11 私は普段黄金を保護します。非常時には、黄金があなたを保護します
「もう2度と王宮に侵入するんじゃないぞ、クソガキ!」
「ハヒンッ」
僕は近衛兵の1人に蹴りを入れられて、王宮の外へ追い出されてしまった。
ひ、ひどくない。
僕の事を「勇者様」って一番最初の頃は言ってくれてたよね。なのにいつの間にか勇者様のおまけ扱いで、今や城に不法侵入したガキ扱いですか!
ちょっと、どういうことなの!
今すぐ訴えてやる!
弁護士はどこにいるんだ~!!!
王宮の敷地から放り出されてしまった僕は、その周囲に広がる城下町へと追い出された。僕は現在人が行きかう天下の往来で、無様に尻もちをついて寝転んでいる状態だ。
「……畜生、レオンの奴も僕のことをあっさりと見捨てやがって。いいもん、すぐに見返してやるんだから覚えてろよ~」
そう決めて、街に放り出されてしまったからには、とりあえず今すぐやらなければならないことを考える。
「よし、まずは拠点の確保だ!」
何か金目のものはないかなと、僕は太ももにつけているポーチの中をまさぐってみた。
その結果、僕は王都の周囲に広がっている城下町の一角に、"屋敷"を手に入れた。
言っておくが、"宿屋"に泊まるわけでも、"家"を手に入れたわけでもない。
所有地は地球で言えば200坪を超える広さで、そこに建坪150坪を超える2階建ての館が経っている。
さすがに地上4階建て、部屋数は百にも及ぶなんて大豪邸とはいかないが、そもそもそんな大貴族が住まうような館は、この貧乏国には存在しない。
なんたって、近衛兵が革装備レベルの国だから、当然だよね~。
で、僕が購入した館だけど、なんでも昔はなんとかって錬金術師が住んでいたそう。前の館の持ち主であった錬金術師は既に亡くなっており、その後は館の所有者が不在で売りに出されていた物件だ。
館の中はしばらく使われていなかったため、所々埃に塗れて、クモの巣も張っている始末。
でも、僕は風魔法をサラッと館全体にかけてやることで、館中の埃を窓の外へと追い払って、掃除を直ぐに完了させた。
ちなみに建物の中には黒いローブを着た魔女が「イーヒッヒッヒッ」と言いながら、いかにも怪しい薬を煮込んでそうな大釜の置かれた部屋がある。錬金術師が使っていた工房だそうで、その工房は僕もすぐに気に入った。
館の外には芝生のはえた庭も広がっていて、太陽の光が降り注いでいてとても気持ちよさそう
ちなみにこの館をどうしてお前みたいな子供が手に入れることが出来たかってことだけど、実は僕のポーチの中には純金製のネックレスが大切にしまってあったからだよ~。
『私は普段黄金を保護します。非常時には、黄金があなたを保護します』
そんなどこかで聞いた格言らしい言葉を信じていた僕は、いざと言う時の為に、黄金を肌身離さず隠し持っていたわけだよ。
で、ネックレスとはいえ本物の100%純金だから、これを換金したら館の1件を買い上げるぐらい簡単なお金になったんだ。
ちなみに純金だから、歯で噛めばそのまま歯形が残るほど柔らかいよ~。
ほら、僕ってチート人間だから仕方ないよね。
前世では2度の妻との離婚の後は、慰謝料のせいで大借金重ねていて、首も回らないほどの状態だったんだよね。
でも黄金を常に持っていれば、いざと言うときに何とかなるはずだから。少なくともある日突然見ず知らずの異世界に召喚されてしまったとしても、金になる物を肌身離さず持っていれば、すぐに金欠で死ぬなんて目には遭わずに済むから~。
≪ご主人様、その純金ネックレスですが、単にゴミ箱替わりにしていたポーチに捨てたまま、さっき見つけるまで完全に存在を忘れていただけではないですか?≫
(シャラープ!だまらっしゃい!何を言ってるんだスピカさん。僕はこう見えても前世の人生では、酸いも甘いも経験し尽くしたダンディーなおじ様だったんだよ)
≪若いころはともかく、中年以降はただの重度なオタク気質のデブ研究者だったでしょう≫
(ハ、ハウン。スピカさんまで、僕に対する扱いがひどい……)
――グスリ。
僕とは一心同体であるはずの、妄想妖精スピカさんにまでケチをつけられて、ちょっと本気で鼻から心の汗が滴ってしまった。
つまり、鼻水がでて泣きべそかきかけちゃった……
あ、ちなみにどうして僕が純金ネックレスを所持していたかだけど、これに関しては昔プレゼントしてもらったからなんだ。
確か、"宝石魔人族"の族長が、僕に献上してくれた金銀財宝の中の一つだったはずで~。
え、どうしてここでいきなり"魔人族"とか"献上"なんて単語が出てくるんだ、だって?
