19 可哀想な子
バブルの体液を浴びた後、3日も王都に入ることが出来なかったよ。
ゲロ臭い臭気を漂わせまくっている僕たちを前にして、王都の城門を守る警備兵たちが、「バブルの体液に塗れた人間を入れるわけにはいかない。その臭いが落ちるまでは、絶対に街の中に入れないからな!」
そう言って、手に持つ槍を僕たちの方に向けてきた。徹底抗戦の構えだよ。
……シクシク。
結局3日間も街の外で野宿をする羽目になっちゃった。
ちなみに街の外で野宿する準備なんて全くしてなかったから、焚火で暖を取りつつ、もの悲しく星空の下で寝るしかなかった。
僕のポケットの中にはいろいろ食べられるものが入っていたので、飢え死にすることはなかったし、幸い雨が降ることもなかったので、ずぶ濡れにならずに済んだよ。
その間も平原で時たま出くわす魔物を、レオンとアイゼルちゃんの2人があっさりなぎ倒していったね。
ラインハルト君は役立たずだね。
一般人でしかない彼に比べて、2人が明らかに強すぎるんだよ。
――え、「そう言うお前は何をしていたんだ」って?
とりあえず平原に生えている草とか木を口の中に突っ込んで、味見してたよ。
「食い意地が張りすぎだろ……」
ラインハルト君には呆れられちゃったけど。
「違うよ。何か薬にならないかと、僕の味覚を使って調べてるんです!」
キリっとした顔で僕は言ってやったよ。
「だ、だから、その可哀想な奴を見るような目で僕を見ないでよ~」
ただ、ちっとも信じてくれなかったよ。
全く、僕は"前世"でも"現世"でも、薬の研究に精を出しているだけだよ。
ちなみに"精密解析鑑定魔法"を使えば、それだけで草や木に含まれている成分情報を知ることが出来るよ。
専門的な知識がないと何が含まれているのが全く分からないけど、僕はちゃんと専門知識があるから大丈夫。
間違っても、訳の分からないカタカナ文字の羅列を見せられて、「日本語でOK」なんて言わないよ。
ちなみに魔法で調べれば全部わかるのに、わざわざ口に入れてるのはどんな味がするのか知りたいからだよ。
「あ、こんなところにチョコレートが落ちてる」
丸くて茶色い塊だから、間違いないね。
――パクリッ
「べっ」
口に突っ込んだ瞬間、僕はすぐさまそれを吐き出した。
≪ご主人様、それは"魔物の糞"です≫
「お、おのれ、これは"孔明の罠"だ!」
≪精密解析鑑定魔法でも、"魔物の糞"って出てましたよ≫
ハヒンッ。
精密解析鑑定魔法の内容、全然見てなかった!
「……」
そんな糞を口に突っ込んでしまった僕を見て、ラインハルト君の視線にさらに憐れみが増した。というか、もはや"手遅れ"とでも思われたのか、彼は何もフォローしてくれなかったよ。
それと後は、平原にある川の底に泥がたまってたんだけど、これも精密解析鑑定魔法で調べて、その後一口パクリ。
「あなた、相当頭のおかしい子だと思っていたけど、まさかここまでひどかったなんて……」
「スバル、君って……」
アイゼルちゃんとラインハルト君の視線が痛いね~。
ものすっごく超痛々しいよ~。
しかし、そんな2人の視線にも僕はめげない。
とりあえず平原では薬に使える草(つまり薬草)を採取し、さらに川の底にある泥も採取しておく。
「フッフッフッ、そうやって僕を憐れんでいられるのも今のうちなんだからね。街に戻ったら、僕が残念な子じゃないって分からせてあげるよ」
「あ、自分でも残念な子だって分かってたんだ」
「シャラップ!」
ラインハルト君、君って一言余計だよ。
ぼ、僕は残念な子じゃないんだから!
そんな具合で冷遇されている僕は、悲しく思いながらも泥の採取を続けた。
ちなみに採取した素材は、全部黒雷男爵号に背負わせている。
「よしよし。お前だけが、僕の味方がらかな~」
「荷物を持ち運べる分だけ、あなたより遥かに役に立っているじゃない」
「グヘッ」
アイゼルちゃん、僕のメンタルにとどめを刺さないでください。
僕は、心のか弱い男の子なんだよ~。
あ、飴玉でもなめよ~、アハハ~。
僕はポケットの中にある飴玉をなめた。
あれ?なんで僕、涙流してるんだろ?
おっかしいな~?悲しいことなんて何もなかったのに。
ほら、今の僕ってすごく上機嫌なんだよ~。
「……」
……をぃ、レオン。
お前まで同情的な目で俺を見るなよ。
僕がキッとレオンを睨み付けると、奴は無言で僕の顔から視線を逸らした。
(フフフ、奴は僕の怖さを知っているからな)
≪……≫
(スピカさんや、言いたいことがあるなら素直に言ってもいいんだよ)
≪いえ、私はこれ以上ご主人様を追い詰めないようにしておきます≫
僕、妄想の妖精さんでしかないスピカさんにまで気を使われちゃった……




