14 旧アイゼルバーグ邸
ギルドではレオンの高ステータスぶりに、野次馬たちが散々沸いた。
「S評価だってよ」
「超一流ってレベルじゃないなら、もう人類最強って次元の評価だよな」
「よし、これなら魔王軍がいくら攻め込んできても勇者様が撃退してくれるぞ。ワハハハハ」
「だが、それだけじゃないぞ。勇者様の着ている服の効果を見たか。物理・魔法耐性(大)とかついてたぜ」
「物理と魔法の両方に大評価がつくなんて、人類最大の国であるディートスター帝国の最高級の全身金属鎧くらいのものだぜ。しかも、あれは物理に耐性大が付くだけで、魔法防御はそこまで耐性が付かないそうだし」
「てことはもしかして、伝説で語られるオリハルコンとかで勇者様の防具はできているのか?」
などなどと言った感じ。
僕のことは完全に無視だよ、無視。
僕の魔法耐性Sをちゃんと見ろっていうんだよね。
あと、僕が着ているものの素材はレオンが着ているのと同じだから、僕の装備品だって褒めてよ~。
でも、そんな僕の思いに誰も気づいてくれない。
ラインハルト君もアイゼルちゃんも、僕のことなど"アウトオブ眼中"だ。
なおレオンに関しては、奴が僕の胸中を知っていようがいまいが関係ない。今、あいつは僕の敵なのだ!
義兄弟だからと言って、常に仲がいいわけではない。対抗意識を燃やせば、時には喧嘩もするものだ。
「こ、こうなったら仕方ない。僕が王宮を追い出された間に手に入れた拠点を、ぜひとも紹介してあげよう。僕の力だけで手に入れた拠点だから、皆にすごいと言わせてあげよう」
いまだレオンに対しての興奮が収まらないアイゼルちゃんたちの前で、僕はそう宣言した。
ところが、
「拠点ですか?それならば私の館があるので問題ありませんよ。この国の貴族である私の実家ですので、部屋数は不足しておりませんのでご安心ください」
ノオオッ!
アイセルんちゃんが貴族の令嬢だってことをすっかり失念していた。
なにそれ、自分の家を拠点に使っていいなんて、卑怯でしょう!
で、でも、ここで引き下がったら僕の存在感が完全に塵芥以下になってしまう。
「フ、フフフフフ。アイゼルちゃんのお屋敷もいいかもしれないけど、僕が手に入れたのもそれに負けないお屋敷だよ」
「"屋敷"、ですか?」
「そうそう。土地は200坪で、生活空間のほかに錬金術の工房と庭付きの大豪邸だよ」
「……スバル君、、ホラを吹くのはやめておこう」
あれ、いつの間にかラインハルト君が僕に敬語を使わなくなってしまった気が。
いや、そんなことはどうでもいい。なぜ友達である君が、僕をホラ吹き扱いするのだね!?
「ホラじゃないよ。確か不動産屋の人が"錬金術師旧アイゼルバーグ邸"って呼んでたっけ?王都でも一流の邸宅の一つだって宣伝文句をつけてたぐらいだよ!」
「アイゼルバーグ様の元お屋敷ですか?」
「そうそう」
あれ?アイゼルちゃんが"アイゼルバーグ"って名前を出した途端、なぜか興味を示したぞ。
もしかして、アイゼルちゃんと名前が被っているからなのか?
いずれにしてもこれ幸いと、僕は続けていく。
「そう、そのアイゼルなんちゃらさんが生前に使っていたお屋敷。屋敷の所有証明書もちゃんとあるから、これを見るがいい」
そう言って、僕は一同の前に証明書をババンとつきつけ……
あ、あれおかしいな。
ポーチの中に入れたはずだけど、どのあたりにあるのかな~?
「えーと、あれ、これじゃないし、これはこの前拾った石ころだし。あー、うー、ムムー」
僕はポーチの中をまさぐり探し続ける。
誰だよ、ちっちゃなポーチに無駄に"次元属性魔法"なんて代物をかけたバカは。その魔法のせいで、ポーチの中が別次元の空間になっていて、要塞とか城を2、3個突っ込んでも、まだ入るくらいの広さになっちゃってるじゃないか!
