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プロローグ2

「ほへっ!?」

 気が付くと知らない場所にいきなりいました、まる。



 それが今の僕の正直極まりない状況です。


 とりあえず石造りの壁と天井が広がるホールのような空間。なんでこんな場所にいるのかなと周囲を眺めていると、右上の方から何やら刺々しい視線を感じたので、そっちをゆっくりと見てみました。


 そこには僕が天井を見るつもりで見上げないと顔を見ることが出来ない、長身の男がいました。

 まあ、僕の背が成人男性の半分もあればいい程度の超小柄なせいもあるけど、それにしてもやたらと背の高い男。

 切れ長の青い瞳に、物凄く刺々しい目つきをしてます。

 青い目と言うことで、この男が日本人でないことは確定です。西欧人のように、高い鼻梁に、日本人よりも遥かに堀がある顔だち。

 年は20代前半の若さ。

 まあ、この男の人だけでなく、僕だって日本人離れして顔に堀があるので、よく近所のおばちゃんたちから「(すばる)くんは、日本人なのに、まるでハーフみたいだよね」と言われることが多いけど。


 あ、ちなみに昴って言うのが僕の名前です。

 フルネームは肥田木昴(ひだきすばる)。黒髪黒目に、愛らしい顔立ちをしていて、近所のおばちゃんたちからは「昴君は可愛いわね」「雪の様に白くてきめの細かいお肌。羨ましいわね」「女の子だったら、綺麗だったのに」などなど、その外見をとてもうらやましがられている美少年です。

 ドヤ。ついでにキリッ。



「おい、これってお前のせいか?」

 そんなことを考えていると、僕を見下ろしている男が刺々しい視線だけでなく、詰問調の声まで出してきます。

「ムムッ、失敬な。何でもかんでも僕が犯人みたいに疑うのはやめてほしいな」


 プンプン。

 そう擬音語が付くように、僕を見下ろしてくる男に抗議します。

 腰に手を当てて、僕怒ってるんだぞ。と、可愛い顔を膨らませて抗議します。


「……」

 でも、白い目で見られちゃった。



 ち、畜生。

 僕よりもものすごく背が高いうえに、胸板がそれなりに厚くて結構筋肉質な体つきをしてるんですよ。なのに、見た目はスマートに見える。

 そのくせ刺々しい視線をしていなければ、目鼻立ちがかなりいいので、黙っているだけで街行く女性たちが、"肥溜めに群がるハエ"……ゴホンゲホン、"花に群がる蜂"のように吸い寄せられてくるという、超高スペックイケメン男。



 チッ、イケメンリア充男目滅びちまえ、爆ぜちまえ、ブサメンになっちまえ。


 などと醜い心を持つ非リア充ならそう唱えるところでしょうが、僕はそんな醜いことなんて思ってませんよ。


 …………チッ、前世で離婚しやがった妻どもめ!所詮女なんて、信用できる生物じゃないんだ!



 沸々と胸の内側からどす黒いオーラがついつい出てきてしまうのは仕方ないですね。




 フフフ、そんなことを考えていたらついつい僕の全身から黒いオーラがあふれ出していたよう。僕を見下ろしていた男が、僅かにその場から後退しました。


 失礼な奴め。おばちゃんたちから可愛いと評判の僕に睨まれて後ずさるなんて、ナンデダロウネー(棒読み)。






 しかしまあ、それはそれとして、なんで知らない場所に僕たちはいるのだろうか?

 そのことを考えるために、とりあえず僕は手に持っていた蒸かし饅頭のことを思い出しました。


「アーン」

 いきなり知らない場所にいたから、現実逃避するわけじゃないよ。

 ただ、この場所に来る前に作っておいた蒸かし饅頭を早く食べないと、冷めちゃうから急いで食べないといけないんだ。

 この蒸かし饅頭は、生地に酒粕を練り込んで蒸した饅頭で、中には体にいい薬草がたくさん詰め込まれた、超健康用食だよ。

 店では売っていない、僕が作ったオリジナルのお饅頭。


 ムグムグムグ。


 とりあえず口の中いっぱいに頬張って食べちゃおう。


 うん、噛めば噛むほど薬草の味がしみだしてくる。ものすごく緑の味がする。

 一口噛むごとに、とてつもない苦みが口の中一杯にあふれ出し、さらに雑草と何ら変わることのない草独特の味わいが口全体に広がっていく。


 ん、別においしさを追求して作ったわけじゃないからいいんだよ。

 うまくないよ、マズいよ。

 ……まあ、青汁ほどマズいわけじゃないからね。


 なんだか創作料理に失敗したのを誤魔化してるように見える僕だけど、健康食を作っただけだから別にこれはこれでいいんだ。



 てなわけで、僕はとりあえず冷静になって、これまでの出来事を振り返ってみることにしよう。






 僕の名前は、さっきも言ったけど『肥田木昴(ひだきすばる)』。

 日本の地方にある肥田木家の長男として生まれ、子供のころは近所のおばちゃんたちから「綺麗な肌」だ、「可愛い子供」だ、「目に入れてもいたくないほど可愛らしい」と、その見た目を大絶賛されまくっていた。

