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魔王の守人  作者: 木賊苅
閑話
32/33

秘密の逢瀬

かなり短いです。

「おや殿下、どうしました?」



 魔界の王城の廊下を歩いていたアルスは、前方に自身が仕える主であるルシアの姿を見つけ、不思議そうに首を傾げた。普段滅多に自室から出てこない彼が、珍しいこともある。

 一方、突然声を掛けられたルシアは、今まさに城を出ようとしていた足を止めた。



「……アルスか」

「はい」



 振り返って不機嫌そうに名を呟く主に、アルスはにこりと笑う。彼の顔が不機嫌そうなのは、いつものことである。というか、これが普通、通常装備だ。



「一体何処へお出かけに?」



 今日は確か、彼に下された任務はなかった筈である。任務がないのに、彼は一体何処へ行くというのか。



「……お前には関係ない」

「お供しますか?」

「いらない。来るな」



 ぴしゃりと言い放たれた言葉に、アルスは「おや」と意外そうに目を瞠った。、

 彼、ルシアに仕えて彼此三百年ほど。彼の強い意思らしきものが篭った声を、初めて聞いた気がする。

 そんなことを思っているうちに、ルシアの姿が消える。



「おやおや。そんなに焦って何処へ行くのやら」



 面白そうに、くすくすと笑うアルス。

 これは、かなり気になる。



「来るなと言われても、行かない手はないですねぇ」



 実は命じられた任務があったりするのだが、そんなものは後回しだ。今は、彼の行き先の方が気になる。

 アルスは一歩王城の外へ足を踏み出すと、ルシアの“力"の軌跡を辿り飛んだ。











 ルーシャスラの後を追い、アルスが辿り着いたのはなんと人間界。しかも、深い森の中だ。

 何故、こんな場所に彼が来るのか。

 そんなことを思いながら、アルスはルシアの姿を探して歩き始める。勿論、足音と気配を消して。

 十分程して、やっと彼の姿を見つけたアルスは、木の影に身を潜め、こっそりと様子を窺う。

 彼は何か、もしくは誰かを待っているのか、ある一点をじっと見つめている。


 そして更に待つこと数分……

 がさり、と背の低い木の枝が揺れた。そこからひょこり、と顔を覗かせたのは―――…



「ルーシャ!」



 一人の少女が、嬉しそうに満面の笑顔でルシアに駆け寄る。年は五、六歳。背まで届く長い白銀の髪に、深海を思わせる蒼い瞳をしている。

 少女はそのまま彼の足に飛びついた。その頭を、ルシアがくしゃりと撫でる。



「今まで何処に隠れていた煌」

「あのおっきいきのうえ!!でも、ルーシャずっとみてただろ」



 ルシアがしゃがんで視線を合わせてやると、少女、煌はむぅとむくれる。折角隠れていたというのに、すぐに見つかったのが面白くないらしい。

 成程。彼が城を抜け出したのは、この少女に会うためか。何ともおかしな図だ、とアルスが何故か感心していると、



「今日は何をする?」



 ひょいと片腕で煌を抱き上げ、問い掛けるルシア。



「んと…あれがいい!ひがぼってでるやつ!」

「炎系の魔術か?」

「うん、それ!」


 抱き上げられて、きゃあっと嬉しそうに声を上げる煌に、ルシアは笑う。

 アルスは、それこそ驚きで言葉を失くした。自分以外なら、きっと気を失っていたに違いない、とまで思う。

 普段戦闘時に見せる、見た者の背筋を凍らせる冷笑ではなく、穏やかに崩れた優しい笑顔。

 それは、本当に小さな変化だけれど………











「やれやれ、いつもの警戒心は一体何処へやったのやら……」



 目の前で木に背を預け、仲良くぐっすりと眠っている二人を見て、思わず苦笑する。小柄な煌はルシアの膝の上に座らされ、すっぽりと抱き込まれている。

 いつもは決して解くことのない警戒。しかし今の彼は、無防備の一言に過ぎる。恐らく殺気の一つでも出せば飛び起きるのだろうが………

 小さく息をついたアルスは、ふと彼にもたれ掛かり、擦り寄る様にして眠る煌を見る。



 近付いてみてわかった。

 彼女の中に、王妃が求める者がいる。



 本来なら、すぐにでも戻って報告しなければならない事実。しかし……

 目を閉じると、初めて見たルシアの笑顔が思い浮かぶ。

 ………黙っていよう。幸い、このことを知っているのは自分だけのようだから。

 彼女ならきっと、凍った彼の心を溶かしてくれるだろう。



「……良い夢を、姫」



 笑みを浮かべ一礼したアルセルークは、次の瞬間その場から姿を消した。



 ローズクイーン襲撃の、半年前のことである。




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