……も、もちろんその魔法をポーチにかけたのは僕だよ。
だってゴミ箱にも使えるから、それぐらい広ければ、一生分のごみ捨て場所にも使えるじゃない。
ああ、でもゴミだけじゃなくて、たまに使わないといけないものまで混ぜちゃうからいけないんだよな~。
≪まるで地球のアニメに出てきた、"狸型ロボット"の"7次元ポケット"みたいですね≫
(そう言われてみればそうだね~。あの狸ロボットも、目的の道具が出てこないって慌てながら、ポケットの中から訳の分からない道具を次々に取り出して、探し物をしていることがあったっけ~)
……って、そんな話で脱線してる場合じゃないでしょう!
僕を見つめるアイゼルちゃんとラインハルト君の視線が痛々しいんだよ。
「もう、お前には何も期待してない」ってぐらい、目に期待がまったく宿ってないんだから。
「あっ、あった。やっと見つけだ。どうだ、これが証拠の書類だ!」
――バババンッ
そんな効果音が漏れてきそうな勢いで、僕は屋敷の所有証明書を一同の前に突き出した。
「……確かに旧アイゼルバーグ邸の所有証明書ですわね。でも一体どうしてあなたのような子供が……ん?
所有者の名前が"レオン・アキヅキ"となっていますわね」
――あ、ヤバイ。
そういえば書類のねつ造を頼んだ時に、所有者の名前を成人男性にしないといけないから、レオンの名前で入れたんだった。
ど、どうしよう。これじゃあ僕が買ったっていくら叫んでも、信じてもらえない。
そんな僕の心配は、すぐさま現実のものになってしまう。
「最初から信じていませんでしたが、あなたが買ったというのはやっぱり嘘だったのですね。大方、国王様が王都でのレオン様の活動拠点を用意するため、旧アイゼルバーグ邸をご用意されたのでしょう。そしてその屋敷の所有証明書をあなたが勝手に持ち出してしまった。それを自分で買っただなんて、ひどいホラですわ」
「ち、違う。本当に僕が買って……」
「はあっ、スバル君、これ以上嘘つくのはやめようよ」
ラインハルト君にまであきれられてしまう。いや、だからね、本当に僕が買ってだね……
「レ、レオン~」
僕は情けない声を出して、義兄弟に助けを求める。
だがこのイケメン男は、僕の味方ではなかった。
「自業自得だろう」
――ハヒンッ
結局僕のことを信じてくれる味方はどこにもいなかった。
まあ、そんな些細な出来事があったものの――僕が買ったはずなのに、いつの間にか国王が用意した館と言うことになってしまった――旧アイゼルバーグ邸へ到着した。
貴族の邸宅にも負けない外観に、それに負けず劣らずの館の内部。
「あら、錬金術師のアイゼルバーグ様が亡くなられて随分経っているのに、チリ一つ落ちていませんね。それに家具も揃っている。
きっとレオンさんが来る前に、国王様が館での生活がすぐにできるようにしておいてくださったのでしょう」
――いいえ、違うんです。それはね、僕が"魔法"と"財力"に物を言わせて全てやったんですよ。
そう言いたいけど、僕はもう諦めた。
アイゼルちゃんとラインハルト君の中では、この屋敷は完全に国王が用意したことになってしまっている。
そこに反論しても、もはや何の意味もない。
それにここに来るまでの道中、僕はポケットから飴玉を取り出してなめていた。そしたら、いろいろと文句を言ってやりたかった思いが、きれいさっぱり消えてしまった。
≪やっぱり、ご主人様の鳥頭ぶりは変わりませんね≫
(テヘッ、もうスピカちゃんってば僕のことを褒めないでよ。照れちゃうじゃん)
≪……≫
とまあそんなことがあったけれど、旧アイゼルバーグ邸を王都での活動拠点にして、僕たちの冒険が始まっていくことになる。
いやー、夢いっぱいの異世界冒険譚の始まりだね~。
あ、そういえば僕が国王からもらった自称伝説の武器である"果物ナイフ"だけど、あれは王宮の中に忘れてきちゃった。
ついでにレオンの奴も自称"伝説の剣"と言う名の"粗悪な鉄の剣"を、王宮にちゃんと置き忘れてる。
僕もレオンも、あんなゴミを押し付けられてもいらないから、別にいいんだけどね~。