 まあ、自分で言うのもなんだけど、僕って子供のころから女性受けは抜群なんだよね。

 もっとも、僕のハイスペックぶりは見た目ではなく、その中身。

 地方の学校では、中学高校と学年一位の成績を常に誇り続け、高校を卒業した後は地方から上京して、日本でも屈指の超有名大学に入学した超高学歴人間なのだよ。


 専攻は薬学。

 学生時代に既に学会から一目置かれるような存在になっていたから、僕の頭脳って本当に優秀極まりないよね。


 おまけに子供のころはおばちゃんたちから可愛いと連呼されまくっていた僕だけど、成長して大人に近づいていくと共に、可愛らしさ満点だった顔体つきは、「カッコいい」と街行く女性たちが思わず振り向くほどの姿に。

 ああ、青春っていいよな。

 ただその場にいるだけで、"俺"って異性から超モテモテになれたから。


 オッといけない。ついつい(ぜんせ)に浸りすぎ、一人称が"俺"になってしまった。


 しかしまあ、学生時代は超優秀な頭脳に、異性を虜にできる見た目を持っていたわけ。



 フハハハハ、リアルチート能力もちなのだから、この程度当然だ~!


 そんな調子で、前世の僕は世の中を舐め腐っていました。



 ちなみに大学の頃に付き合っていた彼女と結婚して、その後は一流製薬会社の研究部門に就職。

 人生、バラ色だね~。




 その3年後、「私と仕事どっちが大事なのよ!」

 いきなり妻から三下り半と一緒に拳を突きつけられて別れられました。

 顔面がへこみそうなぐらいのグーパンチでしたよ。

 何が悪かったのか知らないが、いきなり離婚されてしまった。


 薬の研究に没頭しすぎで、1か月に1、2回しか家に帰らないのが悪いとか言われたんだけど……それっていけない事なの?



 だけどね、その頃の僕はとにかくモテまくった。

 人生バラ色どころか黄金期。超モテ期だったんだよ。

 その1年後には、新しい彼女が出来て再婚ですよ。



 2年後、「私と仕事どっちが大事なのよ!」

 前の妻と全く同じセリフと共に、三下り半と一緒にグーパンチを思い切り顔面に食らって別れられました。

 しかもグーパンされた時、結婚指輪として贈ったダイヤモンドが思いきり顔面に食い込んだし。

 ね、ねえ、分かってる。ダイヤモンドって地球で一番固い物質なんだよ。おまけに2番目の妻は無駄に怪力だったから、その時のダイヤモンド付きグーパンのせいで、俺の歯が2本折れたんだけど。



 フフフ、そんな離婚歴があったものの、僕の研究者としての人生は順風満帆。

 日本だけでなく、海外にまで出張。

 ヨーロッパで研究成果の発表なんて当たり前。逆に途上国にも行って、そこで未知の植物を採取して、新薬研究のためのフィールドワークにも励んだりしたよ。



 ちなみに30過ぎた頃に、ゲームセンターがブームになってね。

 格ゲーにはまり込んで、ゲーセンの筐体を陣取って、次々に戦いを挑んでくる猛者を相手に日々俺は強さに磨きをかけて行ったよ。

 うん、格ゲーマーとして覚醒したんだ俺。

 おかげで月に10万単位をゲームセンターに貢いでいたけど、家庭のない独身貴族だったんで資金は全然余裕だったよ。


 ……嘘だよ。

 資金に余裕があった理由は、2度の離婚で妻たちから莫大な慰謝料を請求されてしまって、家計が火の車になってしまったわけ。

 このままではヤバすぎると悟った俺は、どうせ金がなくなってしまうならばと、ギャンブルの親戚である"株"に手を出して、そこで危機から一発逆転。

 危うく借金で首が回らなくなりかけたところから、億万長者へとなったわけ。


 おかげでティッシュペーパーの代わりに、万札で鼻をかむなんて遊びができるぐらいになったわけ。

 いやー、バブルがはじける前の日本って最高だよなー。

 世の中金があふれまくっていて、何やっても金が集まってくる。

 そのおかげで、俺も株で使いきれないほどの金を手にできたわけだし。


 ……あ、ちなみに俺昭和の生まれだから。

 そこっ、「昭和臭がしてくる」とか、「マジ昭和生まれかよ(笑)」とか言わないように!