――エッヘヘ~。
ま、そんな小さいことはどうでもいいよね。
あんまり気にしていると、眉間にしわが出来ちゃうぞ~。
ついでながら、僕が12歳児のお子様だったせいで、純金のネックレスを持って行った質屋は換金をものすごく渋ったけれど、僕がネックレスでその頬をはたいたら喜んで換金に応じてくれたよ。
日本風に言えば、10000円札を100枚の束にして、それで頬を叩いてやる感じかな~。
でもここは日本でなく中世ヨーロッパみたいな世界だから、ファンタジーらしくお札やネックレスでなく、金の延べ棒で叩いてやりたかったんだけどね~。
ま、延べ棒はさすがにポーチ(ゴミ箱)の中に入ってなかったから、仕方ないよね~。
その後換金で手に入れた金貨の山を持って、館を販売している不動産屋に行ったんだけど、そこでは「お金は足りているのですが、成人していない12歳の子供では土地の所有証明書に問題が、ナントカカントカ~」って気まずそうに言ってきたよ。
でも、大丈夫。
そう言うことがお得意な、ちょっと日の光に当たったらマズい世界の人に(金の力を使って)頼み込んだら、あっさり書類を"偽造"してくれたよ。
書類上での土地と屋敷の所有者は、『レオン・アキヅキ』。奴はこの世界ではとっくに成人男性だから、書類上では年齢の問題なんて全くなくなったよ~。
アッハッハッ~。
その後、僕は手に入れた館に、事前に頼んでおいた家財道具一式を納入してもらい、わずか1日で、館を住むことが可能な状態にしたよ。
お金をたくさん弾んだから、皆笑顔で僕の言うことにヘラヘラと笑みを浮かべながら従ってくれたね。
(金の価値を知らないアホウなガキめ。相場以上の金額でたっぷりぼったくらせてもらったぜ)
皆心の中でそう思っていたけど、僕の心は海よりも広く、大宇宙の深淵よりもなお深いから、ちょっと相場より高い金をとられたからって、ちっとも気にならなかったし。
と言うわけで、僕は異世界アルスギルナ。そこにあるクライネル王国の王都に召喚されて2日目にして、本拠地を確保したよ。
まあ、本当は"異世界召喚"でなく、異世界で生まれ変わった"転生者"なんだけど、その辺の小さなことはどうでもいいよね。
この日は朝から、金貨をたくさん手に入れたり、館を買ったり、掃除をしたり、家具を揃えたりで、あっという間に時間が過ぎてしまって、気が付いたら太陽の光が落ちて夜になってたよ。
「本拠地確保を記念して、今日は豪華な晩御飯を食べよう~」
僕は王宮でレオンの部屋からパクった果物をポーチから取り出して、それをハグハグと食べて行った。
さすが王宮に飾られていた果物。
兵士たちの装備は革製の鎧のくせして、この果物はとっても甘くておいしいや~。
≪ご主人様、その果物にはレオンを眠らせるために仕込まれていた睡眠薬が盛られているのですが……≫
笑顔で果物を頬張る僕の脳内で、スピカが何か言った気がする。けど、その言葉が終わる前に、僕は健やかな寝息をたてて床に倒れるようにして眠り込んだ。




