10 ハーレム主人公
「ドゥオリャー」
――バコン
僕は掛け声と共に、地球では高級木材として家具や楽器に使われているマホガニー材を思わせる重厚な両開きの扉を、蹴破るようにして押し開けた。
ちなみに押し入った部屋はレオンが泊まっている部屋なんだけど、僕が泊まった近衛兵の宿舎とは違って、国王のいた城にある部屋の一つだ。
部屋の中は物凄く広くて、僕が泊まった底辺労働者の宿舎に毛が生えた程度の部屋とは大違い。あの部屋が20室ぐらいは入ってしまいそうな広々とした空間だ。
おまけに床にはフカフカの赤い絨毯が敷き詰められていて、部屋にある高級そうな机の上には果物が盛られている。
「ワーイ、御飯~」
ついさっきまで僕は怒っていた気がしたけど、そんなことは全てきれいさっぱり脳みそ中から消滅した。
とりあえず果物に手を出して、それを太ももにつけているポーチの中に片っ端から放り込んでいく。
≪ご主人様、早く食べないと痛んでしまうものばかりなので、ポーチの中に入れたまま忘れないようにしてください≫
「うんうん、分かってるよ」
頭の中で注意してくれるスピカに元気よく答える僕。
「ところでレオンの奴は~?」
それでも本来の目的はもちろん忘れていない僕。
といってもついさっきまで激怒していた感情は、たった今手に入れた果物のおかげですっかり消え去っていた。
なお、この部屋の中にレオンはいない。
ただし、僕は感知魔法を使って既にレオンの居場所は把握済みだ。
「うおりゃ|」
そう叫んで、僕は奥の部屋へと続く扉を開けた。
扉の向こうは寝室になっていて、天蓋付きの豪奢なベットが置かれていた。ダブルベットだろうけど、大人でも4、5人は一度に寝られそうな巨大さ。しかも寝転んだら体がそのまま沈んでしまいそうなほどやわらかそう
そんなベットの上に、上半身を起こしているレオンと、その胸に抱きつくようにしてしなだれかかっている魔女アイゼルちゃんの姿があった。
ちなみに下半身はシーツで隠れているけど、2人とも上半身は裸。
まあ、当然分かるよね。シーツに隠されてはいても、2人の下半身も素っ裸で完全全裸状態だって。
「……レオン、昨日の夜は随分とお楽しみだったみたいだね」
僕はニカリと白い歯を浮かべて笑いかけた。
「アイゼルの奴がどうかって誘ってきたからな。誘ってくる女を相手に手を付けないなんて、男として廃るだろう」
そう言ってレオンは恥じらうことなく、傍でしなだれかかっているアイゼルちゃんの水色の髪をなでた。
「んんっ」
そしてアイゼルちゃんは艶めかしい声を出しつつも、しっとりと濡れた瞳をしている。
とはいえ僕に見られて恥ずかしいようで、シーツを押し上げて自分の体を隠そうとする。
「ダメよ、子供がこんな所を見たら」
身長は僕と大して変わらないくせして、実年齢21歳のアイゼルんちゃんは、そう言ってたしなめるように言った。
――レオン、お前俺がいない間に簡単に寝取ってんじゃねえよ!
お前、睡眠薬ぐらいで眠らされる体してないだろう。なのに色仕掛けを簡単に受けて、自分の方から寝取っちまいやがったな!!!
僕は心の中で叫んだ。
(ひどすぎる!こういう異世界ヒロインとあれやこれやするのは、主役である僕の特権のはずなのに、なんでお前が既にフラグを通り越して、"ゴールイン"してるんだよ!
これじゃあまるで、僕のポジションがハーレム主人公の傍にいる気がいいだけの"男友達"の立ち位置じゃないか!!!)
≪ご主人様、現実なんてこんなものですよ≫
ハググッ、こんなときにどうして冷静でいられるんだスピカ!
……あ、でもやっぱりいいや。女なんて奴はね、所詮男を見た目でえり好みするか、お金とか地位につられるだけの生き物なんだよね。
そ、そうだもん。
そしてその挙句、男に飽きたら捨てるような生き物なんだから。
うん、絶対そうに決まってる。
だって、そうでなきゃ僕の前世での3度の結婚と離婚も……
ブツブツブツ。
僕は、目の前での羨ましい光景から現実逃避するため、少しトリップして前世の記憶を必死に呼び起こしていた。
「リア充なんて、爆ぜちまえ!」
だけど、最後に僕はレオンの奴にそう叫んでやった。
「追いいたぞ。このクソガキ!」
「勇者様の寝室に踏み込むとは、不埒な奴め!」
現実逃避に浸りかけていた僕だけど、背後から罵声が響いた。
貧乏王国に仕える革鎧を着た近衛兵たちが、団体になってやってきた。
そして近衛兵たちの全員が、僕と、ベットの上でねんごろになっているレオンとアイゼルちゃんの姿を見て、思い切り動揺をあらわにする。
「ゆ、勇者様、アイゼル様」
男女の情事後の光景に、近衛兵たちは唖然。
あ、ちなみにこの近衛兵たちだけど、僕がここに来るまでの間に、僕を誰何して捕まえようとしてたんだよね。
おかしいよね。僕も、勇者様として召喚されたはずなのに、近衛兵の宿舎から、王様の居城に踏み込んだ途端、まるで犯罪者が忍び込んだかのような扱いをして、僕を捕まえようとしてきたんだから。
もっともこんな間抜けな兵士たちに捕まるほど、僕はのろまじゃないよ。
体はただの12歳の子供にしか見えなくても、魔法を使えば身体能力を上げて大人より早く走ることだってできるし~。
で、逃げながらレオンの所まで来たわけなんだけど、その兵士たちがとうとう僕に追いついてきてしまったわけだ。
とはいえ追いついた先で男と女の姿を見せられるなんて、近衛兵たちもどういう反応をしたらいいのかわからなくなっちゃうよね~。
「うわ、最低な人たち。こんな光景を集団で見学に来るなんて、どんな羞恥プレイなんだろ。プププのプ~」
僕は茫然としている近衛兵たちに向かって笑ってやった。
「グヘッ」
しかし直後、近衛兵の1人に僕は首根っこを掴まれてしまった。
「勇者様、アイゼル様失礼いたしました。不埒な侵入者がいましたので、今すぐ連行いたします」
それだけ言って、近衛兵たちは室内での気まずさから逃げ出すため、僕を捕まえると全力で逃げるようにして部屋から出て行く。
「ヒーン、僕の扱いがひどすぎる~。ボクも勇者様じゃないの~」
そう叫ぶものの、兵士たちは全く取り合ってくれない。
「シリ……スバル、頑張れよ」
「は、薄情者~」
さらには連れ去られていく僕に向かって、レオンがそんな言葉までのたまった。