 ちなみに、億万長者になっても製薬会社では真面目に働き続けたけどな。

 その一方で、週末には甥っ子をゲームセンターに連れて行ったり、その挙句格ゲーで対戦相手に勝つたびに「フハハハハ、"ジャスティス仮面"に敗北はありえぬ!」とかなんとか言って回ってたけど。

 イヤー、今思うとあのころは人生充実しまくってたなー。



 ――え、「自分のことを"ジャスティス仮面"と言ってるとか、それってどんな"黒歴史"だ」だって?

 フハハハハ、気にするな。わが名は"ジャスティス仮面"。無敗を誇る格ゲーマーなり(キリッ)。


 甥っ子もまだ10歳程度だったけど、キャッキャと声を上げて喜んでくれてたよ。



 その後日本ではバブルがはじけ、不景気が始まったりしたわけだけど、俺はバブルに直撃される前に、株を現金に換えていたので、特に手ひどい損失を出してなかったり。

 仕事も順調で40歳を過ぎた頃には、3度目の再婚も果たしたわけだ。


「プヒヒ~。やっぱり俺ってもてるんだな」


 ただね、俺って昔から甘いものが大好きだったんだ。特に生クリームっておいしいよな。あれを主食にして、おかずも生クリームだけで生活していける気がする。

 他にも仕事中には飴玉を常に常備して舐めていたし、ケーキもパフェもよく食べまくったし。


 ……若かりし青春の美青年など壊滅。

 40過ぎた俺は、その頃には体重120キロを誇る肥満体のデブと化していた。

 そんな俺でも"また"結婚できたんだから、やっぱり俺ってリアルチート人間だよな。


 もっとも、3人目の妻は俺の金目当てで結婚しただけで、その後莫大な慰謝料を突きつけてきやがって、離婚したんだけどな!

 俺の資産の半分を分捕っていきやがった……



 それでも、60過ぎて無事に会社を定年までは行けたぞ。

 その頃には日本ではインターネットなんて当たり前で、"ニコニコしてる動画"なんてものも大流行。

 仕事を定年退職した俺は、独身貴族として優雅に動画制作なんかにも手を出したぞ。


 それもズバリ『御老公の格ゲー活劇!』。

 60過ぎた爺さんが、自声で元気に格ゲー動画を作ったわけよ。

 昔培った格ゲーセンスは全く衰えることがなく……と言いたいが、さすがに60の爺さんになった状態では、反射神経も思考力も鈍くなってしまってたけどな。


 それでも格ゲーで勝った際には「カーッカッカッカッ、この紋所(もんどころ)が目に入らぬか!」と動画内で俺は大声で威張り散らしてやった。

 ただし負けた時にはな……

「ああ、御老公切られちゃった」

「"(すけ)さん"、"(かく)さん"、仕事して!」

「今日は紋所が見られなかったか。南無」

 そんな具合の字幕が、画面いっぱいに流れまくったわ。



 そして70も近くなると、さすがに格ケーもしんどくなったので、MMORPGに切り替えたさ。無料を歌っているが、実態はコアな廃課金ゲーにな。

 相変わらず老後を悠々自適に暮らせる巨万の富が残っていたので、ひと月に車が買えるくらいの課金をして、廃課金トッププレーヤーとして様々な伝説を残したわけ。


 だっけど、72歳のある日。そこで俺は夜寝た後に、もう2度と元の姿で目覚めることがなかった。



 天寿って奴だな。

 72ならまだまだ生きられそうなものだが、日本の男性平均寿命と大体同じだから、まあ文句を言うほどのことでもないか。

 リアルチートで、若いころはとにかくよかったなー。

 仕事も障害順調だったし、動画なんてものでも楽しませてもらった。


 いやー、人生ってバラ色どころか黄金色だよなー。



 ……なんで向こうから一方的に言い寄ってきて結婚してくれって言ってくるのに、全員俺を振ったんだ。

 3人の元妻たちよ……



 ま、まあ、人生すべてが甘くいくわけじゃないから仕方がないか。

 多少の問題を除けば、実に充実した俺の人生だった。



 俺の人生≪完≫。





 ……そうならずに、俺は次に地球ではない異世界で転生を果たしたけどな!


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