日間も過ごしたんだから。
「今すぐ水浴びをすぐしないと。それに着替えも早く……」
「アイゼル、バブルとは違う変な匂いがしてきてるぞ」
「イ、イヤーッ、レオンさん私の近くに来ないで」
「っていうか、レオンだって変な匂いがしない?」
ジト目で、僕はイチャラブ馬鹿どもに水を差す。
「……僕たち全員からでしょう」
「「「……」」」
ラインハルト君の的確な指摘に、僕たち全員黙り込んだ。
僕たちは王都の街中を通って、拠点にしている旧アイゼルバーグ邸まで戻った。
途中、僕たちが進む先では、なぜか街行く人たちが自然と僕たちに道を開けてくれた。
「……僕たちの匂いって、そんなにひどいの?」
「「「……」」」
沈黙は是なり。3人の無言にそう悟る僕だった。
その後、拠点で僕たちは水浴びをして清潔な服に着替えた。
「ああ、生き返りましたわ」
そう言って白い薄手のブラウス姿になったアイゼルちゃん。
ああ、眼福眼福。ロリっ子貧乳幼女体系だけど、薄着で笑顔の彼女は目にいいね~。
「レオンさ~ん」
直後、甘えた声でレオンの腕の中へと飛び込んでいった。
……えっ、今何かあったけっけ?
僕何も知らないよ~。
――『お前、辛いからって現実逃避するんじゃない』だって?
「さーてと、僕はこれから工房で薬を作ろ~と」
レオンとアイゼルちゃんのことなど、僕は記憶喪失を起こしたようにきれいさっぱりと記憶の中から消し去って、拠点に併設されている工房へ向かった。
まずは3日間の間に採取した素材を黒雷男爵号の背中から降ろして、工房の中へ運んでいく。
体力自慢であるレオンに手伝ってもらえばすぐ終わるのだが、今あいつの傍にはいきたくない。
ラインハルト君は王宮へ報告に行かないといけないとのことで、身支度を整えるとそのまま出て行ってしまった。
「ふうっ。僕みたいな体力のない子供だと、何往復もしないといけないから大変だな~」
もちろん嘘だよ。
誰も見ていないのをいいことに、"身体強化"の魔法を自分の体にちょこっと施す。
重量が50キロはありそうな荷物を僕はひょいと持ち上げて、それを工房の中まで一度で運び終えた。
工房内では雑草にしか見えない薬草を細かく切り刻んでいく。工房の中に最初から置かれていた大鍋には大量の水を入れ、火をつけてお湯にする。
湯気が出始めたら、そこに切り刻んだ薬草を入れて、煮詰めていく。
熱湯による煮沸と同時に、薬の成分が草から取り出しやすくなるよう、熱で薬草をほぐしていく。ただ、まともにやっていては時間がものすごくかかってしまう作業だ。
「ふふ、ふ~ん」
僕は『今日の晩御飯を作るため、鼻歌を歌いながら鍋の中に入った料理の材料をお玉で混ぜる主婦』のごとく、鍋の前で隠し味の調味料……ではなく、隠し魔法を使った。
この世界の魔法学で言われている魔法の8大属性の外にある、"次元属性魔法"と呼ばれる属性の魔法。
鍋の内部を次元魔法で少しこの世界の次元と位相をずらす。
鍋内部の空間はこの世界から隔離された別空間になる。完全に今僕たちのいる次元とは異なる、別の次元になってしまうのだ。この隔離された空間には、どのような物理的な力をもってしても干渉することが出来なくなる。
その隔離した空間の内部に、僕はちょこっと"重力魔法"を施して、強力な圧力を加える。
次元魔法も重力魔法も、この世界では存在すらろくに知られていない魔法だけど、僕は普通に使えるから問題ないんだよね。
重力で圧縮された鍋の内部は、圧力鍋を通り越し、超高圧力鍋の空間になる。ちょちょいと火魔法で内部の温度を上げつつ、薬草を構成している物質に、少しだけ物質構成を変化される魔法をおまけで追加。
僕はこれらの魔法を同時に複数行使してるけど、魔法の複数同時行使って、実は熟練の魔法使いでもほとんどできない芸当なんだよね。
ま、そんなこと僕の知ったことじゃないけど。
ほどなくして、全ての作業が完了。
薬草を煮立てていた鍋に展開していた全ての魔法を僕は解除。
煮立てられた薬草が出来上がった。
「あとはここから薬効のある成分を抽出して……っと」
再び重力魔法を使って、鍋の中身を空中へ浮かべて取り出す。物質の操作に長けている土魔法で、薬草から薬効のある成分を強制的に抽出していく。取り出した成分は液体状になり、これをあらかじめ用意しておいた大きなガラス容器に収めた。
この液体には、薬の成分が濃密に凝縮されていて、薬液になっている。この薬液をかければ、肌荒れや切り傷などに、ある程度の回復効果を見込むことが出来る。
そして次に川底から採取した泥。
鍋に水を張りなおして、再び水を煮立ててお湯にする。作るのは薬なので、殺菌のためにも採取した泥を鍋へと投入。
コトコトと煮立て、その後泥の中にある小石や砂利と言った不純物は土魔法を使って鍋の外へ放り出す。
そして鍋の火を落として冷却していく。
