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魔王の守人  作者: 木賊苅
1部
9/33

3-4


 その頃、莉央とカークは観客席にて煌の試合を見守っていた。時々上がる周りの歓声で耳が痛い。



「煌君、すごい………………」



 今までの試合とは比べ物にならないスピードに力。ぶつかりあう剣から時折火花が飛んでいるのが此処からでもわかる。

 煌に助けてもらった際、莉央は上級生の男子を瞬く間に倒してしまった彼女を見て、噂の通りにとても強いのだと思った。

 しかしどうだろう。今の彼女の動きは、先日のいざこざの時よりも遥かに速い。その上古代魔術だと思われる、見たこともない召喚術の略式。魔力の消費の凄まじさから、人間では二人以上の魔力でしか発動できないとされている物だ。確かに召喚は魔術の一つなのでルール違反ではないが、学生の身では戦闘が行える魔獣を召喚することが出来ない者の方が多い。彼女の魔力保有量はどこまで桁外れなのか。



「さすがは【白銀の戦舞姫(はくぎんのいくさまいひめ)】言われるだけあんなぁ」

「ぇ、はく?」



 ぽかんとして試合に見入っていた莉央は、隣のカークの呟きに含まれる聞きなれない呼び名に、訝しげに首を傾げた。

 そんな彼女にカークは不思議そうな顔をしたが、すぐに合点がいった様子で、あぁ、と相槌を打つ。



「煌ちゃんのことや。ルシアの守人やっちゅうことで、魔界でごっつ噂になっとんよ。“白銀”は見た目、“戦舞姫”は戦っとる時の剣舞を指しとる」



 ほら、舞っとるように見えるやろ?と壇上の煌を指すカーク。

 それにつられるようにして再び試合に視線を戻した莉央は、その言葉にすぐ納得した。

 煌は流れるようにして隼と戦っていた。といっても彼女たちの動きはそう簡単に目で捉えることが出来ない。あっちにいると思ったらいつの間にかこっちに移動しており、場所を変えて金属音が響く。

 剣舞とは一種の剣術だ。舞を踊っているかのように軽いステップを踏みながら動き、無駄の少ない動きで止まることなく、流れるように敵を攻める。煌のはこれに剣術のみならず体術も織り交ぜた独特なスタイルで、相手は彼女の動きが読みにくくなる。

 すごいなぁ、と莉央は素直に感心しながら、口内で遠見の魔術の詠唱を呟き、煌の対戦相手を見る。煌も凄いが、彼女と同等の試合をする相手にも興味を持った好奇心がゆえだった。

 が、莉央は対戦相手の顔を見た瞬間、さぁっと顔色を悪くする。



「ぁ、の人……………」

「莉央?」



 突然様子が変わり、怯えたように声を震わせる莉央に、カークは彼女の顔を覗き込んだ。背中を優しくさする。

 莉央は彼の手をぎゅっと握り、早まった心臓を宥めようと大きく息を吐いた。そして、泣きそうな顔でカークを見る。



「あの人、図書館で例の先輩といた人で……………」

「何やて?」



 莉央の言葉に眉をひそめたカークは、己の腕にしがみついている彼女の体が震えていることに気付き、はっと息を呑む。

 例の先輩というのは、何度もしつこく言い寄ってきていたあの上級生のことだろう。図書館と言えば、莉央が乱暴されそうになったのを煌が助けた場所で、その時共にいたということは、つまり………………



「…………殺す」



 目を据わらせたカークが、怒りを押し殺した低い声で唸る。

 嫌がる莉央を見ていたくせに連れを止めなかったのだ。妹のように莉央を可愛がっているカークの中では、例の上級生の共犯者である。



「ぶっ殺したる!」



 呪詛を吐くように吐き捨てると、カークは立ち上がろうとする。

 それを止めたのは莉央だった。しがみ付いた腕に全体重を乗せる。



「ダメだよ、カーク!」

「何でや!?」



 何故止めるのかと、苛立ちを隠さず怒鳴るカーク。しかし莉央がびくり、と肩を揺らしたのを見て我に返ると、堪忍、と小さく謝った。

 周りに座っていた観客たちが何事かと視線を向けるが、大したことはないと踏んだのかすぐに逸らされる。



「私は煌君に助けてもらったから、大丈夫。ちょっとパニックになっちゃったけど、何もされなかったし。それに、煌君の邪魔しちゃダメ……だよ」



 でも、と強い口調でカークに言い聞かせていた莉央が言葉を濁す。先を促すように頭を撫でられ、困惑に瞳を揺らしながら続けた。



「相手の人、前に会った時と何か違うの」

「違う?」



 何が違うのかはわからないけれど、何処かが違う。

 心配そうに顔を伏せ、小さな声で呟く。

 これは試合、煌も心配することはないと笑っていた。大丈夫何も起こらないと自分に言い聞かせても、嫌な予感と不安は拭いきれない。絶対にないと思っていても、もしかしたらと。

 その時。闘技場に響き渡っていた声の種類が変わった。歓声から、恐怖と不安の入り混じった悲鳴へと。顔を上げた莉央とカークの耳に、続いて痛みに耐えるような叫びが入る。

 二人は視線を壇上へと戻し、目に入った光景に愕然とした。

 馬乗りされ地面に押さえ付けられた煌の肩口に、日光に反射した剣が深々と突き立てられている。引き抜かれたそれは中ほどでぽっきりと折れ、降り注ぐ日光に反射した刃が彼女への追撃を狙う。

 煌は、動かない。



「審判官は何やっとんや!?」



 これが肌が裂けたりした程度なら試合は続行されるだろう。が、これはさすがに止めに入らないのがおかしいほどの事態だ。ただの流血ですまない、下手をすれば肩から先を失うこともありうる怪我なのだから。

 慌てた様子でカークが何やら叫んでいるが、すでに莉央の耳には聞こえていない。弾かれるように席から立ち上がると、目の前にいる人々を押し退け掻き分け、手すりに飛びつくようにして身を乗り出した。



「煌君……………!」



 予感が、現実になろうとしていた。




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