ここでも少し水属性魔法から派生する氷属性魔法を用いることで、冷却時間を短縮する。
その後冷えた鍋の中には、肌触りのいいサラサラの泥が残された。
この泥は、肌に塗るだけで、美肌効果と美白効果がある。
女性用の化粧品に仕えるほどで、肌の保湿効果もアップするので、お肌がツルツルのスベスベになる優れものだ。
ただし、僕はそれだけで完成させるつもりはない。
煮沸して不純物を取り除いた泥と、さらに先ほど薬草から抽出した、薬効の高い液体を混ぜていく。
ふんふんふん~。
土魔法と水魔法で泥と液体を練るように混ぜていき、やがて2つが均等に混ぜ合わされた。
「完成、"超美肌効果付きパック"!」
と言うことで、元々美肌効果のあった泥に、さらに美肌効果が高くなるようにと、薬草の成分を追加した美肌パックが完成した。
"精密解析鑑定魔法"で能力を見ると、アイテム名は『超美肌パック』と、僕の命名そのままだけど、その品質は"伝説級"とでた。
その効果は美肌だけにとどまらず、どんなニキビやできものでも回復可能な効果付き。おまけに魔法を用いて成分をいろいろといじったおかげで、微量ながら魔力の回復効果まで添付されている。
そりゃそうだよね。
構成物質を魔法を使ってまでいじったことで、もはや元の材料では出すことが出来ない、別次元のレベルにまで昇華した代物だから。
とはいえ物質構成をいじる魔法は、錬金術でよく言われる『土塊を黄金にかえる』……みたいなことはできない。
あくまでも化学的な法則にしたがって構成物質を変化させているだけだ。
例えば科学的には水(H2O)からは、水素(H)と酸素(O)を取り出すことが出来る。それと同じで、元々の物質を何か全く関係のない超次元の物質へ作り変えることが出来るわけではない。
だから平原で採取した薬草と川底の泥でなければ、この"超美肌パック"を作ることは不可能なのだ。
「あとは材料がまだ残ってるから、傷薬とかも作っておこうかな~」
美肌パックを完成させた後、僕は残った薬草を使って傷薬を作成していく。
薬草から液体を抽出するまでの一連の作業は同じなので、先ほどと同じ作業を淡々とこなす。
ただ液体だと、傷口にかけた時にものすごくしみるし、液体のままだと回復効果も弱い。
なので液体ではなく、塗り薬として使えるようにする。
傷口に使う塗り薬として使う場合は、大前提としてベースとなる基剤が、人体に有害な物を使うわけにはいかない。泥なんてもってのほか。
今回は植物性由来の基剤にしようということで、僕は薬効を抽出して搾りかすになった薬草のカスを魔法でチョイチョイといじくって、塗り薬の基剤に作り替えていく。
この薬草のカスでできた基剤だけど、傷口に塗り込んだら止血剤の効果がある。
そして傷口を塞いでも、人体に害になることはない。
この基剤に薬草から抽出した液体を混ぜ込んでいく。土魔法と水魔法がここでも活躍し、ほどなくして塗り薬型の傷薬が完成した。
精密解析鑑定魔法の結果は、名前『傷薬』。品質は"伝説球"。
効果は切り傷の回復効果が極めて高い塗り薬となる。
あと、おまけで一定時間使用者の魔力回復量が微増されるという効果付き。
僕が魔法で色々と操作して作ったため、魔力の回復効果が添付されたわけだ。
材料自体は大したものでないので、驚異的な回復効果があるというわけではない。だが、本来であれば傷を治癒するだけの薬に"魔力回復効果"まで付加されたことで、"伝説級"の評価が出たというわけだ。
「あとはポーチの中に材料があるから、対バブル用の駆除剤でも作っておくか~」
バブルはこの世界での嫌われものだ。僕も今回はバブルのせいでひどい目に遭ったので、ポーチの中から材料を取り出して、大量のバブル駆除剤を作っていった。
ただ作りすぎちゃったよ。たぶんバブルを10000匹は駆除できる、アホみたいな量が……
魔法を使いながら作ってるから、割と短時間で大量生産できちゃうんだよね~。
あと余談だけど、僕は魔法をバンバン使いまくってるけど、僕が魔法を使っていることに気付いている人は誰もいないよ。
僕が使っている水魔法や土魔法だけど、これらの魔法には同時発動で、次元属性魔法の効果が追加付与されているんだよね。
次元属性魔法は、この世界とは別次元ま空間を作り出すことが出来る魔法で、この効果が付与されている魔法は、同じく次元属性魔法を使うことが出来る魔法使いでなければ感知することが出来ない。
今のところこの世界で次元属性魔法を扱える人間は僕以外に見かけていないので、この館にいる魔女アイゼルちゃんや、あるいは王都にいる他の魔法使いでさえ、僕が魔法を行使していることに誰も気づいていないのだ。
「僕、本当にすごいんだけどな~」
なのに僕の現在の扱いは、パーティー内のいらない子。お荷物といった有様なんだよね~。
グスン。




